番外編 テオドール・ノイマン5
「未プレイの乙女ゲームに転生した平凡令嬢は聖なる刺繍の糸を刺す」
6/5 Dノベルfより発売です!
※コミカライズ企画も進行中!
こちらは第1章開始前のノイマン家のお話です。
「邪悪な聖女は白すぎる結婚のち溺愛なんて信じない 愛されたいと叫んだら、無関心王子が甘々にキャラ変しました」
6/20一迅社文庫アイリスより発売! 詳細はあとがき、活動報告参照。
「テオドール」
「わあっ!」
突然かけられた声に、テオドールは思わず悲鳴をあげる。
声からして別人だとわかっていても、緊張状態で背後から話しかけられたら驚いて当然だ。
「父さん、頼むから気配を消して背後に立たないでくれる?」
ため息をつくテオドールの前にいるのは、黒髪に瑠璃の瞳の男性だ。
これといって特徴のない、ごくごく平凡な容姿。
記憶に残らないと評されるその人は、マルセル・ノイマン子爵。
テオドールの父親だ。
だが騎士見習いであるテオドールに一切気配を悟らせずに後ろをとれるあたり、もう影が薄いとかそういう次元を超えているような気がする。
「気配を消すなんて、そんな器用なことはできないよ。ユリアさんじゃあるまいし」
「母さんは変な光線を四方八方に放っているんだから、気配を消すという言葉の対極の存在だろう」
マルセルの妻にしてテオドールの母のユリア・ノイマン子爵夫人は、普通の女性ではない。
もはや人間なのかも怪しいし、「実は魔王です」と言われたら納得しかない。
剣の腕前は剣なしで人間を吹き飛ばせるほどで、その魔力は底なし。
更に「聖なる威圧光線」とテオドールが名付けた謎の何かを放っているのだから、本当にとんでもない。
「ユリアさんは、まあ……目立つからねえ」
そういう問題でもないのだが、ここで問答をしている場合ではない。
「とにかく、俺がここにいることは内緒にして。特にレオン兄さんと母さんには……」
「私が、何?」
「ひいいっ!?」
声を上げながら慌てて顔を向けると、そこには焦げ茶色の髪に黒曜石の瞳の女性が立っていた。
「何よ。帰っていたのなら、声をかけなさい。ちょうどレオンハルトも邸にいるのよ?」
「……だから声をかけなかったんだよ」
テオドールの呟きは届かなかったらしく、ユリアは気にする様子もなくマルセルの腕にしがみつく。
「マルセル様、お茶の用意ができました」
「では、いただきましょうか」
見つめ合い、微笑み合い。
子供の目の前にしてはなかなかのいちゃつき具合だが、正直その調子で頑張れとしか思えない。
ユリアの放つ聖なる威圧光線は、マルセルと接していると弱まる傾向にある。
平凡地味な体のどこで何を吸収しているのか謎ではあるが、とにかくユリアの威力が少しでも弱まるのはありがたい。
「それじゃあ、俺は行くから」
王都で騎士見習いとして寮生活をしているのは、ユリアとレオンハルトとの遭遇率を下げるためだ。
必要な荷物があったから領地の邸に帰って来たが、まさか普段は王都にいる長兄がこちらに滞在しているとは思わなかった。
何かにつけてテオドールに剣の稽古をつけたがる二人だが、魔王と剣豪を相手にしては体がいくつあっても足りない。
ここはとにかく早期撤退。
それがテオドールの命を守る絶対条件だ。
「テオ兄様、帰っていたのですね!」
可愛らしい声は、妹のエルナだ。
この家で唯一の癒しの存在に返事をしようとして、その隣の人物に体が強張る。
「せっかくだから、皆でお茶にしようか」
穏やかな笑顔を向けるのは、長兄レオンハルト。
何と、図らずもノイマン子爵家勢揃いである。
皆楽しそうに微笑んでいるが、テオドールの脳内では注意喚起の鐘が鳴りやまない。
「いや、俺は……」
「テオ兄様、一緒に行きましょう?」
エルナに腕を掴まれれば、無視することはできない。
客観的に見ればごく平凡な容姿に属するエルナだが、兄からすると可愛くて仕方がない妹である。
特に魔王なユリアやレオンハルトを見た後には、エルナの素朴さが心に染みる。
――守りたい、聖域。
そういう意味では、本性をエルナに決して見せないユリアの気持ちもわからないでもない。
「一杯だけだぞ。すぐに出発するから」
寂しそうに目を伏せるエルナには申し訳ないし、本当ならもっと話もしたい。
だが、滞在時間が伸びる程にテオドールの残りの命は減っていく。
何故実家で命がけなのだと悪態をつきたいが、とにかく今は身の安全が最優先なのだ。
「ちょうど街道で崖崩れが起きたと知らせがあったところだよ。無駄足にならなくて良かったね、テオドール」
レオンハルトがそれはそれはいい笑顔を向けてくるが、いっそ崖と共に崩れた方がまだましだったかもしれない。
山がちなノイマン領で崖崩れとなれば、開通には数日を要するはず。
つまり……テオドールの命は風前の灯火だ。
「じゃあ、まずはお茶にしましょう」
ユリアの言葉にエルナがうなずいて楽しそうに走っていく。
「まずは」お茶なのだ。
その後に何があるのかを知っているテオドールには、ただ一人何も知らないエルナの笑顔が眩しかった。
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こちらは新作書き下ろし。
聖女と聖剣の主という最強英雄夫婦にして超政略結婚から一年。
理不尽が積み重なり酔っていたこともあって、ヒロインは思わず叫びます。
「私だって、愛されたい!」
すると今まで別居&無接触無関心だった夫が、突然甘々に……!?
ということで、今回のヒーローは無関心王子に見せかけて実は変態……愛が重い……いえ、愛情深いです!
愛情過多のヒーロー、つよつよヒロインが好きな方は是非!
一迅社アイリス文庫「白すぎる結婚」公式ページはこちら。
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特典ssの詳細は公式に載っていないのでHPでご確認ください。
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\\ 発売感謝リクエストSS //
明日も更新予定です。