123 冒険者Aさんと仕上げ作業 ②
あらすじ:女性冒険者は軌道に乗るまで大変なのです。
視点:タンゴの町 猟師で薬師 トロットさん
『』:アルファさん
『そんじゃ、さっき塗りこんだ塩を拭って
水で洗い流したら、これを代わりに塗りこむでー』
「はい、わかりましたー」
「アルさん、それって・・・薬草ですか? うおっ」
「や、薬草だか?」
「えっと、薬草なんですね?」
『せやでー? 見ての通りの薬草やわ。
すり潰すと結構な量使うからなー
トロットじーさんに、たっぷり持って来て貰ったんや』
ふうむ、アルファのやつに頼まれて
とりあえず、有るだけの在庫を持って来てくれ
・・・と言われたから、持ってきたんじゃが。
ああ、なるほどのう。
確かに、それじゃったら大量に必要じゃな。
まあ、さすがに、なめしまではやらんじゃろうし
それまでの保存用ってところじゃな。
アレだけの数を一気に持ち込んだら
さすがに、ゼークスのやつもかかりっきりじゃろうし。
今度、なめし作業ぐらいは手伝ってやるかのう。
「えっと、今から、この薬草をですねー。
ミケがジャンジャンと細かくしていきますから
それを、ご主人様が用意してくださった
この溶液の入った壺に入れて
グッシャグッシャと混ぜ合わせてください」
『んで、混ぜたやつをな
毛皮の両面に塗り込んでいく訳やわ』
「は、はい、わかりました! うおっ」
「はーい! まず薬草を混ぜるんですね!」
「お師様、この溶液・・・。
何か特殊な薬品とかなのでしょうか?」
ふうむ、あの小娘が聞いてくれたか。
いや、ワシも溶液とやらが、気になったんじゃよな。
アルファのやつ、たまにじゃが
平気な顔して、こっちが気後れするような
とんでもない素材を使ってたりするからのう。
『あー、これかー?
いや、ただの山の麓の綺麗な湧き水やで?
それに、あーっと、えーっと・・・・・・油!
そーそー、香油みたいなもんを混ぜただけの溶液やわ。
薬草の効能を増加させるだけの代物やな。
うんうん、なーんも不自然な事は無い、せやろ?』
「・・・あ、はい(察し)」
おお、そうか、そうか、油か、うむうむ。
まあ、あれじゃな。
いつもの、聞かん方が良さそうなアレじゃな。
・・・それにしても、あの小娘が多分。
アルファのやつが言っとった弟子じゃよな?
む? 小娘・・・小娘でいいんじゃよな?
あやつ確か、小僧って言っとらんかったか?
「さあ、ミケも頑張りますわよ!(しゃききーーん!!)」
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
▽ ▽ ▽ ▽ ▽
▽ ▽ ▽
▽
(ネッチャネッチャネッチャネッチャ)
「アルファさん、裏側だけじゃなくて、表側も塗るんですよね?」
『せやでー。
たっぷり塗ってええで! ・・・たっぷりとなっ!!!』
「アルファ殿、何で今、溜めたんでござる?」
「それにしても、薬草って
傷を治せるだけの物じゃ無いんですね? うおっ」
「私も、薬草をすり潰して塗ったら
保存効果が有るなんて知らなかったです」
「そ、そう言えば、前、商隊で働いてた時に
食べ物なんかの商品箱の中に
一緒に薬草の束を入れてるのを見た事が有るんだな。
あ、アレも保存の為だったのかな?」
「ほう、なるほどな。
確かに、薬草はすり潰さんでもそれなりに効果が有るぞ。
ハエなんかも寄ってこんから、虫除けにもなるしのう」
「何にでも効くんでござるなー、実に便利でござる」
「便利・・・と言うか、不思議な草ですね。
塗って効くだけじゃなくて、食べても効くなんて」
「そう考えると、確かに不思議な草ですね、この薬草って」
『(ぱんぱん)ほれほれ~。
今はその不思議な草を塗りこむ時間やで?
薬草の話はまた今度なー。
そうそう、皮の端っことかも、忘れずにしっかり塗りこみや~』
(すたすたすた、ドドドンッ)
「ご主人様~、これだけあったら十分ですわよね~?」
『おっ、ご苦労さんや、ミケ。
そんじゃ皆、たっぷり塗り込んだら、次の作業行くでー。
お次は、端っこを内側に全部折り畳んでいくんや。
大体こぶし1個分ぐらい折り畳んでったらええわ』
「(にぎにぎ)こ、こぶし1こ分・・・」
『あー・・・サクは手ぇちっちゃいから2個分ぐらいなー』
「は、はいっ」
「・・・・・・ご主人様」
『・・・・・・何やミケ』
「にぎにぎ!!(かわいい)」
『せやな、にぎにぎ!!(かわいい)』
「・・・お前ら、主従でどういう会話しとるんじゃ?」
相変わらず、意味分からん会話をするやつらじゃな。
あれも信頼関係と言うんかのう?
ふーむ、それにしても・・・(じろじろ)
こっちの幼女が、アルファのやつが養子にしたって娘っ子か。
・・・・・・ふうむ。
魚の小僧はともかくとして
タヌキの嬢ちゃんと言い、弟子の小娘と言い
養子の幼女と言い・・・まさかとは思うんじゃが
まさか、アルファのやつ、そっち方面・・・。
『・・・いや、ちゃうから』
「そうですよ、違いますよ? トロットさん
ミケがご主人様を敬愛していて
ご主人様もミケを愛して下さってるだけなのです。
つまりミケだからです。
おわかりになられましたか?」
「お、おう・・・」
相変わらず、勘の良い主従じゃのう。
こっちが思っとる事が筒抜けじゃわい。
・・・もしくは、まさかワシがわかりやすいのか?
「まー、確かにわかりやすい方ですけど
そういう訳でもありませんので、ご安心を~」
「なんじゃ、そうか。
わっはっはっははは!
・・・・・・いや、それはそれでどうなんじゃ?」
『まーまー、トロットじーさん。
そんな細かい事どーでもええやんか。
それよりも、もう全体的に折り畳んでくから
畳むの苦戦しとる子達を手伝ってやってくれへん?
な? ベテランの熟達した腕前、見せたってや~!』
「あ! それだったら、すみませんが
こっち教えてもらえませんか?
端っこがうまく折れないんですけど?」
「むう、仕方ないのう・・・(のそのそのそ)
ほれ、嬢ちゃん! よう見とけ。
端は切り揃えとらんから、バラバラでもええんじゃ。
一旦、少し多めに内側に畳むじゃろ?(ぴっ、ぽいっ)
で、(ズルルル)折り畳んだ所を基準にして(ズルルル)
抑えながら少しづつ、外にずらしていくんじゃわい。
な?(ピタッ)塗ってる薬草がええ具合にくっつくから
綺麗に畳めるじゃろ?」
「おおーっ!? なるほど、確かに!!
うん、こうやったら良いんですね?
ありがとうございます!
他の所も今のやり方でやってみますね!」
「おー、さすがトロットさんですねー。
開拓村時代からの熟練した腕前ですわ。
モブ子ちゃん、今の畳み方は
皮だけじゃなくて、服でも布でも、生活の中で
色んな物に応用できるんで覚えておくと良いですわよ~
線をピッと綺麗に揃えられる畳み方ですね」
「モブコさん。
お店で綺麗に畳んである服とか見た事ありませんか?
アレは今の畳み方の応用なんですよ」
「え!? ・・・あ! あー! な、なるほど!」
『そしたら、ボチボチ全体の畳み方を説明しとくわ。
あー、まだのもんは焦らんでええで。
ってゆーか、焦って雑になるのが一番アカンからなー』
「う!? ま、待って欲しいでござる!(あせあせ)」
「わ、わかったでござる!(あせあせ)」
「は、はやくせねば!!(あせあせ)」
「だから、焦るなって言ってるでしょーが!
ご主人様のお話をちゃんと聞きなさいよ、ござる一家!」
「・・・・・・ふぅ」
「あらあら~~」
『あー、後からまた説明したるからな。
何度もゆーけど、焦んなやー?
・・・そんじゃまー、畳み方やねんけど。
実際、これはたいして難しくないんやわ。
まず、横の端を持って(ズルルル~)
反対の端の方へ折る。(パサン)
で、横を折ったら次は縦やな。
これを何度か繰り返すだけや』
「あ、確かに難しくは無い?」
「まあ、あれじゃ。
注意点を付け加えるなら。
畳む時に内側と内側を極力くっつけて畳んで
空気に触れさせない様に気をつけるぐらいじゃな。
隙間ができるようじゃったら、余った薬草を
間に突っ込んどけば良いわい」
『おー! ナイス助言!!
そんじゃ、そんな感じでやってってくれなー。
俺は別の用事が有るから
今の内に、馬車工房行って、おやっさん呼んでくるわ』
「あ、はい。
え、別の用事ですか? うおっ」
『せやで! 缶詰作りや!!』