番外編 ファーデンの店員
「未プレイの乙女ゲームに転生した平凡令嬢は聖なる刺繍の糸を刺す」
6/5 Dノベルfより発売です!
※コミカライズ企画も進行中!
こちらは第1章の「ファーデン」の店員さんのお話です。
「邪悪な聖女は白すぎる結婚のち溺愛なんて信じない 愛されたいと叫んだら、無関心王子が甘々にキャラ変しました」
6/20一迅社文庫アイリスより発売! 詳細はあとがき、活動報告参照。
――これは、とんでもない客が来た。
刺繍糸を主に扱う店『ファーデン』の店員は、開かれた扉から現れた人影に思わず息をのむ。
一言で言えば、美少女だ。
だがその程度というか方向性というか、髪の色がとんでもない。
頭頂部は淡いピンク色なのに少しずつ色を変えて七色に艶めく、まさかの虹色。
魔力の強さによって髪色が変化するという話を聞いたことはあるけれど、こんなにはっきりとわかりやすい人物は初めてだ。
しかも虹色の髪の時点で目を引くのに、その顔立ちも文句なしの可愛らしさ。
貴族御用達の学園の制服を着ているということは貴族令嬢なのだろうし、天は二物を与えるという言葉がぴったりである。
しみじみと思いながらも、表情には出さず接客を続ける。
これくらいできなければ、平民から貴族までを相手に商売など無理な話だ。
店員は笑顔で刺繍糸を並べる。
実際に糸を見に来たのは虹色の美少女ではなく、その連れの濃い灰色の髪の少女だった。
こちらも学園の制服を着ているので貴族令嬢なのだろうが、何というか……地味だ。
隣に超絶美少女が立っているせいもあるのだろうけれど、平凡としか言いようがない。
瞳だけは水宝玉の輝きが美しいけれど、それ以外はごく普通だ。
こう言っては何だが、同じ女性として美少女の隣には並びたくないので、何となくこの少女に感情移入してしまう。
「二十四番の赤は派手過ぎず、周りの色と調和して使いやすいですから。ウチでも人気の商品ですよ」
いくつかの糸の束を並べると、灰色の髪の少女は真剣に見つめている。
「七番も定番ですね。淡くて女性的な赤です。二十番は明るい色の布にはもちろん、暗い布でも映えるので重宝します」
「どれも素敵ですね。迷います」
赤い糸が欲しいというのでいくつか見繕ったが、どうやらこの少女はかなりの刺繍好きらしく糸を見る目が違う。
こうなると店員としてもやりがいがあるので、つい説明にも力が入る。
「でも、今はやはりこれが一番のおすすめですね」
美しい深紅の糸を取り出すと、予想通り水宝玉の瞳がキラキラと輝いた。
「この三十九番は上品で華やかな濃い赤が素晴らしくて。柘榴石の瞳の色に似ているからと、恐れ多くも『グラナートの赤』と呼ばれているんです」
「本当に綺麗な赤ですね」
うっとりと糸を眺める姿に、何となく店員も誇らしい。
実際この糸は手間暇と材料費がかかっているので、相応のお値段だ。
それでも人気なのは非公式とはいえ、王子の名を冠しているのも大きい。
王族は皆麗しいことで知られているが、『グラナートの赤』の元になった第二王子も赤い瞳の美少年だという話だ。
人は皆、美しい物が好きだ。
さらに高貴となれば、なお興味が湧く。
「王族の名前を勝手に付けて呼んでいたら、不遜ですからね。あくまでも通り名であって、店としては三十九番の赤と呼んでいることになっています」
その秘密がまた、人の興味を引いて人気になるのだから面白い話だ。
少女達が件の王子の同級生らしいと知った時には少し肝が冷えたけれど、わざわざ訴えることもないと思うので大丈夫だろう。
熱心に糸を見て購入してくれたこともあって、店員はすっかりこの少女達が気に入っていた。
「では、うちのお店で出してみます?」
刺繍したハンカチを売っていたという少女にかけた言葉は、それほど珍しいものではない。
『ファーデン』では手作り品の委託販売もしているので、見込みのある人にはこちらからお願いすることも多い。
だがこの灰色の少女の刺繍の腕前を見る前に声をかけたのは、それとは少し違う。
明確な理由はないけれど、確固たる自信があった。
これを逃してはいけないという、商売人の勘とでもいうのだろうか。
実際に少女が持ってきた刺繍を見て、それは確信に変わる。
――これは売れる。
刺繍自体もとてもよくできた美しい仕上がりだったが、それとは別の何かが店員の心に訴えかけていた。
だがしかし、その予感はまさかの方向で裏切られる。
「清めのハンカチ」という名で爆発的な人気を得て、平民どころか貴族からも予約が殺到するなどと、誰が予想できただろうか。
「本当に何かの力が宿っているのかもしれませんね。……いつも、どんな風に刺繍しているのですか?」
学園の生徒なのだし、魔力の影響を受けている可能性だってある。
そう思ってハンカチの納品時に尋ねてみると、灰色の髪の少女――エルナ・ノイマン子爵令嬢は水宝玉の瞳を輝かせた。
「嫌なものなくなれとサンドバッグを殴る感じです!」
もの凄い勢いに負けてうなずいたが、結局よくわからない。
納品を終えたエルナを見送ると、店員は深いため息をついた。
「見た目は平凡で地味なのに、刺繍はとんでもない。……こっちがあの子の本質なのかもしれませんね」
見た目に騙されているようでは、自分もまだまだだ。
店員は気合いを入れ直すと、今日も山のような予約を笑顔で受けるのだった。
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刺繍好きの平凡令嬢と美しすぎる鈍感王子の焦れ焦れラブファンタジー!
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番外編では鈍感王子の焦れキュン裏話も!
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是非、手に取ってみてくださいませm(_ _)m
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こちらは新作書き下ろし。
聖女と聖剣の主という最強英雄夫婦にして超政略結婚から一年。
理不尽が積み重なり酔っていたこともあって、ヒロインは思わず叫びます。
「私だって、愛されたい!」
すると今まで別居&無接触無関心だった夫が、突然甘々に……!?
ということで、今回のヒーローは無関心王子に見せかけて実は変態……愛が重い……いえ、愛情深いです!
愛情過多のヒーロー、つよつよヒロインが好きな方は是非!
一迅社アイリス文庫「白すぎる結婚」公式ページはこちら。
https://www.ichijinsha.co.jp/iris/title/jaakunaseijo/
特典ssの詳細は公式に載っていないのでHPでご確認ください。
https://hanaminishine.wixsite.com/nishine-portfolio
\\ 発売感謝リクエストSS //
ということで、昨日気が付いて慌ててTwitterでテーマを募集しました。
明日も更新予定です。