番外編 スマラクト・ザクレス
「未プレイの乙女ゲームに転生した平凡令嬢は聖なる刺繍の糸を刺す」
6/5 書籍2巻がDノベルfより発売です!
※詳しくはあとがき参照。
※コミカライズ企画も進行中!
こちらはスマラクトが公爵になったあたりのお話です。
「お兄様は、本当にこれでよろしいのですか?」
スマラクトが王宮を出てザクレス公爵邸に入ったその日、妹のペルレがそう訊ねてきた。
言いたいことは大体わかるが、ペルレもスマラクトの考えをおおよそ理解しているはず。
つまりこれは行動の撤回を検討するようなものではなく、確認……いや、ただの世間話のようなものだ。
「こうするためにずっと準備してきたのは、ペルレも知っているだろう? 多少のズレはあったが、概ね予定通りだ」
「ですが、お兄様はずっと国王になるために学んでいらしたのに」
ペルレはため息をつくが、我が妹ながらその様は実に美しい。
王族から貴族になったペルレには、既に多くの縁談が舞い込んでいた。
もちろん、それらは今まで通りスマラクトと異母弟グラナートの手で処理している。
万が一にもペルレが知れば、必要な相手にあっさり嫁いでしまうだろう。
それではこれまでの苦労が水の泡になってしまう。
騎士を夢見る活動的な妹は、王女という立場ゆえ我慢を強いられてきた。
せめて結婚くらいは本人の望む相手を選ばせてあげたい。
同様にグラナートにも幸せになってほしいと考えた結果が、現在の状況だ。
スマラクトは第一王子として生まれ、当然のように次期国王として扱われた。
周囲はもちろん、スマラクト自身も王位を継ぐものだと思っていたし、それに何の疑問も持たなかった。
だがグラナートの母であるローゼ王妃が亡くなってから、それが一変した。
ローゼは体が弱っていたとはいえ、その死因は恐らく呪いの魔法。
特殊なそれを使えるほど魔力に恵まれ、かつローゼを死に至らしめる理由がある者。
感情を抜きにして考えれば、それはスマラクトの母である側妃……ビアンカ以外にあり得なかった。
とはいえ、確たる証拠はない。
父王も動けない中、グラナートの身に危険が迫るようになった。
あわや命を落としかけたグラナートを見て、スマラクトは覚悟を決めたのだ。
まず父王にお願いしてできる限りの護衛をグラナートにつけてもらう。
相手が呪いの魔法を使うかもしれない以上、ただ剣の腕が立つだけでは心許ない。
虹の聖女の紹介で対抗手段を持つ護衛をつけるまでは、スマラクトもかなり気を使ってグラナートを見守った。
それから「即位後に補佐をしてほしい」という名目で、グラナートに自身と同様の内容を学ばせた。
その間に何度か正面からも匿名でもビアンカの行動を諫めたが、結局は変わらなかった。
ビアンカが望んだのはスマラクトが王になること。
だから、王位をグラナートに譲る。
至極単純であり、子供のような思考。
だがグラナートの身を守るにはこれが一番の近道だ。
そう考えて準備を重ね、あとはグラナートを説得するだけだったが、そこであっさりと拒否される。
困っていたところにビアンカ側の作為で事件が起こり、その結果スマラクトは王位継承権を返上することに成功した。
スマラクトを王にするための算段が、皮肉にもそれを失わせる一助となったのだ。
「確かに、俺は小さい頃から王になるための教育を施された。……だからこそ、俺が王になるべきではないと判断できたんだよ」
倫理的にも、弟の安全のためにも、そしてビアンカ自身のためにも。
しっかりとけじめをつけるべきことだったのだ。
グラナートに責任を押し付けたような形になったのは少し申し訳ないが、優秀な弟ならば問題なくこなせるだろう。
守りたい存在ができたグラナートは、見違えるように強くなった。
きっと、良き王として国を導いてくれるはずだ。
「グラナートの想い人は、子爵令嬢だったか。風当たりが強いだろうから、気にかけてあげなさい」
「もちろんですわ。グラナートの大切な人で、剣豪の妹ですもの」
何度もうなずくペルレを見て、スマラクトは首を傾げる。
「剣豪というと、〈瑠璃〉かい?」
騎士を夢見るペルレの気晴らしにと見せた剣術大会で、桁違いの強さを見せた少年。
……いや、流れた年月を考えればもう青年と呼ぶべき年頃だろう。
「ええ。エルナさんのお兄様なのだそうです」
楽しそうに語るペルレの表情は柔らかい。
その真珠の瞳の輝きを見たスマラクトは、思わず目を瞬かせた。
ペルレが剣豪のファンだというのは知っていたが、これはもしかするともしかするかもしれない。
自由に結婚相手を選べるように準備してきたつもりだけれど、このぶんだとそれが役に立つ日も近そうだ。
「お兄様、何だか楽しそうですわね?」
口元を綻ばせるスマラクトを、ペルレは不思議そうに見ている。
「そうだな。……春が近いからだろう」
スマラクトはそう言うと、愛しい弟妹を想って微笑んだ。
【6/5「未プレイ令嬢」2巻発売決定!】========
「未プレイの乙女ゲームに転生してしまいました」
書籍版「未プレイの乙女ゲームに転生した平凡令嬢は聖なる刺繍の糸を刺す」
\\ 6/5 集英社Dノベルfより 2巻発売決定! //
改稿加筆に番外編とあの人の特別編も加えてお届けします。
今回も小田すずか先生の美麗絵がとんでもないので、キュンキュン間違いなし!
冒頭からなろうとは違うので、楽しんで頂ければ幸いです。
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