ありえない!
2.ありえないだろ?
さて、そんないまいち方向性の定まってないオレ物語はこれから変わっていくのだろう思うのだけど。
2度も最愛の人に裏切られてきた俺ではあるが、アニメを見ながら空想世界に浸る時間はすべてを忘れられる時間でもある。
「俺も転生したらすごい能力に目覚めたりするのだろうか?今度こそ可愛い女の子と一緒に冒険したり出来るのだろうか?」
なんてバカな夢を抱く毎日。
ただ、転生する条件はほとんどが「不慮の事故等で死んで転生」がお決まり。
そんな確証も持てないのに死んでたまるか。
子供達ともう会えないなんて絶対に嫌だ。
現実と妄想が大混雑していまいちファンタジーにのめりこめない自分がいる。
第一、俺が異世界に行ってもねぇ。。。。アニメだけでいいや。
今日も仕事に行く。
朝起きて顔を洗い、歯を磨き。
何も変わらず車に乗って出勤。
いつもと違ったといえば、仕事を終えて駐車場に行くと車のボンネットの上に黒猫が寝ていたと言う事くらいか。
「てめぇ!俺の愛車に何してんだ!」
黒猫はびっくりして逃げるように去っていったが家に帰る途中、助手席に目を向けるとそこには何故か黒猫が鎮座していた。
「怖っ!いつ乗ったんだ?」
黒猫は全く動じずに前をじっと見ていた。
「ホラーか!?」
一人で猫にツッコミを入れる。
「まぁいいか、お前うちで飼ってやろうか?どうせ俺一人だし、会社でも家でも基本喋らないから話し相手でもなってくれよ。」
なんて独り言を言っていたその時だった。
急に車が加速。アクセルは踏んでいない。メーターは振り切れる寸前の180Km/hを表示している。
ブレーキを何度も踏むが全く効かない。
「マジで?壊れた?このスピード、事故るぞ!?ハンドルも効かない!まずい!」
なんて考えてる間に何故か後ろからものすごい衝撃がきた。
俺の車は見事に吹っ飛び3回転半した後に追い討ちを掛けるように崖下に転落。
すべてがスローモーションで痛みは意外になかったが意識が消えた。
目を覚ますと、病院のような所にいた。
この部屋には誰もいない。しかし病院というにはヤケに昔じみた診療所といった感じかな。
「どこだここは?俺事故ってそれから。。。。。助かったのか?」
体の痛みは思ったほどない。
ただ、右腕と右足に大きなギブスがはめられていた。
「折れたのか?骨なんて今まで折ったことないから分かんないけどこんな感じなのかな?」
「そう言えばあの黒猫は助かったのかな?」
「事故ったのはマズイな。。。罰金とか来るんだろうか?免停かな。仕事できないじゃん。」
「ある意味俺の人生詰んだな。はははっ」
マジで笑える。涙も出てこない。
これがアニメなんかで言う異世界転生の始まり的な感じならいいんだけど、事故を起こして今に至るまで俺は神様や天使的な人にはあった記憶がない。
まぁそんな妄想を膨らませることしか今の俺にはすることがない。
そんなことを考えてると廊下の方から声が聞こえた。
扉が開き入ってきたのは医者と看護婦だった。
「君、目が覚めたのか!良かったよ!うちに運び込まれてから半年間ずっと昏睡してたんだ。」
声がうまく出ない。日頃誰とも喋ってない弊害か。
って半年も意識不明で入院!?入院費。。。。。オワタ。
なにか喋りたそうにしている俺を見て医者は続ける。
「声が出ないのも無理はないよ。半年間も眠っていたんだ。戻るまでもう少し時間がかかるよ。」
「よく頑張ったね。今はゆっくり休むといい。」
それにしてもなんだろう。。。どこか違和感を感じる。
数日が経った。
俺はやっと声が戻り状況を把握することにした。
医者の話では俺は、川から流されていたところを釣りをしていた子供に発見されてこの病院に担ぎ込まれたらしい。
ここは俺が住む隣街の病院らしい。
あの高速の下に川なんてあったかな?
そして、俺の身分を証明できる物は何一つ見つからず警察も意識が戻るまで様子を見るということ。
ここまで聞いて分かるように、と言うか当たり前だが、俺は異世界転生なんてする訳もなく現代世界に舞い戻ってきた。
警察が来て事情聴取が行われた。
「君、名前と年齢は?」
「一条 弥白36歳です。」
「36?なんで川で溺れてたの?」
「いや、溺れてたわけではなく事故を起こして崖から車ごと落ちたんです。多分その時に川に落ちて流されたんだと思います。」
警官は不思議そうな顔をして言った。
「車?事故?そんな事件は隣町では起こっていないよ。」
「君の住所は?ご家族とかはいる?」
「離婚して今は家族はいません。住所は○○○です。」
「離婚?あまり警察官をからかっちゃいけないよ!君、どこから見てもまだ10代でしょ!?」
「はっ??若く見られるのは嬉しいけど、警察相手にサバ読んだりしませんよ。」
何か会話が成り立ってない。。。
「子供が半年も意識不明で入院しているのに親は捜索願の一つも出してないし、身分を証明できる物も持っていない。どうしましょうかね。」
警察官同士で話し合って居る声とは裏腹に俺は状況が理解できないでいた。
警察官が帰った後、ようやく車椅子で病室を出れるようになった俺は病院を散歩がてら頭の困惑と違和感を考えていた。
外に出ようと玄関に向かうと玄関の外に見覚えのある黒猫が座っていた。
「あっ!あの黒猫!か?」
急いで玄関に向かって出る前に止まる。
そう、違和感の原因が判明した。
今まで部屋に鏡もなく車椅子で移動してトイレにも行けなかった俺は事故後初めて自分の姿を玄関のガラスで確認した。
玄関のガラスに写っていた自分の姿はどこからどう見ても子供だったのだ。