206 冒険者Aさんとごほーこく ⑧
あらすじ:ライムグラスさんは、オトコマエな女の子だそうです。
視点:ダンジョンではそんなに出番が無かった ジン・クロガネさん
『』:アルファさん
「なるほどのう・・・。
うむ、ユミネにとって、実に良い刺激となった様だな」
「はい、おじいさま。
自分が鍛錬を怠っていた・・・なんて
そこまで、自分を卑下するつもりは無いんです。
・・・でも、ウチの鍛錬には目標が定まってなかった。
その事を思い知らされました」
「うむ、そうだな。
確かに、目標を定めない鍛錬など
100行った所で、1の真なる努力には及ばぬな」
「そーですねー、ご隠居様。
お嬢がそこに気付けたってのは、えらい進歩やと思いますわ」
世間でも、勘違いしとる人は結構居るけど。
修行にしろ、仕事にしろ
努力ってのは、目標の為に何を積み重ねるかって事で
あくまでも目標ありきなんや。
しかも、大事なんは、その積み重ねた部分。
普段の鍛錬や作業に加えて{他に何をやったか}って事やな。
よく、普段の鍛錬や作業しとるだけの奴が
努力しとるとか何とかほざきよるけど。
それは、{やって当たり前}の事や。
別に努力でも何でもあらへんがな。
お嬢は昔から才能に恵まれとって、何をやらせても優秀やし
おまけに、実家の{フジ家}は【フソウ】でも指折りの名家。
素質も環境も揃っとって、特に不自由無く育ってきとる。
お嬢かて、その事は頭では理解しとったんやろけど
・・・いや、理解しとるつもりやったんやろな。
「ふうむ、それにしてもだな。
エッセン君がそれほどの使い手だったとはのう。
ふおっふおっ、普段の言動からは想像がつかないものよな」
「まあ、一応フォローしときますけど
あのヒゲの嬢ちゃんって、【神憑き】らしいんで
そもそも、お嬢とは出力違ってて当然でっせ?」
「・・・・・・」
「ほう? なるほどのう。
・・・であれば、確かに聞いた話にも頷ける」
せや・・・あのヒゲの嬢ちゃんには
神様が取り憑いとるって話は、にーさんからも聞いとる。
何の神様なんかは、イマイチよーわからんかったけど
それでも、神様は神様や。
しかも、直接力を行使できるとかありえへんわ・・・。
特に【弁才天様】は色んな面で人気の神様やから
その力も、人数に合わせてかなり分散しとるやろしな。
【フソウ】から遠隔で力を送られとるお嬢とは
そりゃ、神力の桁が違ってて当然やろ。
「・・・ちゃうで! ジン」
「?」
「ウチかて、その事はおじさまや
エッちゃん本人から聞いて知ってるわ!
ウチが言いたいんは、そう言う事や無くて
ウチ本人の不甲斐なさの事や!」
「ふむ?」
「はーー?
ワイは別にお嬢が不甲斐無いとか思わんかったけどな。
少なくとも、アルファのにーさんの期待通りに
やれる事はちゃんとやっとったやんか?」
んんんん? ヒゲの嬢ちゃん程や無いけど
結構な数の【アンデッド】の浄化もやっとったし
ワイらの疲労軽減もしてくれたやろ?
割とえー感じに立ち回って怪我もせーへんかったし
へばって足引っ張る事も無かったと思うんやけどな?
お嬢は何がそんなに気にかかっとるんやろ?
「でも、逆に言うと、ウチはそれだけやろ?
ウチには最低限の事しかできへんかった。
おじさまに経験積む機会を貰うただけで
特に何の貢献が出来たって訳やあらへん」
「・・・はー、なるほどなるほど」
「・・・ふーむ」
あれ? まさかお嬢、勘違いしとんのちゃうか?
{もっと自分は活躍できたはずやのに!}とか。
{ウチの実力はこんなもんやない!}とか。
{最低限やったらおじさまに見限られてまう!}とか。
・・・・・・コレって、ワイが指摘せんとアカンの?
うわあ・・・めんどくさっ!?
ワイ、ご隠居達の護衛ってだけで
別にお嬢の身内でも師匠でも無いんやけどな。
そもそも人に指導するのとかって性に合わんし。
・・・でも、ま! しゃーないか~~~~~!
ここは、先達者としてビシッと言うたろか~~~~!
ホンマ、しゃ~~~ないな~~~~!!
「お嬢~、あのな~?」
「だから、ちゃうで? ジン」
「は?」
「多分、ジンが今言おうとしたんは
ウチ自身が活躍できへんかった、とか
おじさまにええとこ見せられへんかった、とか
そんな事やろ?」
「ふぁっ!? すごいやんお嬢。
正に今言おうとしたんがそれやで」
「ふむ、ユミネよ、そうではないと?」
「はい、おじいさま。
確かに、その気持ちが全く無いって言ったら
ウソになりますけど」
「けど?」
「それよりも、ウチに目をかけてくれた
【弁才天様】に申し訳ないって気持ちが強いんです」
「あー、・・・もしかしてアレか? アレ。
せっかく目をかけられてる上、加護まで貰っとるのに
その期待に見合うだけの能力を発揮でけへんかった~
とか何とか、そんな感じの」
「ふーむ、なるほどのう。
庇護の神に対する責任と言う訳か。
しかも今回は、他の神の信徒が一緒だったから尚更。
・・・うむ、確かにそれは難しい問題ではあるな」
「でもまー、しゃーないんとちゃいますか?
あっちのヒゲの嬢ちゃんには、本体が取り憑いとるんやろ?
それやったら・・・」
お嬢もご隠居様も考え過ぎなんちゃうか?
どー考えても、本体が憑いとる方が威力高いやろ。
どんどん力も貰えるんやろーし。
「それがそうでもないのだよ、ジン君。
詳しい話は長くなるので省略するが
単純な話、神と言うのは、認知度や信仰の大きさで
その【神格】が決まるのは、ジン君も理解できるだろう?」
「はあ、まあそのぐらいは」
「つまりな? ジン、ウチが言いたいんはな?
【弁才天様】は信徒が何千、何万人も居って
【フソウ】以外でも知名度高くて、【神格】もめっちゃ高いんや。
で、その【弁才天様】に加護されとるウチがな?
いくら【神憑き】って言っても、信徒1人で
誰も知らんような神様に加護されとる者と一緒に仕事して
神力の差で劣る結果になったって事は
【弁才天様】の顔に泥を塗ってもーたって事と同じやろ?」
「・・・はー、つまりは面子の問題って事やな。
まー、ワイにはイマイチその気持ちは分からんけど
理由はなんとなく分かったで~?」
せやねんなー、ワイの場合。
知名度皆無な町の小道場に通う程度の身分やったのに
超有名な大道場の門下生とか師範代とかに勝ちまくってもーて
むしろ、下克上かました側やったからなー。
いやー、あの頃はあっちこっちから恨み買ったぽいけど
そんなん知った事やないしなー。
さすがに、やられた側の面子とかちょっと分からんわ。
「ふおっ、ふおっ、ふおっ。
ジン君とはまるで逆の立場の話だからな。
こればかりは理解し辛いかもしれんのう」
「そーでっしゃろ? ご隠居様」
「は? 何の話ですの? おじいさま」
「うむ、ジン君の昔の武勇伝なので秘密なのだよ」
「・・・・・・武勇伝~?」
「・・・武勇伝で合っているよな? ジン君」
「いや、それワイに聞かんといて下さいよ」




