109 冒険者Aさんと戦争 ②
あらすじ:出発進行! オマケ付き。
視点:タンゴの町 町長補佐 フォックスさん
『』:アルファさん
「何を言っとる!? ゼーロ、耄碌したか?」
「トロット、お前こそ何を言っとるんじゃ!?」
・・・ええ~っと、確か【ノール】でしたっけえ?
【冒険者ギルド】の連絡だと、【ゴブリン】とかみたいな
集団で活動するモンスターが町の近くに居るって事で
アルファさん達が討伐に行ってくれてるらしいですねえ。
王都の方では【ゴブリン】やら【オーク】やらが
結構出るので、軍が出張ってるらしいですねえ。
あっちでの冒険者って、軍の予備兵扱いなせいで
全然ベテランが育たないって聞いてますが
そこんところは、実際どうなんでしょうねえ?
「当然、サクサクに決まっておるじゃろ!?」
「バカな・・・クタクタに決まっておるわ!!」
(ギャーーーギャーー)
「ねえ、フォックスにいちゃん。
なんでうちのおじいちゃんとトロットおじいちゃんは
あんなにおこってるの?」
「それはですねえ、ファイフ君。
お2人共、もう結構な年寄りだから
頭がボケちゃってきたからなんですよ?」
「「(バッ)誰がボケとるじゃと!?」」
「なぁんだあ、聞こえちゃってたんですかあ?
まあったくう、お2人共お。
ファイフ君もいるのに大人気無い事しないで下さいよお」
「まあまあ、お2人共、好みはそれぞれなんですし」
「そうだよ、おじいちゃんたち、けんかなんてよくないよ!」
「う・・・ううむ」
「ぬ・・・ぬぐっ」
「せっかく、良い【蕎麦】を頂いたのに
上にのっける【天ぷら】ごときの事で
揉めてどうすんですかあ?」
ついこの間。
アルファさんから良い【蕎麦粉】を頂いたんですよねえ。
せっかくだから【本家・アパカッ】のツーさんにも
おすそ分け・・・と言うか、いっその事、全部あげちゃって
美味しい【天ぷら蕎麦】を作ってもらおうと言う事になって
今日のお昼は、ゼーロさんとファイフ君
納品に来ていたトロットさんと屋台広場へ来たんですよねえ。
あのメス豚ヤロウ?
ははは、盛大に寝坊して、仕事滞らせてる愚か者に
教えるわけがありませんよおおおお。
・・・まあ、アレには、帰りに何か手軽に食べれる物でも
屋台で買っていってやればいいでしょうしねえ。
「しかしのう、ツーの坊主よ~?
(ずるずる~、さくさく、ごくごくごく)
・・・ふう~~~、うむ!
やはり上にのせた【天ぷら】はサクサクの状態で食うのが
一番美味いとワシは思うんじゃよ!」
「まあ、確かに【天ぷら】の香ばしさと独特の食感は
サクサクの状態ならではでしょうね。
そういえば、アルファさんに聞いたんですが
イカやエビを炒ったり乾燥させてから粉にして
それを【天ぷら】にした【天カス】というのもあって
結構美味しいらしいですよ」
「ほう!? 【天カス】じゃと?」
「ええ。
大量に作れて、作り置きもできるらしくて
お手軽に振りかけて食べれるから便利そうですし
今度、作り方聞いて作ってみようかなと思いましてね」
「ふむ、そういうのもあるんじゃな。
じゃがな、それはそれとして、ツーの坊主よ?
この・・・汁をたっぷり吸って
(ずるずるずるずる、もにゅもにゅもにゅ、ごっくん)
・・・ふぅ~~~、クタクタになった衣ならではの
具材と衣と汁を一緒に味わえる感覚!
一体感とでも言うんじゃろうかのう。
ワシはこれでこそ【天ぷら蕎麦】じゃと思うんじゃよ。
サクサクで食いたいなら、別に上にのせる必要はなかろう?」
「確かに、僕もそれはこの料理の醍醐味の一つだと思います。
クタクタになるまで汁を吸わせた衣って
汁の味だけじゃなくて、独特の甘さが加わりますし
パン粉の揚げ物と違って、あまり油っぽさを感じませんしね。
シチューやグラタンにパンを浸した時に似た感じ。
・・・そうですね、あの違和感の無さは
トロットさんが言われる、一体感って言葉が近いと思います」
(ザワザワザワ、ゴクリッ)
・・・なるほどねえ。
こうやって、ツーさんの解説が加わると
何割り増しかでおいしそうに聞こえますねえ。
私の頼んだ分はまだでしょうかねえ。
「わー! どっちもおいしそうだね!」
「むっふっふ、そうじゃろうそうじゃろう。
だが、こっちのサクサクの方が美味いに決まっとる」
「まだ言うかこのジジイ!
クタクタの良さが分からんとは、残念なやつじゃのう」
「なんじゃと!?」
「まあまあ、お2人共、ファイフ君の言う通りですよ。
どっちも美味しいで良いじゃないですか。
美味しい物を食べてる時に喧嘩は無しですよ」
「ううむ、そうじゃのう(さくさくさく)」
「まあ、確かにのう・・・(もにゅもにゅ)」
(ザワザワ、ザワザワ)
おっと、遠巻きに見ていた他のお客さん達も
集まってきちゃいましたねえ。
まあ、このお2人がちょいと騒ぎすぎましたかあ。
「ところで、ファイフの小僧とフォックスの小僧は
まだ食っておらんようだが、お前らのはどうしたんじゃ?」
「ああ、私達のは今作ってもらってますよ?
お2人のより早くできるらしいんで
先にそちらを作ってもらったんですよ」
「「何?」」
「はい、2人共お待たせしました。
【冷やし天ぷら蕎麦】です」
「「冷やしじゃと!?」」
(ザワワワッ)
「うん、ぼくあついのにがてだし。
わー! おいしそう!
いただきまーす!」
「それに今日は良いお天気ですしねえ。
私のとファイフ君のは冷やしにしてもらったんです。
・・・どれ、私も頂きますよお」
「「・・・・・・」」
「うんうん、これですよねえ。
冷やして締まった【お蕎麦】って
温かいのより、粉の風味を感じられやすいですし。
程よく冷めた【天ぷら】も好きなんですよねえ。
サクサクからカリッとした歯ざわりに変わるんですけど
こっちの方が食材自体の風味が広がるんですよねえ。
濃い目の【つゆ】にもよく合いますし」
「温かいのは温かいで美味しいんですけどね。
麺や具材、それと出汁自体の風味をしっかり味わうなら
確かに、冷やしの方が向いてるかもしれませんね。
麺も小麦で作った物より、ボロボロと脆いですから
冷やしの方が噛み応えや喉ごしが良いですしね」
(ゴクリ、ゴクリ、ゴクリ)
「おい、店主、こっちもアレくれ! 冷たいの!」
「わ! 私は熱いのを!」
「私には!」
「俺にも!!」
「ぐぬぬぬぬ!!!」
(ザワザワザワザワザワ)
あちゃあ。
何か騒ぎになっちゃいましたねえ。
ま、あっちで悔しそうにしてるワン君はともかく
ツー君には良い経験になるでしょうし。
(・・・ドドドドドドドドドドド)
・・・んんん?
何か聞きなれた爆音が近づいてきますねえ。
(ドドドドドドドドド、ズザザザザーーーーーー!!)
「ぜえっぜえっ! わ、わ、私にもおおおおおおお!!!」
・・・来やがりましたよ、メス豚ヤロウが。




