32 冒険者Aさんと配膳は先着10名様までの予定
あらすじ:ご隠居様の孫娘自慢
視点:ご隠居様とお嬢様の護衛 サムライ ジンさん
『』:アルファさん
(ガヤガヤガヤ)
「何の料理かしら? まだ完成じゃないわよね?
晩ご飯に作れそうなら後で教えてもらいましょ。
「やっべえ、アルファさんが何か作り始めたぞ。
しかも、今の段階で何か揚げ物の良い匂いと良い音がプンプンしやがる。
こりゃ、ツーと勝負どころじゃないだろ。」
「うーーーん、お客さんだけでなく、僕ら料理人まで釘付けになってるな。
・・・でも、これが予想通りに進んで、うまく逆手に取れば
今日の売上げでワン兄さんの屋台は十分に出し抜けるんじゃないか?」
「食材に小麦粉をまぶしてから、軽くはたいて余分な粉を落とす。
そして、小麦粉と生卵を水で溶いた液体に浸け、中温~高温の油で揚げる?
へえ、面白い料理法だね、お酒にも合いそうだし、メニューに加えてみようかな。」
「あ、これって見た事あるわよ、確か【フソウ料理】の【天ぷら】よね?
こうやって作るのね、今度家でも作ってみましょう。」
(ジュウウウウウウ、シュワワワワ)
「うむ、【天ぷら】か。
私は【天ぷら】の衣はやはり{薄めにしてサクサク感がある}方が良いな。」
「おじいさま、ウチは{お汁をたっぷり吸った厚手の衣}も捨てがたいと思います!」
あー【天ぷら】かー、ええですね~!
ご隠居とお嬢の護衛で、半年前にこっち来てから
ここの地元料理や【ドラント王国】の肉料理に、酒なんかも結構頂いたけど。
正直、そろそろ【フソウ料理】も食べたいと思っとったんですわ。
チラッと見た感じでは、材料は何かの小魚と野菜・・・ええね! 実にええですねー!!
そして、先に白米のご飯炊き終わっとるっちゅう事はアレやね! アレ!!
【天丼】!! 久々の【天丼】が食えるっちゅう事やね!?
あ、でも量的にはそんな無さそうやし
こりゃ、ご隠居様のご威光使ってでもありつかんと!
・・・それにしても、アルファのにーさんと、ミケのあねさんはともかく
あの隣の魚の人? は何なんやろな。
魚の人が小魚に小麦粉はたいとる姿って妙な光景やな。
(ピチュッ、パチパチッ、ジュウウウウウ)
「ご主人様ー、第1弾の油切り、そろそろ良さ気ですけど、どうしましょうか?
何か、いつの間にかギャラリーの人達がいっぱい増えてるんですが。」
「(じーーーー、きらきらきらきら、ふんすふんす)」
『おー、じゃあ、目の前のお姫さんも目ぇ輝かせて鼻息荒くなっとるし
まずはゲンさんの御一行様に味見してもらおか。
ってわけで3人分、丼に飯盛ってくれるか?』
「了解しました、ご主人様~。
さて、会長とお二方、柚子塩と出汁醤油とソースの3種類ありますけど
かけるのはどれにしましょうか?」
そう! これが特典!! これが役得!!!
何せ、ご隠居様は【ショクドーラクの会】の会長!!
ついでに、ワイもお嬢も会員!
にーさんもあねさんも、毎度そこら辺に気ぃー使ってくれるんで
ワイもご相伴に預かれるってもんですわ。
「おお、すまんな。
では、私は出汁醤油で頂こうかのう。」
「ウチもウチも! ウチも出汁醤油でお願いします!!
あと、ご飯は大盛りでお願いします!!!」
「あ、どーも、あねさん毎度すんません。
ワイのはソースで頼んます。」
「はいはい。了解しましたわ。(ざっ、ぽふぽふ、もわわわわわ)
で、ほいほいほいっと(ひょいひょいひょいひょい)」
最後にとぷとぷとぷ~っと、(ちょろろろ、しゅわわわわ)
まずは、お2人の【天丼】完成ですわ!!(ドドンッ!)
さあ、会長にユミネさんもどうぞ、熱いので気をつけて下さいまし。」
「(ガシッ!!)ありがとうございますぅ~!
あーーーー!! このほかほかご飯にのっけられた熱々の【天ぷら】!!
そして、そこにかけられたこれまた熱々の出汁醤油!!
【天ぷら】の衣が最初は出汁醤油をはじき、油と少し混ざり合う事で
全体に艶が出て、キラキラと光ってますわ!」
(ゴクリッ)
「はい、お次はジンさんのですわね。
こちらはソースっと(とろろ~~~~じゅっ、ほくほくほく)
はい、どうぞ。(ドンッ!)
さすが【サッカイ港】の出身、相変わらず何でもかんでもソース派なんですねぇ。」
「うっは! うまそう!! やっぱ、これっすよね!
油物には甘辛の【どろソース】!!
あねさんありがとーさんです!!」
(ゴクリ、ゴクリ)
「うむ、行き渡ったようだな。
すまんな、アルファ君にミケニャン君、お先に頂かせてもらうぞ。
それでは2人共、頂こうか。
・・・頂きます!」
「「頂きまーす!!」」
まずは、コレ! 緑野菜からいかんとね!
緑系の野菜は火を通せば通すほど苦くなってくからな、早めに頂かんと。
今日のはピーマンやね・・・どれどれ(さくっ、ぱりぱりぱり)
うまっ!! ピーマンうまっ!!!
っはーーー、ほんのり火が通って油とソースと混じりあったこの甘さがええ!
サクサクの衣にパリパリの歯ざわりもたまらん!!
よく、ピーマン苦くて食われへんとかアホな事ゆーとるやつおるけど
あれは単に、緑野菜の性質がわかっとらんだけ、火の通し方が下手なだけやねんな。
ピーマンだけやのうて、葉物系でもそうやけど、緑の野菜は基本的に生でも食えるものが多い。
火を通せば通すほど、苦くまずくなっていくって事は、意外と人に知られてへんよなぁ。
そしてこの白米との相性! 一緒に口に放り込んだ時の言葉にでけへん甘さと噛み応え!!
あーー、アカン! ピーマンだけで幸せ気分やないか!!
「(さくっ、さくっ、もぐもぐ、ごくん)・・・うむ、この小魚もよいな。
少し独特の苦味があるが、衣の甘い油と出汁の効いた醤油と混じり合って
この苦味が、逆にえも言われぬ美味さと風味をかもし出しておる!
(ひょい、もぐもぐ、ごくん)うむうむ、やはり丼物のご飯は少し固めに限るのう。
後々衣がしっとりしてくる分、やはり噛み応えという食感は大事だな。」
(ゴクリ、ゴクリ、ゴクリ)
「(ぱくぱくさくさくほくほくもぐもぐ、ごくり)っはぁあーーーー。
ウチ、お芋さんの【天ぷら】ってホンマ好きやわぁ。
特にこのお芋さん!
衣はサクサク、中はしっとりホクホクで甘みがあるのに、しっかり食感も残っとる!
ウチもどーしても食べたくなって、何回か自分でも【甘藷】を揚げてみたことあるんですけど
どーしても、硬くなったりパサパサしたりでうまくいかなかったんですわ。
何かコツでもあるんですかー?」
『ん? コツねえ・・・コツって程やないんやけどな、全般的に【甘藷】使った料理って
そのまま使うと、姫さんの言う通り、火が通りにくい上、硬くてパサパサになるんやわ。
だから、切った後、料理に使う前に水にさらしとくんや。
まあ、これは一応アク抜きも兼ねとるんやけどな。
ちなみに、【焼き芋】みたいに調味料使わんとそのまんま作る料理の場合は
両端切って塩水に浸けとくとええで。
甘さがぐっと引き立つし、芯が残ったり焼きムラが出来たりしにくくなるからな。
・・・ほいほいほいっと(さっさっさっ)よし! お次の3人分できあがりっと。』
「ご主人様ー、あまり材料もありませんし、その3人分はミケ達で先に頂きましょうよ。
残りの具材はそれから使うと言う事で。」
『ん? せやなー。
確かに、元々はココで作るつもり無かったから
朝に市場でそんな材料買ってなかったしな・・・先に食うか。
この先予想外のアクシデントが無いとも限らんしな。』
「では、サバミソ、ミケ達も熱い内に頂くとしましょ!
そこでこっちを見ているあなた! 」
「ん? 俺かい?」
「そうあなたですわ、あなた! まぁ、こっちへ来て下さい。
あなた確か【ビアー】のバーカウンターで、おつまみ料理作ってましたわよね?
先程の料理手順、見ていたのであれば問題ないですわよね。
続きをお願いしてもよろしいですか?」
「えっ、あー、まあ手順は覚えたし、揚げ物と同じ手法でできそうだからいいけど。
その代わり、俺にも1杯くれよな。」
『おー、すまんなエヌンくん。
じゃあ、ちょっと頼むわ。
ミケもサバミソも出汁醤油でええよな?(トプトプトプ)
ほいよっ、2人共食おうか。』
「ありがとうございます、うおっ。
こ・・・これが【天丼】なんですね、おいしそうです、うおっ。」
お次はこれやな、メインの小魚。
どれどれ(ばりっ)、あー・・・バリバリのええ歯ざわりやな。(もぐもぐもぐ)
・・・味的には【きびなご】っぽいし、多分【イワシ】のお仲間かな?
おっ、これは下味に荒塩ふっただけやのうて、おろし生姜まぶしてあるな。
ピリッとした爽やかな辛味と風味。
ん”~~~~、噛んだ時にじわっとええ苦味が来るわ。
(はふはふ)熱々でバリバリでホクホクで、ソースともよく合うな~~。
これもご飯にのっけて(もぐもぐもぐ)・・・っと、うんうんうん。
【アジ】とか【タラ】みたいな淡白な白身魚と違って、癖のある魚ってのは
飲み込んだ後の、風味が喉と鼻を抜ける感じがたまらんよなぁ。
・・・・・・あ”~~!!! 冷えた【フソウの米酒】飲みてぇええええええ!!!
確かこの広場でも酒は売っとったはず、【米酒】は無くても【麦酒】ぐらいやったら。
やけど、さすがに護衛のワイが真昼間から飲むわけには、ぐぬぬぬ。
「あ、そこのおにーさん! キンキンに冷えた【麦酒】1つ!!」
「ええっ、お嬢ーーー!?」
「ふむ、私はお茶を頂くが、ジン君も遠慮せずに飲みなさい。
今日は特に用事も無いし、問題はなかろう。
ただし2人とも、あまり飲み過ぎないようにはするのだぞ。」
さっすが、ご隠居様!
ホンマ話の分かるお方やーーー!!!
さて、それじゃぁワイも・・・ん? 待てよ?
「な、なあ、アルファのにーさん。」
『(はぐはぐ)んお? なんやー。
・・・・・・くっくっくっ、欲しいんは(ごそごそ)
(ドンッ!)これか~~~?』
「ああっ!? そ、それですわーーーー!! さすがや、にーさーーーん!!!」
『そうやろそうやろ、やっぱ【天ぷら】には、{よく冷えた【清酒】}。
しかもちょっと辛口のやつが、よう合うもんな。
ほいっ、徳利ごと渡しとくわ。(ぽいっ)
あ、ゲンさん、冷たーい濃い目の【ほうじ茶】ありますけど、要りますか?』
「(とくとくとく)おっとっと、ではありがたく頂きますわ。(ずずずず)
・・・っかぁ~~~~!! あ”~~~こりゃあ最高のぜーたくですな。」
「うむ、すまんがアルファ君、私にはその【ほうじ茶】を頂けるかな?」
「さて、もう一杯・・・あれっ? 徳利が・・ああっ!? お嬢! いつの間に!?
ってか、もう【麦酒】飲み終わったんでっか?」
「何ゆーとんの? あの程度やったら飲んだ内にも入れへんやろ?
それに、おじさまの【清酒】やったら、ウチかて是非頂きたいに決まってるやん。」
「むむむ、ミケも頂きたい所ですが、ご主人様が飲まれないのであれば我慢我慢ですわ。
・・・それにしても、ユミネさんも、こちらへ来てから
かなり様子と言いますか、雰囲気変わりましたよね?
正直、はっちゃけてきたというか何と言うか。」
「えっ!? そ、そないなこと・・・あうう。
ひょ、ひょっとして、おじさまにはしたない思われてます?」
確かに、お嬢はだいぶ変わられたわ。
というか、重荷が取れて年相応の振る舞いができたって感じなんやろな。
まあ、しゃあないよな、元々お嬢のお家である{フジ家}は
【フソウ】で代々、朝廷と【行者組合】の中枢を担ってきた一族。
おまけに、数々の偉業を成し遂げた{偉大なご隠居の孫娘}として、生まれた時から注目浴びて
厳格なご両親からは、小っさい時から教養や礼儀作法叩き込まれてきた上
高い素質あったからって{巫女見習い}にさせられた挙句、今度は【弁才天様】に見込まれる始末。
周囲からは無責任な期待をかけられ、色眼鏡で見続けられて
将来は{最上位の筆頭巫女}だの{朝廷の最高幹部}だの好き放題ぬかしおってからに。
ホンマ、ご隠居様やアルファのにーさんが、息抜きと悪い遊び教えてへんかったら
重圧に押し潰されて、どんだけ歪んで育ってもおかしなかった程やわ。
中でもお嬢は、にーさんが面白おかしく話す、他の大陸の冒険譚や色んな文化の話を
楽しみにしとったからなあ・・・そりゃ、にーさんに懐くのも当然やろな。
『ないない。
むしろ【フソウ】におった時よりも、活き活きとしてる感じになって
前よりもっともっと魅力的になったんちゃうか?
大体はしたないとか何とか、この(ぽんぽん)駄狸を前にして言えるんか~?
ミケは凄いぞ~、比べもんにならん程や。(なでなで)』
「でぇえっへっへっへ。(でれでれ)
ご主人様ぁ~そんな誉めないで下さいよお~~~。(くねくねくね)
嬉しさのあまり濡れちゃうじゃないですかぁあああ。」
「あ、はい。」
「ほっほっほっ、相変わらずの主従だのう。
良きかな良きかな。
(ずずずず)うむ、良い【ほうじ茶】だ。
冷たいのに味も風味もしっかり出ておる。
アルファ君、これは水出しではなく
熱湯で出した後に一気に冷やしたのかな?」
『おっ、せやで。
さすがゲンさんはお茶も詳しいな。
氷を放り込んで冷やしてもええんやけど、俺にはこの【冷却の魔法瓶】があるからね。
沸騰した熱湯だろうが何だろうが、これに入れとくだけで、急速に冷やせる優れもんや。』
「へえ・・・・すごいですね! そんな便利な物があるんですね、うおっ。
それもこの大陸の技術なんですか? うおっ。」
「ホンマ、便利な道具ですね、それも【五十六商会】の売りもんなんでっか?」
『ちゃうでー、これは俺が作ったやつやし、売りもんでもないで。』
「えっ!? おじさまが作ったん!? すごい!!
・・・・あ、あの・・・すんません。
ウチ【天丼】おかわり頂きたいんですけど、ええですか?」
「そう、ご主人様はすごいのですよ!!
あ、ユミネさんはおかわりですか?
エヌンさーん、おかわり分ってまだありそうですか?」
お、お嬢、誉めるか食べるかどっちかに・・・ってちゃうな。
もう既に食べ終わっとったんかいな。
っていうか、にーさんから貰った【清酒】の徳利も既に空やん!?
食うのも飲むのも早すぎるで! お嬢!!!
「えっとだな、おかわりなんだが
あーっとだな、そこの(くいっ)テーブルを見てもらえばすぐ分かるんじゃないかな。」
「はぁ? 何です・・・・か・・・・。」
「あー・・・これは・・・。」
『なんやー? ・・・あーー、こりゃ無理やな。』
その先のテーブルには空になった丼が2つ。
さらにそこには、現在進行形で食べ続ける2人の女性・・・。
いや、もう女性といってええんかわからんけど
顔中にご飯粒つけまくってるヒゲまみれの幼女と、バッチリ決めた制服姿なのに
顔半分を丼に突っ込んで、物凄い形相で飯かっこんでる妙齢のお人。
恐ろしい・・・いや、見た目の壮絶さもそうやけど
何が恐ろしいかって、ワイらに全然気付かせへんかったとこが、違う意味で恐ろしい。
「あんたら、いつの間に来たんや!?」
「もぐもがもぐ、ふぁっぬだも!!」
「(がつがつがつがつ! うまいうまいうまいう”)っま”ぁああああああい!!!」
『ある意味予想内やけど、予想外のアクシデント来たな。』
「・・・・・・ぐすん、ウチのおかわりぃ。」
 




