135 冒険者Aさんと思い出の料理
あらすじ:すき焼きの締めで、ほぐし豆腐の卵とじ。
視点:美味いと目が光る(と周囲が錯覚する) ゲンジロウ・フジさん
『』:アルファさん
(ボフーーーーン)
「はあ~、ウチお腹いっぱい、幸せいっぱいや~」
「うむ、料理だけでなく、部屋も用意してくれていた
ツール君には感謝せねばな。
さすがに、ジン君抜きで夜道を帰る訳にもいかんからな」
しかし、最近のユミネは前にも増して元気なったな。
恐らく、目標ができた事で、色々と吹っ切れたのだろう。
【フソウ】へ戻った後は、目的の為には
難問だらけで、一悶着どころでは無いと思うが
この娘の祖父、家族としては、喜ばしい傾向ではあるしな。
色々と手を貸してやらねばなるまい。
・・・・・・ふむ。
それにしても、あの{締め}は久し振りに食したな。
昔、ゴロウさんが亡くなる前は
私も何度かご相伴に預かったものだ。
「・・・おじいさま、おじいさま。
ウチ、ちょっと聞きたいんですけど
あの{締め}って何か特別な意味が有ったん?」
「うむ? ・・・ああ、そうだな。
確かに、特別では有る・・・か?」
「え!? やっぱり!? (がばっ)
おじいさま! どんな特別なんです?」
「ああ、あの{締め}と言うか、料理はな。
アルファ君の義父であるゴロウさんの手料理だったのだよ」
「ゴロウさんの?」
(コトッ)
「(ずずずっ)・・・・・・。(ごくん)
ゴロウさんはな、若い頃から【フソウ】だけでなく
世界中を駆け回っておったのだが、基本的に外食専門でな。
一切料理は作れなかったのだよ」
「あれ? そうやったんですか?
でも、それやったら???」
武芸一筋で常に【フソウ】に居た、弟のロクロウさんと違って
ゴロウさんは【行者組合】の【特派員】だったからのう。
どうしても外食頼りだったのは、仕方が無い。
・・・まあ、それはそれとして。
当時のゴロウさんの好物と言えば、せいぜいが
屋台でコップ酒片手に【ラーメン】と【おでん】ぐらいで
元々、特に食に対するこだわりは持っていなかったのだよな。
「うむ、切っ掛けはアルファ君を拾って養子にした事なのだよ。
その頃のアルファ君は、まだ幼い事や環境の変化もあって
無口・無表情で、ゴロウさんも珍しく困り果てておったな。
・・・ふふ、今思い出しても、{あのゴロウさん}が
あれほど、接し方で考えあぐねて、あたふたしていたなど
現役時代には考えられない事であったな・・・」
「・・・へえ~~~~!!
おじさまにもそんな時があったんや!?
今からやと考えられへんね!
ウチ、おじさまの昔話や、ゴロウさんの事って
ほとんど教えてもらってへんから、凄い新鮮やわ~!!」
「まあ、ユミネが生まれるよりも、ずっと前の話であるしな。
アルファ君も、自分からは昔の事を話さない方ではあるが
恐らく、聞けば話してくれると思うから
今度、程ほどに色々と聞いてみるといい」
「(ばっ!)わっかりましたわ! おじいさまっ!!
よおおおおし!!(ごおおおおおお!!!)
おじさまに聞きまくりますわ~~~~!!!」
「・・・い、いや、程ほどにだぞ? 程ほどにな?」
・・・だ、大丈夫であろうか?
あまりしつこく聞くと、印象が悪くなるのだが・・・。
仕方無い、事前にその辺りはお願いしておくとするかのう。
「(ぴたっ)・・・あっ! ところで、おじいさま。
話が逸れてしまいましたけど、続き聞きたいです!」
「う、うむ、続きか・・・。
まあ、ゴロウさんは手段が思い当たらなくて
周囲の人達に相談した結果、手料理を試す事になったのだ」
「ふむふむ!」
「そこで【湯豆腐】や鍋物なら大丈夫じゃないかと
作り方を教わって作ってみたそうなのだが
豆腐はぐしゃぐしゃ、野菜は大きさも長さもバラバラ。
味付けも濃すぎで、やたら甘じょっぱい。
さらに間違って、小鉢の溶き卵を上にかけてしまったそうだ」
「・・・あれ? それって」
「うむ、そうだ。
ユミネが今思った通り、偶然、例の料理に近くなった訳だ。
そして、さすがにゴロウさんは失敗だと思い
落胆して鍋を片付けようとしたのだが
アルファ君がそれを食べだしたそうでな」
「ええっ!?」
「恐らく、ゴロウさんが一生懸命に作ってくれたと言う事を
子供心なりに感じたのだろうな。
その料理を食べて、お礼を言ったそうなのだよ。
しかもな、無表情はほとんど変わらなかったが
涙をポロポロ流し始めながらな」
「ううっ! ええ話や・・・。
ウチ・・・、そういう話に弱いんや・・・(ぐすっ)」
ふむ・・・まあ、今話した部分だけ聞くと
そのような感想になるであろうな。
確かに、その日からアルファ君には
少しづつ感情が戻ってきて、表情にも出始めたらしいし
何年か後には、少しづつ話せるようになり
ゴロウさんを父と呼ぶ様にもなったそうだ。
その時のゴロウさんの喜びっぷりといえば凄かったな。
ああ、そう言えば、その頃からゴロウさんは商会の仕事に
アルファ君を連れて行く様になったのであったな。
うむ、実に懐かしい。
「ああっ! おじさまにそんな過去と感動的な秘話がっ!?
はあ~~~~、ウチ涙が止まれへんっ!!(ぐすぐすっ)」
・・・・・・ううむ、この話にはオチがあるのだが
ユミネの様子を見る限り、これは言わぬが花かもしれんのう。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・うむ。
「ユミネよ、実はな。
味付けが濃すぎて塩辛かったらしく。
子供の舌には刺激が強すぎて涙が出たそうなのだ」
「・・・は?(ぐすっ)」
「アルファ君が言うには、塩辛すぎて
怒りの感情が湧いたらしくてな。
お礼も言ったが文句も言ったらしいのう」
「・・・・・・ええっ!?」
「以後は、ゴロウさんに作らせてはいけないと思って
アルファ君がご飯を作るようになったそうだぞ?(にやっ)」
「・・・。
・・・・・・いやあああああああ!!?(ぶんぶん)
美談の秘話がーーーーーーー!!!!!
ウチの感動がーーーーーーーーーーーー!!!!!!」