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人類全滅ですか

「つらかったら、僕にもたれてくださいね」

「は、はい」


 結局、グラナートは馬車までエルナを抱き上げたまま運んだ。

 周囲の視線は痛くて、針の(むしろ)とはこういうことだと身をもって実感したが、腕を振りほどいて歩ける元気もない。


 諦めて力を抜いたせいでグラナートに寄り添うような形に見えたらしく、周囲の人々が更なる歓声を上げていた。


 とにかく馬車に乗ったのだから、あとは移動しながら手を振る。

 できるだけ自然な笑みを浮かべながら、手を振る。

 それさえ乗り越えれば、舞踏会が始まるまで少しは休めるだろう。


 すると、窓を叩く音が聞こえ、そこには馬に乗ったテオドールの姿があった。

 グラナートが窓を開けると、外の風が入り込む。

 その清々しさに、ほっと息をついた。



「殿下、ロンメル伯……うわっ!? エルナ、おまえ大丈夫か?」

「そんなに顔色が悪いですか?」


 何か報告があったのだろうに、それを中断して声を上げさせるほどとは。

 そうなると、青い顔で笑っているのも怖いだろうし、エルナはパレードで顔を出さない方がいいかもしれない。


「いや、それよりも。……ああ、そうか。聖なる魔力で瞳を戻すのに、母さんが……。よく、生き延びたな」


「テオ兄様も、経験があるのですよね」

 確か、ユリアがそう言っていたのだから、その時に今のエルナのような状態になったのだろう。


「一度な。思い出したくもない。魔力酔いでフラフラ。起きていられなくて、頭をぶつけたよ」

「なるほど。そうなると、一応抱っこは理にかなっていたのですね」


 ソファーに横になれば十分だとは思うが、ユリアなりにテオドールの時の教訓を活かしたのだろう。

 まあ、抱っこを選択したのは「見目楽しいから」らしいので、どうかと思うが。


「抱っこ?」

「聞かないでください。……そういえば、テオ兄様も聖なる魔力を使いましたよね? 瞳の色は大丈夫だったのですか?」


「俺はもともとそんなに長く瞳の色が変わることはない。最初だけ気を付ければ大丈夫だ。あの時はそれどころじゃなくて、俺の瞳をじっくりと見るような人もいなかったしな」


「でも、お母様の力で元に戻されたのですよね?」

 たいして間を置かずに戻るのなら、わざわざユリアの手を借りる必要もないと思うのだが。


「あれは、母さんが興味を持って。瞳の色が変わった一瞬にやられた」

「やられた、って」


「正直、思い出したくもない。……まあ、いい。色が戻ってもフラフラだろう? 無理はするなよ」

「はい」


 実際に同じ目に遭っただけあって、テオドールは心配そうにエルナを見つめたが、すぐに表情を引き締めた。



「殿下。ロンメル伯爵は捕らえ、牢に入れてあります。協力者と思しき貴族も数名捕らえ、すべての邸に人をやりました。神官にも協力者がいたようですが、こちらは脅されていたようですね。『聖女』の力を目の当たりにして、自分の行動を悔い、ひたすらに懺悔しているそうです」


 デニスは伯爵ではあるが、もともと国でも有数の名門ザクレス公爵家と懇意だった家だ。

 脅されてしまえば、神官一人で太刀打ちできる相手ではなかったのだろう。


「どうやら、ペルレ様を取り込んでロンメルの復権を狙っていたようです。それが上手くいかず、唆されたようですね」


 やたらとペルレに絡んでいる印象ではあったが、あれは美女を狙っているというだけではなかったらしい。

 どちらにしても、ペルレが巻き込まれなくて良かったと安堵するばかりだ。


「やはりヴィル殿下の懸念通り、ブルートの元王子達が関わっているのでしょうか」

「恐らくは。現ロンメル伯爵自身には、秘密裏に魔鉱石爆弾を入手する伝手も手腕もあるとは思えません。自尊心だけは立派なので、そこを利用されたのでしょう」


 辛辣な評価ではあるが、実際にこれだけ愚かな真似をしているのだから、正確な表現と言っていい。

 何故ロンメルの影響力が落ちたのかという意味を理解していなかったのだから、自分の行動の責任は取るべきだろう。


「そちらはヴィルに任せましょう。既にブルート貴族に指示を出し、舞踏会が終わったら本人もすぐに帰国するそうです。ブルートの調査と照らし合わせると、あれが最後の魔鉱石爆弾で間違いないようですが……」


 難しい話が続いて疲れたのか、何だかふわふわする。

 エルナはそっと小さなため息をついたが、それを見たテオドールが眉間に皺を寄せた。



「いや、エルナ。おまえ、少しは抑えろ」

「何がですか?」


「……無意識なのか?」

 何を言われているのかわからずテオドールをじっと見つめると、困ったように頭を掻いている。


「瞳の色は母さんが抑え込んだから戻っているけれど、聖なる魔力自体は消えていない。それどころか、母さんのぶんも追加されて二人分の聖なる魔力の残り香を放っているようなものだ。……殿下、大丈夫ですか?」


 問いかけられたグラナートは、穏やかな笑みを返している。

 テオドールの最後の言葉に、エルナはようやく何を危惧されているのかに気付いた。


「そうか、聖なる魔力を使うと異性は浮かされる。殿下が危険ですね」

「忘れたのか。一応、俺も聖なる魔力を使っている」


「ということは……人類全滅ですか」

 衝撃の事態に、エルナの顔色が更に悪くなった。




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(詳しくは、活動報告をご覧ください)


※「未プレイ」第5章も終盤に入っています。

その後については活動報告をご覧ください。



「未プレイ」ランク入りに感謝!


次話 これは本当に大丈夫……なのでしょうか?


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― 新着の感想 ―
[一言] >聖なる魔力の残り香を放っているようなものだ 聖なる殺戮光線を乱れ撃ちしてるんだな
[良い点] 殿下が危険w いや、でもその影響は気持ちに素直になる系だったと思うので…危険なのはエルナのほうでは! あ、テオ兄さまのほうは反撃スキルだからそんな危なくないと思ってます。
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