63 冒険者Aさんと素材の持ちこみ
あらすじ:蛇や爬虫類の表面は雑菌だらけでダニもいるので、下処理は大事なのです
視点:タンゴの町 鍛冶工房長 ゼークスさん
『』:アルファさん
(ガサガサガサ)
「これは・・・良い品質ですね。
何より、洗浄の下処理がしてあるのは、大変ありがたい」
「そうだねえ!
コレだけ大きかったら、ウチじゃ洗うのも一苦労だよ。
先にやっといてもらえると、本当に大助かりなんだよねえ!」
「なあなあ、父ちゃん!
コレって、内側を合わせて2枚1組にしてるけど
素材の保管の仕方ってコレが正しいのかい!?」
「ああ、そうだよノース。
よく、素材を同じ向きで2枚重ねにしている場合があるけど
そうしてしまうと、表面が傷ついたり破損したりするのさ。
ただ、内側同士を重ねる場合にも気をつけることがあってね
そのままだと、くっついて取れなくなる事があるから
間になにか挟んだり、特殊な油や溶液を塗っておくんだよ」
「あと、素材を保管する時は乾燥にも注意するんだよ!
乾燥させすぎると、縮んだり欠けたりする事もあるし
中には性質まで変わるってのもあるからねえ!」
「なるほどなー! つまりこれはカンペキって事なんだね!
さすがはおっちゃんだな!!(ぺしぺし)」
『おー、ありがとなーノースちゃん(なでなで)』
いえ、本当に大したものなんですよね。
特に冒険者の人達の大半は、素材の扱いが雑ですし
ここまでしっかりとした保存方法ができるのは
商人の中でもそれほど多くないんですよね。
「アンタ、これはありがたいねえ!
鱗を剥がさずに持ってきてくれてるよ。
同間隔で皮部分で切ってくれてるから
加工しやすいしねえ!」
「あの、すみません
その方が職人の方には都合が良いんですか? うおっ」
「ええ、そうなんですよ。
剥がした鱗は、時間と共に硬く乾燥していきますので
どんどん加工しづらくなっていきますし。
皮は、剥いだ箇所がえぐれたり穴が空いたりします。
ですが、剥いで直ぐになめし作業を行えば
小さい穴程度なら塞げるんですよ。
そうする事で、素材の厚さも均一化できますしね」
「ちなみに、この辺を気にするかどうかで
素材の買い取り価格とか地味に変わってくるんですよね。
サバミソにロー、その都度で教えてはいきますけど
素材回収時にはそういう事もあるって覚えとくんですよ?」
こういうのは、機会が無いと知る事は出来ない知識ですね。
冒険者の人達にとって、素材は売却用でしかないですし
素材を商品として扱う商売人ですら
製作過程で必要な情報までは知りませんから
素材の{どの部位}で{どの部分}かしか把握してません。
「そう言う事さ! ノース!
アンタもでっかい夢ができたんだろ!?
こういう話ってのは機会が無いと出てこないからね!
しっかり覚えるんだよ!」
「もちろんだよ、母ちゃん!!
アタイとエイトちゃんの野望の足がかりだもんな!!」
「・・・・・・えっ!? 何? 夢!? 野望っ!?
どう言う事なんだい、ノース!?
えっ、ノイツェ、キミは知ってたのかい!?」
『まあまあ、ゼークスくん、落ち着き~や!
女の子同士の、夢や野望を聞き出そうとか野暮やでー』
「そうだよ! アンタ!!
そんな事いちいち気にしてたら!
鱗を剥ぐ前に、アンタの頭がハゲちまうよ!?
あっはっはっはっは!!!」
『んで、お2人さん、これどのくらい要りそうや?
皮袋は全部で22枚、中身はまあ似たようなもんや』
・・・えっ、アルファさんも知ってる?
あれ? 知らないのってひょっとして僕だけ?
む、むう、ハゲるのは困ります。
・・・だ、大丈夫ですよね?
死んだ父さんはハゲてましたけど
僕はハゲてませんよね?
うぐ、仕方ないです。
後でこっそり聞き出しましょう。
「・・・そうですね、これほどの品質ですし。
有れば有るだけ欲しいところですけど
さすがにそこまでの元手はありませんしね。
この品質と大きさなら、ギルドからの仕入れ価格だと
大体、鱗1枚で小銅貨40~50枚ぐらいでしょうし。
皮1枚が大銅貨4枚で・・・1枚に16列分で6行。
ええっと、そうですね」
「ノース! 今の父ちゃんが言ってた相場で計算したら
幾らぐらいになるか、ちょっと考えてみな!!!」
「え!? え! え・・・ええ・え
う、う~ん、う~~~ん(ぐるぐるぐるぐるぐる)」
「えっと、アルさん、うおっ。
確か、大銅貨1枚が小銅貨で100枚でしたよね?
・・・えっと、それだと、鱗付きの皮1枚で96枚だと
小銅貨4200枚から5200枚ぐらいですか? うおっ」
「「『ほおっ!?』」」
「お、おお・・・これはこれは! ちょっと意外でしたけど。
やりますね! でかしましたよ、サバミソ!!
やっぱり、ご主人様やミケが思った通り、頭良いですね!!
暗算とか、あのヒゲワンコには絶対無理ですし!(ずびしっ)」
「Zzzz、う~んむにゃむにゃ・・・」
「す、すごいんだな、サバミソくん!
お、おでは学が無いから、さっぱり分からないんだな」
「!? あっ! す、すいません、うおっ。
ボクが答えちゃったらダメでしたよね? うおっ」
「あっはっはっは! いや!
気にしないでおくれ! サバミソちゃん!
どっちにしろ、ウチの娘には分かってなかったしね!!」
「ははは・・・そうだね。
サーバクン君、気にしないで大丈夫だよ。
ノースは計算とか苦手だから
こうやって、少しづつでも慣らさせてるんだよ」
『ちゅーわけで、サバミソが回答出した所で
ゼークスくん、何枚いっとく?
ちなみに2枚セットな、半端でて入れ替えとか面倒やし。
2枚1組で小銅貨8500枚。
そん代わり、入れ物の皮袋ごとでええから』
「ええと、ボクとしては大変ありがたい値段なんですが
本当に良いのですか?
・・・それでしたら、8組分お願いしますよ」
『ほいほい、毎度おおきに~ってな。
・・・全部で銀貨6枚と大銅貨80枚やけど
一括でも分割でも都合のええ方でええよ~』
「あいよ!!
アンタ~! 今、蓄えってどれだけあったんだっけ!?
一括でいけたはずだよねえ? ・・・・・・ああ、大丈夫?
んじゃ、当然一括だわねえ!!
それじゃ、アルファさんは、ちょっと待ってておくれよ!!」
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『そーいや、ゼークスさん。
頼んどった武器とか防具とかって
さすがに、まだできてたりとかせーへんよね?』
「あっと、すいません、アルファさん。
まだなんですよ。」
『うん! いや! 聞いただけやから。
別に急かしとるとかじゃないんで
ゆっくり作ってもろたら・・・』
「そうなんだよねえ・・・。
まだ、【メイス】が4本しかできてないんだよ!
盾2つはあと2日ぐらいで出来上がりそうなんだけど
全然防具に手を付けれてなくてねえ!!
いや、待たせてしまって、本当にすまないねえ!」
「早っ!? 幾らなんでも早くないですか!?」
『あれ? 普通、【メイス】って
1本作るのに1週間近くかからんかったっけ?』
「ええ、普通は製作にそのぐらいかかるんですけど
今回は製作内容がかなり具体的でしたからね。
作る物が決まっていれば、そこまで時間かかりませんよ。
特に、柄の部分は木製でしたので」
『ほーん、なるほどなー。
どっちにしろ大したもんやな、うんうん。
そんじゃ、その出来上がった4本って
もう貰ってっても大丈夫なん?』
「おっ? 持って帰るんだねっ!!
じゃあ、ちょっとまってておくれよっ!」
(どたどたどたどた)
「そ、そういえばアルさん。
残りの素材って、ど、どうするのかな?」
『あー、それはやな。
【冒険者ギルド】で買い取ってもらうんや』




