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やっぱり、あのルートでしょうか

「まさか、こんなに早く」


「王都のそばまで迫っているという情報です。どうやら、商人を装って、国境を越えたらしい」

「それにしたって、早すぎる。少しずつ魔鉱石を運び込んでからと思っていたんだが」


 いくら友好国でも国境には警備兵がいる。

 大量の魔鉱石を加工国が生産国に持ち込むのは、目立つだろう。


 加工済みの商品を納品するという形なら自然だが、それでは納品先や出荷元の情報を伝えなければならない。

 偽の情報を流せば、かえって怪しまれかねない。


 だからこそ、チェックの緩い少量の荷物に分けて持ち込むと思っていたのにと、ヴィルが歯噛みをする。



「ザクレス公爵が王領まで手引きした可能性があります」

「ザクレス……王領の隣か」


「そうです。ブルート王国と国境を接しているのがロンメル伯爵領、そしてザクレス公爵領、王領と続きます。ロンメル伯爵はザクレス公爵側の人間なので、王領まで手引きするのは難しくないでしょう」


「でも、何のためにそんなことを」


 わざわざ戦争の火種になるような真似をする意味が、エルナにはわからない。

 ザクレス公爵としてはスマラクトが王位を継げばいいのだから、戦争を起こす意味はないのではないか。


「エルナの言う通りだ。ブルート王国はともかく、この国にはメリットがないだろう?」

「……僕を失脚させるためでしょうね」

 グラナートは顔色を変えることもなく、淡々と答える。



「どういうことだ?」

「ヴィルの存在が知られているのなら、僕と癒着して国境を手引きをしたことにすればいい。ロンメル伯爵もザクレス公爵も僕に脅されたとでも証言すれば、罪を擦り付けられる」


 ヴィルは偽名を使って学園にいるが、一国の王族なのだから顔を知っている者がいてもおかしくない。

 そこから第三王子がヘルツ王国にいると知られ、学友であるグラナートと癒着があったと言われれば信じる者もいるだろう。


 王子と言えど、他国から兵と兵器を勝手に越境させて何のお咎めも無しというのは難しいだろう。

 そのせいで被害が出れば、なおさらだ。


「多少の被害を出して、王子の愚行が知れ渡ればそれでいいのか。それなら、開発中で数が揃っていない魔鉱石爆弾でも事足りる。そして、次期国王と外戚のザクレス公爵に恩を売れば、魔鉱石の取引にも有利になる。……第一王子の考えそうな、浅はかな知恵だ」

 ヴィルは悔しそうに拳を握りしめる。



「それなら、グラナート王子はここに残ってほしい。俺が止めに行く。近衛兵を貸してくれるか」

「駄目ですよ。それでは、僕たちが癒着していると認めたことになる」

「では、スマラクト王子に行ってもらうのはどうだ? 兄弟仲は良いと聞いているぞ」


「その場合は、僕のせいで訪れた危機を兄が救ったということにするでしょうね。僕の継承権を剥奪されるのは構いません。だが、ミーゼス公爵をはじめとする、僕を擁護する貴族に迷惑はかけられない。……それに、国を危険に晒してまで自分の利益を求める愚行を許すわけにはいかない」

 いつもの穏やかさとは別人のように、グラナートの表情は厳しい。


「だから、グラナート王子が行って、公爵の工作を止めると言うのか? もしも今回の兵が第二王子の指示で動いているのなら、あいつは、最悪ザクレス公爵との協定も無視して戦争を始める可能性だってある。行くのは危険だ」


 第一王子は利益のために被害を出してもいいという考えだが、第二王子は利益のために戦争を仕掛ける可能性があると言うのか。

 どちらにしても、行けばグラナートの身は危険に晒されるではないか。


 心配になってグラナートを見ると、すっと視線を逸らされた。

 それは、エルナの気のせいだったかもしれない。なのに、何故か胸がちくりと痛んだ。



「だとすれば、なおさら兄を行かせるわけにはいきません。兄は次期国王です。……僕には、この国の王子として生まれた責務があります。逃げるわけにはいかない」

 全く引く様子のないグラナートに、ヴィルも言葉を飲み込む。


「王領に入ってすぐの平原で、今は警備兵が食い止めています。兄は父に報告と、王宮の警備にあたってくれます。同時に、この情報が漏れないようにしながら、ザクレス公爵の横やりを防ぐと言ってくれました。僕はすぐに現場に向かいます。ヴィルはどうしますか」


「勿論、行くに決まっている。すまないが、同行させてくれ」

 そう言うと思ったとばかりに、テオドールが細身の剣をヴィルに渡す。


「俺は殿下の護衛です。ヴィルは自分の身は自分で守ってください」

「もちろんだ」


「……エルナさんは、帰宅していてください」


 急な話の流れについていけず、ヴィルが腰に剣を佩くのをぽかんと見ていると、グラナートの穏やかな声が耳に届く。

 ハッとしてそちらを見るが、既にグラナートはヴィルと何か打ち合わせをしていた。



「――私も行きます!」


 それまで静かにしていたリリーが、手を挙げる。

 ヴィルは怪訝な顔をしていたが、グラナートは暫し考えるとうなずいた。


「エルナ、レオン兄さんから絶対に離れるなよ」


 去り際にテオドールに小声でそう言われたが、ちゃんと返事をできたか覚えていない。



 あれ、これはやっぱり、グラナート王子ルートなのかな。

 ぼんやりとそう思いながら、エルナは学園を出た。


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