リリーの味方だからこそ
「なるほど。そんな風習があるのですか。エルナさんは物知りですね」
王宮の一室にグラナートとヴィルヘルムスに集まってもらい、さっそくブライズメイドの話を伝える。
グラナートは感心しているが、日本の記憶なのであまり深追いしないでほしい。
「リリーさんは乗り気というか……滅茶苦茶やる気なのですが。国として問題があるのか確認したくて。あとは、ヴィル殿下の意見も聞きたいですし」
「さすがにヴィルに下働きをさせるわけにはいきませんが、その内容でしたら問題ありませんよ。友好のアピールにもなりますしね」
そう言われてみれば、隣国の王太子自らが手伝うのだから親密さはかなりのものだ。
これで両国の仲が更に良くなるのならば、願ってもない効果である。
「打ち合わせという形でリリーさんと王宮で会えるようになりますし、当日も私達のそばに二人がいる形です。存分に話してください!」
「ありがとう、エルナ」
もうさっさと攫ってくれないかなとは思うが、それではリリーの心は頑ななままだ。
好意自体はあるのだから、あとは二人で心ゆくまで話し合って今後を決めてほしい。
「ヴィル殿下は言葉が足りません。結果、失礼です」
「わかった。気を付ける。……エルナは応援してくれるんだ?」
少し嬉しそうに視線を向けられたエルナは、ゆっくりと首を振る。
「いえ。前にも言いましたが、私はリリーさんの味方です」
「そうだったね。確か、グラナート殿下は応援してくれるんだよね?」
「そうですね。その時には。まあ、そこまで到達するかどうかは、ヴィル次第ですが」
暗に頑張れと言われたヴィルヘルムスは、困ったような笑みを浮かべるが、すぐに顔を引き締めた。
「ところで、魔鉱石爆弾の件だが。……やはり、ヘルツ王国に流れた可能性が高い。心当たりは?」
「一番可能性が高いのはブルートの王子と通じていた家ですが、ザクレスは問題ありません。ロンメルも既に邸を捜索しましたが……ひとつだけならば、どうにでも隠せますからね」
二人の表情が一気に曇るが、それも当然のことだ。
爆弾として使われるのも困るが、それ以上に魔力のひずみが怖い。
それなりに魔力を持つヴィルヘルムスですら、かすり傷でかなり苦しんだ。
あれに直撃されたら、命にかかわるのは間違いないだろう。
「所在も問題だが、うちの異母兄達がもしも関わっているなら……狙うのは俺だろう。結婚式では二人から離れた方がいいかもしれない」
「戦争目的なら、僕を狙うでしょう。どちらにしてもテオのカウンターを考慮すると、まとまっていた方が都合がいいです」
現状、魔力のひずみに対抗できるのは聖なる魔力だけ。
それを確実に使えるテオドールだが、効果の範囲はそこまで広くないらしい。
狙われる可能性がある二人が近くにいるのは危険性が上がる気もするが、一番怖い呪いの魔法と魔力のひずみ対策としては、まとまっていた方がいいようだ。
「わかった。迷惑をかけて、申し訳ない」
「こちらにも協力者がいたことですし、気にしないでください。呪いの魔法以外なら、僕でも対応できますから。それに、未来のブルート国王に恩を売って損はありません」
にこりと微笑みながら紅茶を飲むグラナートに、ヴィルヘルムスの顔も少し和らいだ。
「結婚式にはブルートの上位貴族も数名参列するし、今回の訪問でいくつか取り引きもある。せっかくの友好関係を壊すようなことは許せない」
「……あの。難しいお話の途中で申し訳ありませんが。リリーさんが別室でずっと待っています」
エルナの言葉にこぼれ落ちるのではないかというほど目を瞠ると、ヴィルヘルムスは勢いよく立ち上がった。
「――そういうことは、もっと早く!」
慌てすぎたヴィルヘルムスは、そのまま何もないところでつまずいて転ぶ。
それも、豪快に頭から床に突っ込んだ。
その勢いは、まるで野球のスライディング。
ホームベースもない絨毯の上に転がるヴィルヘルムスに、少しだけ高校球児の面影が重なった。
「だ、大丈夫ですか?」
床から体を起こしたヴィルヘルムスは、赤くなった鼻を押さえている。
「俺はもともと、王太子なんて立場とは無縁で、よく街で遊んでいたんだ。異母兄達を退けてまで王太子になった以上はしっかりしなければと、気を張っていて……でも、リリーといると落ち着くんだ」
呟く様はまるで小さな子供のようで、何だか放っておけない。
「上手く、いくといいですね」
「あれ。応援してくれるの?」
「私は、リリーさんの味方です。だからこそ……上手くいくといいな、と思っています」
エルナの言いたいことを察したらしく、ヴィルヘルムスの口元が綻ぶ。
「……うん。ありがとう」
赤鉄鉱の瞳を細めてそう言うと、ヴィルヘルムスはそのまま部屋を出て行った。
「本当に、上手くいくといいですけれど」
二人が互いに好意があることはわかっているが、隔てるものは大きく高い。
それでも乗り越えてほしいと思ってしまうのは、リリーの幸せを願うからだ。
紅茶を飲んでほっと息をつくと、何やらグラナートが口元に手を当てて考え込んでいるのが目に入った。
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次話 グラナートの必殺技が!