番外編 リリー・キール 1
虹色の髪に、紅水晶の瞳。
これだけでも人目を惹く組み合わせだというのに、更に小柄で華奢。
自分で言うのもなんだが、顔も悪くないと思う。
リリーは、幼い頃から異性から好意を向けられていた。
正確に言うなら、つきまとわれていた。
いわゆる『守ってあげたい』という感情をピンポイントでつついてしまっているらしく、勝手に儚げでか弱いということにされがちだ。
おとなしくて控えめだとも言われた。
「それは、あなたに関心がないから話をしていないだけだ」と言っても、全く伝わらなかった。
男というものは脳みその弱点が虹色の髪なのかというくらい、リリーに夢を見ていた。
夢見がちなのは勝手だが、つきまとわれるこちらはたまったものではない。
男達は無駄な火花を散らしてリリーにいいところを見せようと必死だし、女達は嫉妬で嫌がらせをしてくるか、無関係であろうと離れていく。
まともな交友関係を築くこともままならない。
リリーはそういったものを諦め、官吏になりたいという自分の夢を追った。
男達は女の幸せは結婚にあると言ってリリーを諭し、女達は平民では無理だとリリーを嗤った。
そんな声を振り払うように、魔力を磨いて学園の入学を勝ち取った。
ほとんどの生徒が貴族という学園に入ることで、人間関係を一新できる喜びも束の間。
入学式で転んだ拍子に王子に倒れこんでしまい、早々に女子から強力な悪意を浴びる羽目になった。
そもそも、リリーは自分で転んだわけではない。
誰かが足を引っかけたのだが、それを言ったところで事態が変わるとも思えなかった。
この学園でもまた、普通の友達もできずに過ごすのか。
いっそ、この髪をバッサリ切ってやろうか。
そんなことを考えている時に、彼女に会ったのだ。
「何をしましょうか。こころゆくまで刺繍三昧もいいですね。そういえば赤の糸がそろそろなくなりそうでしたね。買いに行かないと。品質が良くて低価格のお店を調べないといけませんね」
貴族のご令嬢だろうに、品質が良くて低価格なんて珍しいことを言っているなと思った。
後ろ姿ではあったが、濃い灰色の髪が艶めいて美しい。
虹色なんて目立つ髪じゃなくて、ああいう落ち着いた上品な色が良かった。
何となくその色と佇まいに癒されて、つい声をかけてしまったのだ。
「あなたは私を避けないんですね」
少し驚いた。
入学式でのことは広く知られているようだったし、珍しい平民ということもあってリリーはそれとなく生徒達に避けられていたのだ。
「はあ、そうですね」
リリーに興味がないのか、返事も普通の声色。
それが、どれだけ貴重なのかリリーは身に染みてわかっている。
この人は、他の人とは違うかもしれない。
「祭り上げず、排斥せず、奢らず。それに……」
それに、彼女からは不思議な力を感じる。
多分、珍しい魔力の持ち主なのだろう。
他人に興味を持つのは久しぶりだった。
この人のことを知りたいと思った。
この人なら、リリーのことを理解してくれるかもしれない。
小さな期待を胸に、リリーは灰色の髪の女の子に問うた。
「あなたのお名前は?」










