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王子は狙って損はないらしいです

「そんなに王子や騎士と恋仲になりたいものでしょうか」


 今日も朝からグラナートとテオに挨拶されてはすり抜け、令嬢達に嫌味を言われ、昼休みに中庭でリリーと休憩中である。


 最近はこの流れが恒例行事となりつつある。

 いつもと違うことと言えば、今日はすれ違いざまに令嬢が派手に転んだくらいだ。


 リリーが天使の笑顔で「因果応報です」とか言い出すから、焦った。

 エルナに足をかけられたとか言いがかりをつけてくるのかと心配したが、本当に転んでびっくりした様子で何も言ってこないので、問題なくその場を立ち去れたので良かった。


 相変わらず、嫌がらせみたいな事があったりなかったりしているのだが、嫌味だけはどんどんエスカレートしている気がする。


 そうまでしてグラナートとどうにかなりたいのかと、素朴な疑問を持つのも仕方がないと思う。

 グラナートが目的なら、エルナやリリーに構わずに本人にアプローチすればいいのに。


 まあ、圧倒的ヒロインの美少女なリリーがグラナートに挨拶されているのを見れば、気が気ではないのかもしれないが。

 正直、頑張る方向を間違えているとしか思えない。



「エルナ様って、本当にアレですよね」


 リリーの憐れむような眼差しに、ハッとする。

 そう、リリーはヒロインだ。


 メイン攻略対象のグラナートは勿論、存在するであろう他の攻略対象にも、素敵な肩書があるに違いない。

 そして、そんな攻略対象達を根こそぎ骨抜きにできるのだから、とんでもない話だ。


「すみません。リリーさんの好みは悪くないと思います。むしろ、凄いです」

「何の話ですか」

 乙女ゲームの話ですとは言えない以上、何でもないですとしか答えられない。


「まあ、エルナ様は置いておいて。普通の令嬢は王子狙いでおかしくないと思いますよ」

「そうなんですか」


「王族と繋がりを持てるだけでも、効果絶大ですからね」

 なるほど、そういうことか。


「王室御用達と書いてある糸に、ときめく感じですね」

「糸ではなく、現物にときめいてください」


「確かに実際の品質も大事です。でも、王室御用達の名前だけでも売れ行きが変わりそうですね」

「糸の話になっています?」


「つまり家の商売や箔をつけるために、王族にお近づきになりたいってことですか」


 個人的にはあまり興味はないし、田舎のノイマン子爵領では大して意味はなさそうだが、商売や領地次第では垂涎の関係だろう。


「それだけじゃないから、ちょっと厄介なんですよ」

 厄介とは随分穏やかではないが、一体何だろう。



「エルナ様、ヘルツ王国の王位継承順はご存知ですよね」

「第一王子が、次の国王でしょう?」

「そうですけれど。……この間、王妃と側妃の話をしたのを憶えていますか?」


 確か、第一王子と第一王女が側妃の子供で、第二王子が王妃の子供だった。

 つまり、日本風に言うと正妻の子は第二王子で、第一王子と第一王女は愛人の子ということになる。


 勿論、ここはヘルツ王国で、側妃というのは正式な制度なので愛人とは違う。

 だが、王妃の子という価値が大きいのだとしたなら。


「……第二王子に継承権が移る可能性があるんですか?」

 リリーはゆっくりとうなずいた。


「今後、第二王子が継承権一位……つまり、王太子になるかもしれない。そうなれば、第二王子の妻は王太子妃。ゆくゆくは王妃となります」


「皆さん、王族外戚どころか、王太子妃を狙っているんですか」

 なんて壮大な野心と玉の輿。

 あの令嬢達をちょっと尊敬してしまう。その割にはスケールの小さい嫌みを言っているが。


「勿論、そのまま第一王子が王位を継ぐ可能性が高いです。それでも第二王子は王族ですから、狙って損はないわけです」


 ヒロインの攻略対象への評価が『損はない』なのは、いかがなものか。

 もっと、燃えるようなロマンスの末に身分を乗り越えるはずなのだが。

 まあ、シナリオは知らないけれど。


 ……好感度が足りていないのだろうか。



「それにしても、リリーさんは詳しいですね。私は全然知らなかったので、助かります。リリーさんなら外交官にでもなれそうですね」


 優秀な上にこの美貌だから、相当できる女になりそうだ。

 日本風に言うと、キャリアウーマンというやつだ。

 是非とも同僚に欲しいし、何なら上司や部下でも嬉しい。


「……色々、勉強したので」


 少し頬を赤らめて俯くリリーは、これぞ乙女という可愛らしさだ。

 これは王子のために勉強したということだろうか。

 どうやら思ったよりも好感度は上がっているらしい。


 このままグラナートと上手くいって、さっさと平和に『虹色パラダイス』が終わるといいのだが。

 エルナは破格の美少女を愛でつつ、今後について思いを馳せた。


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