369 冒険者Aさんと調査員は調査中 ②
==========================================
あらすじ:デルタさんはニヤニヤが止まらないようです。
視点:ドライエック商会 調査員 チョークアップさん
『』:アルファさん
==========================================
《創世新暦1665年 前秋 第2週 木曜日》
◆タンゴの町 市場◆
(シャクッ、シャクシャク)
「…うん、美味いナシだ」
喉も渇いたし、美味そうだったんで
つい買ってみたが、これは美味いな。
水分も多いし、甘さと酸味も丁度良い。
何よりも実がシャッキリしてる。
ナシなんて、この国じゃ育ててる所無いし
外国からしか入ってこないんだよな…。
やはり、港の影響が大きいんだろう。
「おっ! 奥さん、この辺がおすすめだよ!」
「今日はちょっと変わった魚あがってるよー!」
「おっちゃん、こっちのリンゴ2つ!」
(ワイワイワイ、ガヤガヤ)
「ふうむ…」
中々…いや、かなり活気がある市場だな。
しかも、このナシもそうだったが
品揃えも質もかなり良い。
…新鮮な魚が豊富なのは、港のおかげ。
それはわかる……だが、あの肉は何だ?
そこの野菜を売っているテントで
なぜか一緒に売っている肉塊。
ガラスの様な透明な箱に入れられてて
多分、大きさからするとブタなんだろうが
やけに赤くないか? モンスターの肉か?
……よし。
「お嬢さん、少し聞きたいのだが
君の所は野菜だけじゃなくて
お肉も売ってるのかい?」
「あ、いらっしゃ~い!
ええ、そうだよ~!
うちは農園だけじゃなくて
牧場もやってますから!
あ! でも今日はたまたまなんだよ」
「うん? そうなのかい?」
「うん、このお肉って
まだそんなに量が無いから
いつもは飲食店へ出荷する分しか無いんだ。
…ま、今日は余剰分が出たから
ここで一緒に売ってるって訳なんだよ!」
「へえ…なるほどね。
それで、この肉は何の肉なのかな?
見た感じブタ肉だとは思うんだが
凄く身が赤いね…そういう品種なのかい?」
「これ? このブタさんはね~
【赤ブタ】っていう種類なんだけど
とっても綺麗な赤身が特徴で
すっごい美味しいんだよ!」
「……はっ? あ、【赤ブタ】っ!?」
「(ビクッ)え? うん…そうだけど…?
お客さん知ってるのかい?」
「ま…まあ、ね…。
私も商会に所属していて
仕入先なんかを回ってるから
聞いた事ぐらいはね……は、はは…」
嘘だろ!? おいおい。
【赤ブタ】って…アレだよな?
通称【ルビー・ミート】って言われてるアレ。
真紅の綺麗な赤身で、脂身も上品質。
普通に調理してもかなり美味いが
ハムとかに加工すると絶品って言う
特に王族や貴族の間で人気が高いアレ!!
あの品種は、確か【ドラント王国】の特産で
国が種自体を徹底管理してるから
国外に持ち出せないはずなんじゃ!?
だから王都でも、高い輸送費を払って
輸入するしか入手不可能って………。
「?? どうかした? お客さん?」
「う、うん…大丈夫、大丈夫。
少しね、びっくりしただけさ。
…ちょ、ちょっと聞きたいんだが
牧場で【赤ブタ】を育ててるんだよね?」
「え? そうだよ?
うちは父さんが農園を。
母さんが牧場やってるんだよ!
ちなみに私も手伝ってるんだ!」
「うん、その、ちょっと相談なんだけどね?
その【赤ブタ】の親ブタを
番で買わせて貰うって事はできないかな?
もちろん料金は高く……」
「あ──…、ごめんなさいっ!
親ブタ自体をって事だよね?
それ、ダメなんだ~」
「あ、ああ、そうなのかい?
いや、聞いてみただけなんだけどね。
はは…あ、そのキュウリ美味しそうだね。
…3本1セットで小銅貨1枚か。
うん、それ1セットもらえるかな?」
「あっ、はーい!(サササッ)
ありがとうございま~す!」
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
▽ ▽ ▽
▽
(ポリポリポリ)
「むう……美味い!」
いや、本当に美味いな、これ。
よく冷えてて、瑞々しい。
塩味もほどよく効いてるから
いくらでも、食えてしまうぞ?
それにしても…。
「うーん…あっという間に
人だかりができてしまったな…。
これじゃ詳しい話は聞けそうに無いか」
(ザワザワザワ、ワイワイワイ)
「おっ!? リースちゃん!
今日は【赤ブタ】あるのかい!?」
「ん? おおっ! 赤いのあるじゃん!」
「えっ!? あ! 私にも!」
「俺にもくれ!」
「はーい! 順番だよ~~!」
【赤ブタ】に気付いた買い物客達が
一気に押し寄せてきたな…。
さすがは人気商品って所だな。
……それにしても、3、4年ほど前か?
俺じゃなく、別の調査員が来た時は
そんな物売られてたって話は無かったよな?
と、言う事はだ……ここ1、2年か。
あの乗り心地の良い、馬車にしてもそうだが
前はそんな物無かったんだ。
ここ最近で、町の流通なり技術なりが
大きく変わる何かが有ったって事だよな?
……おっと、もう無かったか。
あっという間に3本とも食べてしまったな。
明日また買うか。
その時に少しでも聞ければ良いんだがな。
…ま、情報収集は、気長に確実にってね。




