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17話:ユレゾンコンビネーション

 だが、ゾン子の命運は其処で尽きなどしなかった。

 大いに暴れる魔渦へ晒されつつも、彼女は負けることなく五体を示す。その姿へ目立ったダメージは認められない。

 何故ならゾン子を包んだ七色の光が攻勢魔力を遮蔽し、狂猛な蹂躙の牙を届かせていないからだ。

 対魔撃用特化防御魔法。それがゾン子を覆い護り、黒ローブの魔法を跳ね除けている。


「莫迦な。この状況で防御に割く余力があるとは思えん。あの器も依然として魔力を封じられている。助けなどありようもない」


 無傷のゾン子を目の当たりにし、初めて黒ローブから感情の覗く声が聞こえた。

 僅かだが確かな驚きの色が含まれている。


「何処から魔力を確保して……いや、待て。魔力の流れを感じる。なんだ、これは……我が同胞の骸から? マジックドレインだと」


 ご名答。

 僕が最初に行った詠唱は、死した魔物から魔力を吸い取り誘引し、利用するための魔力吸奪魔法だ。

 ゾン子と僕が倒した大ムカデの死骸から残存魔力を奪い集めて、特化防御魔法に転用させてもらった。

 氷雷の渦に対抗しながら二連詠唱は相応に精神を擦り減らしたけど、やるだけの価値はあったね。


「デーモン族の十八番は、他人を利用することなんだよ。いけ、ゾン子!」

「ヴ……ヴ……」


 魔法攻撃に対して極めて高い対抗性能を誇る特化防御魔法によって、ゾン子は無事に荒ぶる魔渦を潜り抜ける。

 七色の光球を纏って兇暴な遮りから躍り出ると、その直ぐ目前に黒ローブの姿があった。

 彼女は与えられた命令を着実に決行する。魔法風の助けと自身の跳躍力を合わせ、速度と勢いの乗った右拳を、到達した黒ローブへと叩き込んだ。


「まさか、こう来るとは」


 しかし拳打が繰り出された刹那、黒ローブは予想外の反応速度で直撃を避ける。

 後ろへ退きつ状態を逸らし、フードの真ん中へ届こうという死の拳を躱していた。

 ただ完全な回避とはいかず、ゾン子の剛打は黒ローブの左肩へ命中する。

 大ムカデを一撃で絶命させる闘鬼の拳だ。叩き込まれた衝撃で全身のバランスが崩れ、低い苦嗚の声が漏れ聞こえる。

 形勢を覆すには、それで十分だった。

 外からの妨害は黒ローブの状態を乱し、集中にも明確な悪影響を及ぼす。これによって魔法の維持力が侵され、強烈に押し寄せていた氷雷の渦は統制を欠く。真っ向からぶつかり合っていた魔力同士の均衡は、ここへきて完全に崩れた。

 押し潰されつつあった僕の風槍は、相手側からの圧が衰えたことで一気に盛り返す。絶好の間隙を突き、体勢の立て直しを許す前に中央突破すべく猛進。螺旋描いて空気を巻き掻き、回転しながら大渦を刳り抜いた。

 注ぐ氷の粒と雷の放電を吹き散らし、魔力が集中する基点部を貫通する。組み上げられた術式を強引に掘り、発動体を破砕して抹消した。魔渦は遂に破られ、周囲に余波を放って霧の如く果てて去る。


「通った!」


 霧散した魔法の先を、風貫魔法は疾走した。

 そこより先にはもう遮るものはない。術者である黒ローブまで一直線。差し止める理由もなく、僕の螺旋風槍は敵体の身体中心へと激突する。

 風撃の強衝を叩き込まれ、黒ローブは耐えること叶わず吹き飛ばされた。


「むぉ!? ぐぁぁッ」


 痛ましい嗚咽を落とし、黒ローブは幾許の距離を飛ぶ。

 そうして進んだ後域で、背中から洞窟の硬い岩床へ倒れ落ちた。

 けたたましい衝突音が響き、これを最後に相手が起き上がることはない。今まであった魔力の波動も急速に弱まり、完全に集中が途切れたことを教える。


「ふぅ~、なんとかなった」


 黒ローブの撃破を見届けて、僕は長々と息を吐いた。

 肩の力を抜いた途端、眩暈がする。両手は汗でひどく濡れており、相当な緊張状態だったと今知った。

 魔力消費も激しい。さすがにこれ以上は戦えないだろう。こっちはこっちで限界まできている。


「ゾン子、よくやってくれたね」


 今回最大の功労者である彼女へ、労いの言葉をかけた。

 僕の命令に従っただけだとは分かっている。けれどゾン子の勇猛果敢な奮闘がなければ、この結果は得られていない。それを思うと、とても無視できる気分じゃなかった。


「ヴ……ヴ……」


 ただし返ってくるのはいつもと同じ、気合も感情もない虚ろな呻きだ。

 僕の声に反応して頭はこちらを向きはすれども、目の焦点は合っておらず、結局何も見てはいない。半開きの唇から、出会った時から変わらない調子の空気音が漏れるばかり。

 直前までの激戦など素知らぬ様子に、こっちの力まで抜けてくる。僕も思わず苦笑した。


「キミはとことんマイペースだなぁ」

「あやつを返り討ちにしてしまいおったか。大したものじゃ」

「プルル~」


 背後からの声に振り返れば、ルシュメイアとプルルンが戻って来ている。

 黒ローブに動く気配がないことを察し、警戒を残しつつ再びこちら側へと。

 ルシュメイアは興味と敵愾心を半々に、仰向けに倒れて動かない追っ手の姿を覗き見た。


「トドメは刺したのかえ?」

「いいや。殺すつもりはないよ」

「なんじゃと!? 妾にこのような辱めを与えた一味ではないか。ここで始末をつけずなんとする!」


 自分に嵌められた首輪を指して、ルシュメイアは声高に叫んできた。

 憎き相手に報復したいという底意を隠さず、興奮気味に詰め寄ってくる。

 彼女の気持ちも分からなくはないけれど、僕には意趣返しへ付き合うつもりはない。


「よもや、そやつを手勢に引き入れる腹積もりか?」

「ああ、そうだよ」

「徒労じゃな。既に一党を組んでおる輩故、素直に話など聞くまいに」

「そんなのは分からないさ」

「ほほぉ、今のうちに洗脳でも施しておくと?」

「まずは話し合うべきだろ。自我を壊して操り人形とするには惜しい」

「どの口がほざくか」

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