表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/182

虹の聖女は誰ですか

「虹の聖女……?」


 それは、側妃が言っていた聖なる魔力を持つという人のことだろうか。

『虹色パラダイス』の聖女ルートのことなのだとしたら、その人は。


「リリーさん、ですか?」

「僕も、同じことを考えていました」


 苦笑いするグラナートの様子からしてどうやら違うらしいのはわかる。

 だとすればどういうことなのか。

 ヒロインであるリリー以外に聖女がいるとは思えないのだが。


「一年ほど前に、父に護衛をつけると言われました。それまでも度々命を狙われているような事がありましたが、特に頻度が増してきている気がしていたので、そのせいだったと思います」


 エルナはうなずいた。

 グラナートが狙われていたというのは、テオドールも言っていたので知っている。


「そこでテオを紹介されました。テオ・ベルクマンというのが偽名なのは分かっていましたし、テオも父もそれを隠そうとはしていませんでした。僕は、素性を隠した者を信用して命を預けられないと断りました」


 グラナートの意見は最もだと思う。

 まして、誰に命を狙われているのかはっきりしていない状況だったなら、なおさらだ。


「そこで父は言ったのです。『虹の聖女の紹介だから、おまえを呪いの魔力から守ってくれる。決しておまえを裏切らない』と」



「虹の聖女は実在するのですか?」

 そもそも、虹の聖女というものがよくわからない。


「魔力の色が七色で、特別な浄化の力を持つと言われています。伝説に近い話としてなら聞いたことがありましたが、僕も半信半疑でした」

 王子であるグラナートが知らないのなら、ありふれた存在ではないようだ。


「だが、テオが僕のそばに就いた日から、明らかに身の危険が減ったのです。最初は、テオが勤勉に護衛をしているからかと思っていましたが、どうもそれだけではありませんでした」


「そうですね。テオ兄様に勤勉は似合いません」

 きっぱり言うエルナに、グラナートは苦笑いを浮かべる。


「テオは剣の腕が立つし、あれで機転も利きますよ。だが、そういうことではなく、テオがいるだけで悪いものが中和されるとでも言えばいいでしょうか。僕の周囲の危険は格段に減りました。そこでようやく、虹の聖女というのが実在するかもしれないと思い始めたのです」


 テオドールにそんな効果があったなんて、妹のエルナでさえ初めて聞いた。

 いや、レオンハルトなら知っていたのかもしれない。

 以前、テオドールが何故護衛をしているか聞いた時に『任務内容に関わるから教えられない』と言っていたのだから。



「僕が学園に入学する際にも、もちろんテオはついてきました。何故かそわそわしていたので、何だろうと思っていたのですが、あれはエルナさんに会うからだったのでしょうね」


「……そうですね。私は事情を知らなかったので、余計なことを言うかもしれないと気が気ではなかったのでしょう」


 それなら事前に教えておいてほしいとも思ったが、聖女に王子の身の危険など、知らないでいられればその方が幸せなので、何とも言えない。


「少し違う気もしますが……ともかく、学園でテオが妙に構うので、僕はエルナさんとリリーさんに挨拶をすることが増えました」


 つまり、グラナートと接する原因になったのは紛れもなくテオドールのせいということだ。

 怪我が治ったら、渾身の平手打ちをお見舞いしなくては。


「リリーさんの虹色の髪は珍しいですし、他とは違う魔力も感じていました。その頃、清めのハンカチの噂を聞き、『グリュック』が平民と聞いたので、リリーさんが『グリュック』で、虹の聖女とも関わりがあるのではと思ったんです」


 なるほど。

 それで段々とグラナートの方からも挨拶なり話しかけてくるようになったわけだ。

 リリーが虹の聖女と関わりがあるか、見極めようとしていたのか。


「ちょうど、兄と姉が清めのハンカチを僕にくれたのもその頃でした。ハンカチからは清浄な魔力が滲み出ていていましたから、清めというのは本当のことだと分かりました」


「滲んでいるんですか? 見えるものなんですか?」

 そもそも、何でそんな魔力が付加されているのだろうか。


「これでも王家の直系ですので、多少の心得はありますから」

 王家、凄い。

 側妃が言っていた、魔力の色を見るというのも王族なら可能なのかもしれない。



「ハンカチから滲む魔力をリリーさんからも微かに感じ取れたので、『グリュック』というのはリリーさんのことなのだろうと思いました。ですが、テオのこともあります。聞いたところで答えてもらえるとは思えなかった。だから、エルナさんに話を聞いたんです」


 それで、リリーの魔力について情報を得るために、エルナが呼び出されたわけだ。

 ということは、あの時点ではまだグラナートの好感度はそれほど高くなかったのだろう。


「テオはエルナさんのことを、遠い親戚と言っていました。でも、ノイマン邸の場所を知っていたり、騒動の後に僕のそばを離れてまでノイマン邸に様子を見に行くのを見て、二人は恋仲なのかと思っていたんですよ?」


「ええ? それはないです……けど、確かにあの後ノイマン邸からテオ兄様が出てくるのを見たと女性に尋ねられましたね。まったく、うっかりしているんですよ、テオ兄様は」

 不満げな顔のエルナを見て、グラナートは苦笑する。


「エルナさんが襲われたのは清めのハンカチの店のそばでした。『グリュック』の手掛かりをあちらも調べているのがわかりましたから、次の朝すぐにリリーさんと話をしてみたんです」


 ということはエルナがリリーに会う前に、二人は話をしていたということか。

 ヒロインと攻略対象が朝から二人で話となれば、好感度アップは間違いない。


 きっとハートやキラキラのエフェクトが乱れ打ちだったのだろう。

 実際には見えないけれど。


 それでグラナートについて聞いて『別に何も』というのだから、リリーも照れ隠しが上手いものだ。



「リリーさんはどうやら魔力に恵まれているようで、すでに多少の魔法が使えるそうです」


 さすが、ヒロインの納得の高スペックである。聖女であるはずのリリーならば、魔法を使えても驚きはしない。


「でも、ハンカチの魔力とは質が違いました。話をしていると、彼女の持っていたハンカチから清浄な魔力を感じました」

 グラナートはいったん言葉を止めると、じっとエルナを見つめる。


「……あなたが、『グリュック』だったんですね」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ