84 冒険者Aさんと昔のやんちゃ話 ①
あらすじ:キヘエさんは{表裏比興の者}と呼ばれたり呼ばれてなかったり
視点:将軍家 旗本筆頭 ムトウ家当主 キヘエ・ムトウさん
『』:アルファさん
「にーさん、にーさん!
アルファのにーさんが世界中周って
色んなやんちゃしとるのは結構聞きますけど
ワイとかはアレですよアレ。
伝説になった{武道指南役の神前試合}!!」
「で、伝説の・・・?」
『・・・・・・・・・?』
「ほら、アレですやん!
将軍家の指南役決めた時のアレ!!」
『・・・・・・・・・?
え・・・そ、そんなんあったっけ?』
「・・・あーーーーー、ご主人様。
あの事じゃないですか?
ミケは聞いただけなので実際に見てませんけど。
20年ぐらい前に無理矢理推薦で出されたっていう試合。
確か・・・{何か、ムカつく相手だったから
ちょっとガチで殺っちゃった、てへぺろっ☆}って
おっしゃってた試合」
「いや、ちょっとって・・・」
「おじさま、かわいい!」
「・・・主君、ひょっとして
父上がおっしゃってた神前試合の事でしょうか?
ガチ過ぎて、居並ぶ全員がドン引きしたっていう」
「うん、それ」
『・・・・・・・んっ!?
むむむ!? あーーーーーーーーっ!!!!
あった! あったな!!
・・・よーー、そんなん覚えとったなジンくん。
本人ですらすっかり忘れとったってのに~』
「・・・まあ、幼少のワイが見て
数日、夜中にうなされるぐらい
軽くトラウマになった事件やったもんで」
『わはは、そりゃすまんかったな~。
いやいや~~、確か当時って・・・
【五十六商会】関連でごたついとった時期でなー。
義弟2人への引継ぎやら何やらで
そんなに心にも余裕無かった頃なんやわ。
おまけに、まだ行者も成り立てでな。
さあ、これから~って時に水差されたんや。
うんうん、しゃあないしゃあない!
それを思えば、俺も随分丸くなったもんやなー』
「うふふ、そういえば、あなた。
覚えてらっしゃいますよね?
私達、あの神前試合で
初めてアルファさんと知り合ったんですわよね~?」
「当然、覚えてる。
友であり恩人でもある、アル殿との出会いだからな。
忘れるわけがなかろう?」
そうなのだ。
味方からすらも裏切り者・卑怯者と謗られる私にとって
アル殿は数少ない信じられる大切な友だ。
だが、それ以上に、{ムトウ家}にとって恩人でもある。
私が生まれたのは{ムトウ家}の主流に当たる家だったが
私には優秀な兄が2人居り
どちらかが家を継ぐ事が決まっていた。
その為、私は物覚えがつく頃に
当時の主君家への人質として出されている。
ま、当時は地域を治める豪族の【大名】が
まだまだ好き勝手やってた時代であったし
{お家}を守る手段だったから仕方ない。
寂しくはあったが、特に恨みは無かったしな。
主君家の配下の人達も、意外と気の良い人ばかりで
何だかんだで私に教えてくれるものだから
すごい勉強になった。
実際、私の知識や知略の大半はあそこで培った様なものだ。
おまけに、今の妻であるマリはその主君家の三女。
感謝しかないな、うん。
最初は、私にはそっけない態度だったのだが
メキメキと才能を開花していく私に、何か感じたらしく
2年の間にすっかり惚れられていた、既に若干ヤンデレ気味。
そして、さらに1年後、私は母方の実家である{ムトウ家}に
養子に出されており、人質生活からは解放されている。
ちなみにマリも{婚約者}として一緒に{ムトウ家}入り。
後で聞いた話だが、この{ムトウ家}への養子の話自体も
マリが裏で暗躍したものらしい。
おまけに、その間にマリには何回か政略結婚の話があったが
父親には鉄拳で、母親には説得で。
重臣達には、説得で足りなければ暴力や権威も使って
政略結婚の話は{無かった}事にしたらしい。
我が妻の事ながらちょっと怖い。
「あらあら、うふふ・・・。
あなた、何だか冷や汗をかかれてますが
どうかされましたか~~?
話の流れから、昔の事でも思い出されましたか~?」
「(ひえっ!?)い、いや、大丈夫だ。
少し、昔の苦しかった時代を思い出してただけだぞ、うむ」
「それはそれは。
うふふふふ・・・・」
で、そんな感じの何だかんだで、マリはそのまま正妻となり。
・・・あ! 正妻と言っても側妻なんて居ないぞ。
いや、本当! マリは妾ぐらいどうぞと言ってくれたが
そんな恐ろしい事・・・目が笑ってなかったし!?
・・・でも今だったら、マリも妾ぐらい許してくれるかも?
私もちょっと若い娘に手を出しても良いんじゃ無いだろうか。
「(ぼそっ)うふふふ、ゲンゴロウ?
あなた様、今、不遜な事を考えませんでしたか?
もちろん、そんな事ありませんわよね?」
「(びくっ)!? も、もちろんだとも!
わたしはいいつまをもててしあわせものだなと
か、かんがいにふけっておっただけだ!!
い、いつもありがとう、まり!」
「あらあら、うふふふふ。
これはこれは、嬉しいお言葉を頂きましたわ~。
あの子達ももう親元から離れる年ですし
私も昔の思い出や情熱がふと蘇ってきましたわ・・・。
ね? あ・な・た?」
(がくがくがくぶるぶるぶる)
マリは長女のオクニを生んでから2年ぐらいした後
突然{ムトウ家}の武功の為にと言い出し
【行者組合】へ行者の登録をしたかと思ったら
あっという間に【最上級行者】にまで上り詰めてしまった。
止める者が居なかったのかと? 止めて止まる訳が無い。
色々と天賦の才能が有ったとしか言えんだろな。
おまけに、その間に将軍家にコネまで作ってきて
私も何だかんだで【旗本】入りしたのだが・・・。
当時はやっかみや妬みで、中傷が酷かったものだよな。
まあ、私の能力云々はともかく、結局は妻の影響力。
実際、一番情けなく思っていたのは私本人だったという。
・・・さすがに、口や態度に出したりはしなかったが。
「うんうん、へ~へ~?(にやにや)
キヘエさんも純情な時代があったんですねえ?」
「さらっと心を読むんじゃない、妖怪狸」
「(ずいっ)あらあらあらあら、ミケちゃ~ん?
夫の心を読んでいいのは私だけですよ?
もちろん、わかりますわよね~?
うふふふふ・・・・」
「「ひえっ!?」」
あの神前試合の当日。
私は将軍家直属の【旗本】の1人として
あの場に居合わせていた。
そして、試合が終了。
1戦終わったから義理は果たしたと
アル殿はさっさと帰り支度を進めるも
彼に話しかけようとする者は皆無だった。
そう、私以外には・・・・・・だ!!
私は、あの時感動に打ち震えたよ。
ああ・・・人や神が絶句するような所業を
堂々と行い、さらに全く悪びれる事も無く。
そして{許される}ものなんだ・・・と。
つまり、世の中は{そういうもの}なんだ、と。
それを理解した時から、私は躊躇しなくなったな。
今までに培った知識や知略の出し惜しみもなくなった。
悪手、謀略、あらゆる手段を使い、時には味方すら欺いた。
外道と罵られようが、卑怯者と後ろ指を指されようが
知った事ではない、おかまい無しだ。
さすがに、やり過ぎの時はマリが止めてくれた。
アル殿と知り合って、さらに幸運だったのは
【五十六商会】と接点ができた事だ。
そのおかげで{ムトウ家}は急速に成長拡大。
既に主流家とは力関係が逆転し、主君家すら越え
将軍家からは功績として隣の地域を領地として頂き
今や{ムトウ家}は有力な【大名】の1つとなっている。
そして、{私}はいつのまにか{今の私}になっていたな。
マリは惚れ直したと言って喜んでくれている。
子供達は・・・まあ、極端に分かれたな。
というか、ユキだけは理解してくれている。
親の贔屓目で見ても、あの子は本当に聡明だ。
小柄な体格で顔も声も可愛らしい。
一見、礼儀正しく性格もお淑やかだが頑固者。
・・・つまり、現在の家族の誰とも似ていない。
だが、マリに言われて私も気付いたが
昔のマリの姿に、昔の私の性格を合わせて
そのまま成長させた姿が今のユキなのだ。
なるほど、そう思って見ると、そうとしか見えない。
うん、当時、心に余裕が無かったとは言え
一瞬でもマリを疑わなくて良かった。
いや、本当に良かった。
「ところで、おじさま?
ウチ、その当時はまだ生まれてなかったし。
皆、詳しくは教えてくれへんかったんやけど。
その、全員がドン引きした試合って
どんなんやったんですかー?」
「えっ!? ユミネさん、あなた聞きたいんですか?」
「いやあ、お嬢~。
幼少のワイが、ちょっとトラウマになったぐらいやで?
かなり過激な内容やし、辞めといた方がええんちゃうか?」
「(きらきらきら)ええんです~~!
おじさまの事はちゃんと知っておきたいんです~~!!」
『まあまあ、本人がええゆーてるし、ええんちゃうか。
・・・えっとやな。
まず、開始と同時に【発光の鏡】でペカー!・・・やろ?』
「えっと・・・?
確か、表側に強い光を拡散して照射する手鏡、でしたっけ?」
『せやでー。
光源になるし、割と安価で売ってるから
人気のマジックアイテムやな。
で、次に【トリモチ網】をピャーって投げて絡めるやろ?』
「ふむふむ、先程のお2人に使っとったアイテムやね?
さすが、おじさま! 手際ええわー!!」
「・・・いや、お嬢・・・気付いて。
すごいんはすごいんやけど
もう、その段階で武道関係あらへんよね。」
『・・・で、網に絡めとられて倒れてもがいとる間にやな。
鉄底入った靴でゴキャッとな?
逃げられへん様に、膝とか足首の関節を踏み抜いとくんや』
「痛い痛い痛い!!!?
聞いてる方が痛いでござるよ!! 父上っ!
あの人、どういう人なんでござるかっ!?」
「・・・どういう人も何も、そういう人だぞ?」
『んで、後は間髪を入れんと。
地べたでもがいとる相手に【小オイル】をポイッや!
それで終了やったな~』
「それはもう・・・あっちゅー間に燃え尽きたで?
試合開始から終了まで30秒もかかっとらん。
でもなー、にーさんの一連の動きが淀み無さ過ぎてな?
体感的にはもっと短かった気すらしたわ」
「「「・・・・・・・・・」」」
「・・・・・・(ふるふる)」
「あの・・・そこの娘さん、大丈夫なのかな?
小刻みに震えてるみたいだけど」
「あ!? アカン、お嬢にはやっぱり刺激が・・・」
「(ぱあああああ)さすが、おじさまやーー!!!
そんなん、凄すぎるやんかーー!!(きらきらきら)」
・・・ああ、この娘さん。
この娘さんも、独特な価値観持ってるんだな。
・・・・・・残念美人の類か。




