141 冒険者Aさんと物思いにふけるギルマス
あらすじ:フォックスさんはお疲れのようです。
視点:冒険者ギルド タンゴ支部 ギルドマスター ブラボーさん
『』:アルファさん
「うーむ・・・、市場の人達も慣れたもんじゃのう」
(ワイワイ、ワイワイ)
「きゃー、これも似合うわぁ」
「サクちゃん、今度はこっち着てみて!?」
「サバミソ君はこっち着てみてくれよ」
「その次は俺の所のこれをぜひ!」
「わあ! ノブユキさんって何着ても似合う!」
「ドキドキする!? ノブユキ君は男性なのに!?」
「凄いわねぇ、おばさん感心しちゃうわぁ」
(ワイワイ、ワイワイ)
「・・・全くですねえ。
この2年程で昔以上に壁が無くなった感がありますよお」
「そうじゃのう」
俺達は10年前にこの町にやってきて
【冒険者ギルド】の支部を立ち上げた。
元々、ここは60年程から開拓が始まった村であり
30年後には規模も大きくなり、正式に町となっとる。
どの土地でも、基本的に冒険者に求められる役割は
周辺の資源や地形・モンスターの調査。
町の防衛に害獣やモンスターの討伐、素材の回収。
町を行き来する商人や調査隊の護衛なんかもそうじゃな。
大体その辺りが主で、それを国や住民達にも求められとる。
じゃが、この町は、国の支援が有ったとは言え
住民達が自力でここまで繁栄させとる。
つまりは、元々、そこまで必要とされて無かった訳じゃ。
(ワイワイ、ワイワイ)
「アルファさん、こっちの魚も食べとくれよ!」
「これって野菜なのかい? え? 果物?」
「この包丁良いのう! ワシも取り寄せてもらおうかのう」
「へえ! これってそうやって作るんだ?」
まあ、当然じゃが、最初はそこまで期待されとらんかった。
そもそも、この国では冒険者ってのは兵士の補佐的なもの。
特に王都じゃと、完全にその認識じゃしな・・・。
そこら辺は今もたいして変わっとらん。
俺は本来の役割の【冒険者ギルド】を目指しとったから
研修の時に得た知識や経験、人脈も駆使して
地道にコツコツと実績を積み上げ
4年で、何とか今の規模までギルドも大きくなったし
ギルド会館も新築、総合宿の【ビアー】も誘致できた。
ま、これは俺よりも、リマを含めた職員達が
設立から踏ん張ってくれたおかげじゃがな。
(ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ)
「がっふがっふがっふ(ばくばくばく)」
「・・・・・・(もぐもぐもぐもぐもぐ)」
「ひゅまいひゅまい(ガツガツ、ムシャムシャ)」
「(ジュージュー)ひいっひいっ・・・まだ食うの!?」
あの場所だけ大変な事になっとるのう。
・・・まあ、分散させるよりは
纏めた方が良いという判断なんじゃろな。
実際、作っとる料理人以外は、上手くいっとる様じゃし。
・・・・・・ギルドの規模も大きくなった。
町の住人出身の冒険者も増えたし
他所から流れてきて、この町に拠点を移す者も増えた。
じゃが、職員の人数はそれほど増えんかったのう。
まだまだ、この町の住民からの認識じゃと
{町のお仲間}って程じゃ無かったんじゃろな。
(ワイワイ、ワイワイ)
「・・・割と順調に行っとると思ってたんじゃがなぁ」
「突然、なんですかあ?
・・・あー、昔の事思い出してるんですかあ?
まあ、アレは仕方ないんじゃないですかねえ。
何でも、規模が大きくなると
一緒に良くないものも、増えちゃうもんでしょお。
悪徳商人に詐欺師に高利貸しに、自称{自治体}に。
この町でも何度か有りましたしねえ」
「そう言って貰えると、幾らか救われるがのう・・・」
「はは・・・、まあ、昔から色々有りましたからねえ。
実際、ブラボーさんが気にしてる程
町の住民の印象は悪くなかったんですよお?」
うーむ、本当にそうだったら良いんじゃがのう・・・。
地元のヤンチャ坊主や、粋がる新人程度じゃったら
今でも居るし、どの支部でも毎年の様に沸いてくるもんじゃ。
それぐらいなら、どうにかなったじゃろうし
今もどうにかできとる・・・と思いたいのう。
じゃがなあ、まさかBランク冒険者を擁する【クラン】が
この町に拠点を移してくるとは思っとらんかったわ。
おまけにこれが、新進気鋭の成長株とかで
下地を積みにこんな辺境の地に来たのなら
大歓迎だったんじゃがな・・・。
3年前に来たのが、素行の悪い乱暴者集団。
後から聞いた話だと、大都市等じゃよくあるらしいんじゃが
自信満々で地方から大都市にやってきて冒険者デビュー。
腕力・体力自慢が、運良くトントン拍子にランクを上げるが
【神様の奇跡】を自分の力と過信した挙句に、行き詰まり。
周囲は真の実力者だらけで、自分が活躍できないから
水準の低い、地方や辺境に降って来て、そこで威張り散らす。
まあ、確かに{よくある話}ではあるんじゃよな。
元々、冒険者になりたいって奴は、多かれ少なかれ
{英雄願望}持っとるのが大半じゃしな。
(ザワッ)
「もっぎゅもっぎゅ、ごっくん!
フンガー、フンガー! ウマイーヨ!!
フンガー、フンガー! モットホシイーヨ!!」
「(もぐもぐ、ごくん)・・・エッセンちゃん、前と違わん?」
「(がつがつがつ)ふんぎゃらもっへもっへ(がつがつ)」
・・・・・・まあ、あんなのも居る訳じゃがな。