33 冒険者Aさんと次男さんの作戦
あらすじ:天丼は犠牲になったのだ・・・町の腹ぺこツートップ・・・その犠牲にな
視点:【本家・アパカッ】店長 料理人 ツーさん
『』:アルファさん
ああ、【天丼】おいしそうだったな・・・。
でもあれなら、作り方はそれほど難しくなさそうだし
僕の店でも出せそうだね。
なにせ、僕の店は魚介類中心だから、材料はすぐ揃えられる。
さて、そんな事よりも、予想通りの展開になったかな。
元々少ない具材もほとんど使い切って、さらに決定的なのは
炊いたご飯のストックがなくなったという点。
よし、これなら・・・。
「アルファさん、アルファさん。」
『お? おう、ツーくんか、どうかしたんか?』
「材料もご飯もなくなったようですね?
僕の屋台に、すぐ使える状態の麺が用意してあるんですが
これで何か【天ぷら】を使った即席の料理、作れないでしょうか?」
『・・・・・・ほう!!
なるほどね、食材不足を見計らっての臨時コラボ料理か。
しかも、お客さん達に振舞って反応見て
受ける様やったら、新メニューに一品加えられるってとこやな。』
「・・・せめてもう一杯食べたかったなぁ。(ぐっすん)」
「は、はは・・・さすがアルファさん、全部お見通しですか。
・・・で、どうでしょうか?」
僕はワン兄さんと一緒に、じいちゃんから料理を習ったけど
正直、{料理を作る才能}と言う点では、僕は兄さんより下なんだよね。
まあ、悔しくはあるけど、事実だからそこは仕方ない。
おまけに、この町は港町で、魚介類が豊富なだけに
市場でも新鮮な魚が入手できるし、ご家庭でも魚料理は日常的に食べている。
そのせいで、屋台とかお店で食べる場合は、どうしても肉類が人気。
じいちゃんから受け継いだ料理の内、僕が受け継いだ得意料理は主に魚料理。
だから、僕の屋台【本家・アパカッ】では魚介類中心のメニューにしている。
それは誇りにこそ思っても、別に不公平だとかは感じていない。
だけど、町の人も冒険者の人達の多くも、肉類を好む傾向が強いから
実際に売上げとして差が出てしまうのは当然と言えば当然。
でも、だからこそ、常に売れ筋の調査やメニューの強化は欠かせないんだよね。
アルファさんに教えてもらった心得は{機会は待つものじゃなく作るもの}。
ここで実践しなきゃダメでしょ、やっぱり。
『ええね、ええね。
先を見越して機会を作り、最大限に利用する、実にええ柔軟さや。
それでええねん、それでこそ店を分けた甲斐があるってもんやからな。
おっしゃ、任せとき!
麺はあるんやな? そんじゃ、さっき市場でええもんもろたから。
これで、丁度すぐ作れる料理があるわ。』
「やった! ありがとうございます!!」
本当はじいちゃんが亡くなった後、父さんと母さんは農園と牧場を続けて
じいちゃんの形見【飯屋アパカッ】は、兄弟で継いでいこうかって話もあったんだけど
兄さんは肉料理、僕は魚料理。
お互いに自分の料理に自信持ってるものだから
どっちが店長になるかで、ちょっと揉めたんだよね。
だけど、村長から依頼を受けたアルファさんの仲介で店は分割。
村長公認で提供してもらった土地に、屋台で出店と言う事で丸く収まり、今に続いてる。
魚介類は肉類に比べて、どうしても材料の鮮度の問題があって
屋台で扱うのは少し難しいんだよね、調理の下ごしらえにも時間かかるし。
それに多分だけど、あの【天ぷら】を使った料理は
パン粉を使ったフライと違って肉類よりも魚介の方が合うはず。
時間短縮もできるし、目の前で作ってすぐ食べてもらえるってのはポイント高いよね。
『とりあえず、ツーくん、麺をさっと茹でるから大鍋でお湯沸しといてくれ。
あと、タマネギってあるか? もしくは普通の白ネギでもええけど。』
「もしかして、おじさま! ウチの為に何か作ってくれるんですか!?」
「(もがもが)めっ!? もがありあふろ!! ほひいほひい!!」
「(はぐはぐはぐごくん)私もぉ!!! 私にもおおおおおお!!!!
町長代理権限使ってでも頂きますよ!! まだまだ入りますよぉ!!!!」
「お嬢はともかく、あんたらご飯を喰い尽くしたのにまだ食うんでっか?」
「まあまあジン君、良いではないか。
恐らく麺料理なのだろう?
よければ私も半分の量で頂きたいものだ。」
『いや、食うのは別にええんやけど、今から作るのは共同の料理やし
ちゃんと屋台の方には料金払うんやで。
値段的には・・・正規で1杯で小銅貨3枚か4枚ぐらいになるやろうから。
今日のところは小銅貨1枚でええんちゃうかな?
まあ、そこは店長のツーくんに任せるわ。』
「ではご主人様、タマネギがあるそうなので、ミケが切っておきますね。
間隔は1㎝刻みぐらいでよろしいですか?」
『せやな、頼むわー。
その間に俺は小エビの下処理を・・・っと。』
(トントントントンジャバジャバジャバジャバ)
「・・・小エビにタマネギに麺。
ふむ、なるほどのう、確かに締めには丁度良さそうであるな。」
小エビに刻んだタマネギ・・・あ、そういえば白ネギでも良いって言ってたな。
【天ぷら】だよね?・・・でも、あんな小さいのを、いちいちチマチマと衣つけるの?
それって、すごく手間かかるような・・・。
『よっしゃ、下処理完了! 油の温め直しも終わったし
そんじゃま、いこかー。』
「了解ですご主人様! では少し濃い目にした{タネ}に全材料投入!!
(ぽいぽいぽぽいぽいぽいぽいぽぽい)ですわー!!!」
「えっ、さっきみたいに粉つけなくていいんですか? うおっ。」
『ええねんでー。
そんで、胡麻と青のりをざらざらざらっと。』
「後は、ま~ぜま~ぜま~ぜと、よく混ぜるだけですわ!」
「えっ!? さっきみたいな【天ぷら】とは違うんですか?」
『違わんでー。
まあ、作り方はちょっとちゃうけどな。
では、投入~~~(ジュワアアアアアアアア)』
「それでは、ミケは麺を茹でてきますね。
スープの味付けはどう致しましょうか?」
『おー、頼むわ。
こっちは高温で揚げるからすぐ揚がってまうしな。
味付けは、出汁醤油でええやろ。
後は、仕上げに【カツオの削り節】をパラパラっとかけたってくれ。』
「了解しましたご主人様。
さあ、ぱぱっと作りますわよ!」
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
▽ ▽ ▽
▽
(ズルズルズルズル、ズズズズズ)
(ワイワイワイ、ズルル、パリパリパリ)
(ハフハフ、ズズッ、プハー)
(ずずずっ)うん!・・・これは良いな!
スープが多めだから麺がするする入っていく。
でも麺は硬めに茹でてるから、歯ごたえは残ってて食べ応えもちゃんとある。
そして、やっぱり・・・これっ!!(バリリッさくさくさく)この小エビの【天ぷら】!!
アルファさんが言うには【かき揚げ】って言うらしいんだけど、
この【かき揚げ】のサクサクの歯ごたえ、口いっぱいに広がる、小エビの風味!
さらに高温でサクッと揚がったタマネギに、胡麻と青のりの風味も合わさってすごい事になってる。
へえ・・・青シソとか細かく刻んだイカとかも合うんですね?
はい! 色々と試してみます。
そして、塩分は出汁醤油だけで?・・・ああ、なるほど。
この汁が【かき揚げ】の塩分になって、【かき揚げ】の油の甘さが汁をまろやかにしてくれると。
これ、手早く出来て、粉・・・あっ{タネ}って言うんですか?
{タネ}も材料も無駄にならないし、色々なパターンで作れるのが良いですね!!
「うむ、ごちそうさまでした。
ふーむ、【うどん】や【蕎麦】ではなく、【スパゲティ】の麺でも合うものなのだな。」
「まあ、どちらも原料はほぼ同じ小麦ですし。
むしろ、こちらの方が歯ごたえとのどごしはしっかりしてますしね。
{魚介系のあっさり醤油ラーメン}の様なものですよ。」
「あー、確かに! 何となくそんな感じなん分かりますわ!
・・・おっと、忘れとった、ごちそうさまでした!!」
(ザワザワザワザワ、ウマイモウイッパイ、ズズズズ)
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬ。」
「ワン兄さん、あんまり店の前でぐぬらないでよ。」
「むきー! ずるい! アルファさんの料理をメニューに入れるとかずるいぞ、ツー!!!」
『いや、ワンくん、ずるくはないで。
そもそもこの【かき揚げ麺】自体は普通に【フソウ】で普及しとる料理やし。
別に俺のオリジナルってわけやないからなー。
それに、ツーくんは【天丼】の食材が無くなる事を見越して、麺とか色々準備しとったんや。
そこはやな、兄として{今回は上手い事やったな}と素直に認めたるべきところやで。』
「ぐむー! ・・・あ、アルファさんがそう言うんじゃ仕方ない!
うむむむむ、今日の所は俺の負けだツー! だが、負けたわけじゃないからな!!
いい料理だから今後も期待だな! だけど、俺もまだまだ期待だからな!!」
「ふふふ、意味はよく分からないけど、ありがとう兄さん。
それに兄さん、多分この後、兄さんの方に注文がたっぷり入ると思うよ。」
「ん? それはどういう事?」
『それはやな・・・。
そこの{腹ぺこトップスリー}の食欲に火がついてもうたからや。』
「「「(ギラリッ!)」」」
「あっ・・・。」