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瞳の秘密を知りました

「……はい?」

 何を言っているのかわからず、思わず声をあげてしまう。


「殿下の話を聞いて俺も知ったところだが、間違いないだろう」

「で、殿下? どういうことですか?」


「ハンカチを投げつけたという直後に、殿下はお前の瞳を見ている。透き通った水色に虹色の光が煌めいていたと言っていた。聖なる魔力を使った証だ」


「そんな。私、知りません!」

 混乱するエルナに、テオドールは苦笑する。


「自分じゃ見えないから無理もない。だが、殿下の証言と呪いの魔法を消した事実がある。お前も母さんの瞳と魔力を継いでいるんだよ。……そうと分かっていれば、エルナにも詳しい事情を話しておいたんだけど。知れば危険が増すからと、母さん達に口止めされていたんだ」


「でも、そんな魔力今までなかったのに」

「確かにこんなにハッキリと現れたのは最近だが、領地でも少しは兆候があった。幸運のハンカチもそうだ。今まで、なんだか悪いものが避けていくことがなかったか?」


 悪いものが避ける、と聞いてエルナは学園での令嬢達の嫌がらせっぽいものを思い出す。

 令嬢がなんでバケツに水を入れて運んでいるのかと思ってはいたが、もしかしてあれは。


「ああ、それはお前に水をかけるために運んでいたんだろうな」

「じゃあ、教科書の並びが変わっていたのも、突然目の前で令嬢が転んだのも」

「聖なる魔力で中和されたんだろうな」


 何で中途半端な嫌がらせっぽいことをしているのかと思っていたが、本来はちゃんと乙女ゲーム的嫌がらせを企てていたようだ。


 思い返せば、側妃にさらわれて閉じ込められた時も、扉の鍵が開いていた。

 どんなうっかりだと思っていたが、あれもそうなのかもしれない。



「リリーは、ちゃんとわかっていたぞ」

「え?」


「エルナがいないと殿下に伝えに来た時に、魔力が狙われているのかもしれないと言っていたから話を聞いたんだ。殿下はすぐに飛び出して行ったけどな」

 いや、護衛なのだから、そこはグラナートを追いかけるべきではないのか。


「エルナに初めて会った時から、珍しい魔力があるのはわかっていたらしい。気になってハンカチをもらったら、浄化の力があったって。平民の自分といると嫌がらせを受けるかと心配したけど、悪意が中和されていくから安心していたんだと」


 そういえば、令嬢がすれ違いざまに転んだ時にリリーは「因果応報です」と言っていた。

 あの時は、いつも嫌味を言っているからだという意味なのだと思っていたが。


「お前を転ばせるか何か、しようとしていたんだろうな」

「そんな力があったなら、ならず者に襲われることもないのでは?」


「それは、悪意と浄化のバランス次第だ。本気でエルナに怪我を負わせようという気概が令嬢には足りなかったんだろう」


 流血沙汰も辞さない覚悟の令嬢がいなかったことに感謝ということか。

 嬉しいような、何とも言えない気持ちだ。



「母さんはおまえを産むまで、虹色の髪だったんだ」

 虹色の髪だったことは聞いたが、それは初耳だ。


「おまえの瞳は、虹色の髪の魔力も閉じ込められている。……多分、俺よりも強く聖なる魔力を継いでいると思う」


 そんな馬鹿なと言いかけた脳裏に、先ほどのグラナートの言葉がよみがえる。

 美しい水宝玉(アクアマリン)と虹を見ていたいと、確かそう言っていた。


 何のことかわからず聞き流していたが、虹というのは瞳のこと。

 つまり、聖なる魔力のことだったのか。


「じゃあやはり、聖なる魔力を保護しておきたいということですね」


 自分に聖なる魔力があるというのはにわかには信じられないが、テオドールが嘘をついているとは思えない。

となると、グラナートは貴重な魔力保持者を手元に置きたいから、婚約なんて言い出したのだろう。


「保護?」

 テオドールは水を飲みながら、エルナの分もコップに注ぐ。


「殿下が水宝玉と虹を見ていたいと。他に渡したくないから、婚約してほしいって」

 言い終わる前に、テオドールが盛大に水を噴き出した。



「やだ、汚いです、テオ兄様」

「悪い。急だったから」

 テオドールは口元をぬぐうと、エルナの分のコップを手渡す。


「それで、なんて返事したんだ」

「無理ですとお断りしました。国として保護しておきたいというのはわかりますが、殿下の妃になる方に申し訳ないですから」


「……おまえ、そう言ったのか?」

「はい」


「殿下は何て?」

「その後眠くなってしまったので、よく覚えていないです」

 テオドールは額に手を当てて首を振ると、勢いよく椅子から立ち上がった。


「殿下を呼んでくる」

「え? どうしたんですか?」

 急なことに、エルナもうろたえてしまう。


「も、もしかして、殿下の命に逆らったから不敬罪になるんですか?」

「何でそうなるんだ」

 テオドールはエルナの肩に手を置く。



「言葉が伝わっていないどころか、こじれているのはわかった。いいから、殿下とちゃんと話せ」

「……はあ」


 テオドールはあっという間に部屋から出て行ってしまい、エルナはぽつんと取り残される。


「ちゃんとって、何を話すのでしょうか……」

 ベッドに倒れこんで考えてみるが、やがて襲ってきた睡魔に抗えずにゆっくりと瞼を閉じた。


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