16話:氷雷と風槍の魔法対決
「ヴ……ヴ……」
正面から数匹の敵が迫るも、ゾン子は道を譲らない。
速度を維持したまま突撃し、緩みなく攻勢へ転じる。
五指を揃え一直線に放った貫手で、最初の一体が頭面を刺突した。移動速度の加味された腕閃は大ムカデの口部へと減り込み、与えられた力へ応じ、より深々と食い込んだ。
ゾン子は大ムカデの体内へ潜らせた腕を、一息で上へと振る。すれば魔蟲の上面体を引き裂いて、彼女の腕は外へと抜けた。
次に右足を踏み出し、下から狙い走る大ムカデの胴部を足裏に捉える。敵体の位置を正確に当てた踏み下ろしにより、甲殻を砕いて体組織は破壊された。長々とうねる体は半ばで分断され、跳ねる前頭体をゾン子は躊躇なく蹴り上げる。
空中へ浮いた大ムカデの前半分を、彼女は即座に高速の回し蹴りで打ち据え、横方へ吹き飛ばしてしまう。回転しながら横へ飛ぶムカデの半体は、ゾン子へ向け口のハサミを開いていた別の大ムカデへと激突。二匹共々勢いに圧され、洞窟の壁面に叩き付けられた。衝撃によって潰れ弾け、緑色の体液を周辺へと撒き散らす。
最寄りの障害を全て破り、ゾン子は与えられた命令の再実行へ。
「氷雷の乱舞、きたるものを討ち滅ぼす鏃と成って吼えよ」
目標へ一直線に駆けだそうとした矢先、黒ローブが次の魔法を発動させた。
集められた魔力が詠唱によって導かれ、多数の氷粒を渦巻かせ前方へ放たれる。加えて氷同士の合間に稲光が行き交い、凍気と雷火がゾン子を襲う。
「一針に澄まされた風の渡り、研いで絞り打壊の焦点を此処に」
応じて僕も魔法を詠唱した。
集めた魔力を一点に凝縮し、生み呼ぶ風の揺らぎを螺旋状に回転させる。広範囲ではなく中心へのみ風域を限定させ、吹き荒ぶ破槍として射ち出した。
風貫魔法は驚異の速度で宙を奔り、ゾン子の脇を抜けて、彼女より先に黒ローブの氷雷渦へと飛び込む。氷の粒と雷の洗礼を浴びつつ、僕の風槍は大渦の中央を行き、魔法の起点部へと到達した。
最も破力の強い魔渦の根源へ届き、螺旋回転する風の穂先がこれと削り合いを始める。
氷雷の魔渦は外へ向けて圧力を飛ばし、何者も近付くことを許さない。対して僕の魔法は直路を突破するために、渦中の芯をひたすらに掘り進んだ。
押し流す魔力と突き進む魔力がぶつかり、接点では眩い閃光が迸る。
技巧で組み立てられた相手の魔法を、上回る魔力量で突き崩そうとする僕の魔法。相反する力は同等で、それ故に絶妙な拮抗状態が構築されていた。
「粗削りだがセンスはある。意図していないだろうに魔力の練りが流麗だ」
「この状況で僕の評価? 随分と余裕があるじゃないか」
「その通りだ。実際に余裕があるからな」
言った直後、黒ローブの操る魔法が一気に重みを増した。
氷の粒はより大きく、雷はより激しく変化する。渦自体も大きさと荒々しさが引き上げられ、僕への反発力はさっきまでの比じゃない。
「ぐ、おぁぁ!?」
強大になった魔渦へ押され、そのまま弾かれそうになった。
なんとか堪えはしたものの、一瞬でも気を抜けば風槍は砕かれてしまうだろう予感がある。
黒ローブは少ない魔力で高い威力を実現していたけれど、そこへ僕と同程度の魔力を上乗せしてきたんだ。当然、大幅な優位化が進む。技術と魔力の双方で上を行かれては、いくら何でも分が悪すぎる。
「よく耐えているが後はないぞ。この抵抗が破れ、死霊族を撃つも時間の問題だな」
「くっ、そ、ぉぉぉ!」
「その死霊族は脅威だが、所詮は下位アンデット。魔法耐性などあってないようなものだろう。我が魔力を一撃でも受ければ、それで粉微塵となる。違うか?」
黒ローブの見立ては正しい。
高度な死霊化魔法でアンデットとなったリッチやレイスならともなく、単純に屍体を甦らせただけのゾンビ達は魔法に対して脆い。大火力の一つでも浴びてしまえば、致命的なダメージを免れない。
だから死霊使いは普通、アンデットを壊れること前提の消耗品として用いるか、魔法戦の矢面には立たせないよう扱う。
「ゾン子、跳べ! 僕の魔法を踏み台にして、あの渦を越えろ!」
「ヴ……ヴ……」
僕の指令を受けて、ゾン子は忠実に動き出した。
氷雷の渦と風槍が鬩ぎ合う中心点を目指し、怖れを抱かず駆け込んでくる。
「悪足掻きだな。我が魔域は既に広範。どう動こうとも通り抜けられるものではない」
黒ローブは厳然とした事実を、淡々と告げてきた。
言われるまでもなく分かっている。だけど僕は足掻くと決めた時は、惨めだろうが情けなかろうが徹底的に足掻いてやろうと決めてるんでね。
魔法同士の衝突区に近付いてきたゾン子は、両脚を浅く沈め、躍動の準備に入った。
勝負はここから。僕が使うべき魔法は二つ。
「伏した身、落ちた力、零れた息吹、導きに従い糧となる路を往け」
「正しき六芒ひとえに並び、求めの加護を慈悲なる内へ齎し給え」
ゾン子が跳び上がった時、その全周を七色の光が包んだ。
彼女を中心にして七光は球状に整い、一つの強固な結界領域を形成する。
光に護られたゾン子は僕の放つ風貫魔法へ舞い乗り、螺旋の風を両足に受け止めた。吹き上がる魔力の渡りをバネに、再度身を撓め、氷雷渦の向こう側目掛けて大きく跳躍する。
しかし彼女が行く範囲には魔渦が聳え、情け容赦ない破壊の大流で待ち受けている。黒ローブの言った通り、上昇風の力を加えて尚、飛び越えることはできない。
渦巻く氷粒と雷咆の魔法が、嘲笑うようにゾン子を飲み干してしまう。




