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俄然、やる気が出てきました

「エルナさん! 協力してくださるなんて!」


 約束通り学園が終わってから王宮を訪ねたエルナに、金髪の美女が勢いよく抱きつく。

 想定外の事態で混乱するが、この金の髪の美女は間違いなくグラナートの姉のペルレだ。


 王女にしてザクレス公爵である、気品あふれる美女に抱きつかれるというハプニング――プライスレス。


 結論が出たエルナは、大人しく抱きしめられながら花のような香りを楽しむことにした。

 美女なのにいい香りとは、鴨が葱を背負って盆と正月がいっぺんに来るようなものだ。

 ただただ、ありがたい。


「とりあえず、落ち着いてください姉上。……エルナさんは何だか楽しそうですね」

 グラナートがペルレを引き剥がしたのだが、若干名残惜しい。


「はい。ペルレ様のいい香りに包まれて、幸せです」

「……本当に、エルナさんは姉上達が好きですよね」


 少し呆れた様子のグラナートに手を引かれてソファーに座ると、その隣にはペルレが腰を下ろした。

 ただでさえ眩い美女なのに、気のせいか真珠(パール)の瞳がきらきらと輝いている。

 しかも、エルナに向けられている気がする。


 結局何が何だかわからないエルナは、向かいに座ったグラナートに助けを求めることにした。



「あの、殿下。これは一体?」

「エルナさんの悩みと姉上の悩みは、協力すれば解決できそうだったので。一度話し合ってはどうかと思いまして」


「悩み? ペルレ様がですか?」


 国中でも一二を争う高貴な血筋に、溢れる気品、それを損なわないどころか魅力を増す美貌。

 正直言って、悩みの方が逃げ出しそうな美女だと思うのだが。

 だが、グラナートの言葉を裏付けるように、ペルレは真剣な表情だ。


「レオンハルトさんが、手強すぎるのです」

「……はい?」


「手紙を出しても返ってくるのは差し障りのない世間話。でも字が綺麗。夜会でダンスを踊っても反応に変化なし。でもエスコートがとても上手。王宮に届け物に来た際に会っても、弟の世話ばかり焼く。でもそんな優しいところも素敵。……とにかく、隙だらけなのに隙が無いのです!」


 上品な美女が一気に捲し立てることにも驚くが、言っている内容が何だかおかしくはないか。



「一体どうしたらいいと思います⁉」


 エルナにまっすぐに注がれる眼差しに炎でも宿っているかのような気合いを感じるが、そもそもの理由をまだ理解できていない。


「その前に。今のお話からすると、ペルレ様はもしかして……レオン兄様に好意がある、ということですか?」


 場合によっては不敬だと叱責されかねない質問だが、当のペルレは美しい真珠の瞳を瞬かせている。


「え。気付いていなかったのですか?」

「ファンだ、というのは伺いましたが」

 あくまでもファンだという話だったはずだが、違ったのだろうか。


「……レオンハルトさんも結構なアレでしたが。エルナさんも、そこそこアレのようですわね」

「ノイマン兄妹は、総じてその手の話に疎いようです」


「グラナートも苦労しましたのね」

「姉上ほどではありませんよ」

 何故か麗しの姉弟がうなずき合っているが、結局どういうことなのだろう。



「あの、先程のお話は本当ですか? 確かにレオン兄様は色々と素敵ですけれど」


 だが王女にして公爵であるペルレと、田舎子爵令息のレオンハルトではだいぶ身分の差がある。

 大体、いつからそんなことになっているのか、さっぱりわからない。


「王女として国益ある結婚をするつもりでしたが、待てど暮らせど兄弟はわたくしを使おうとしません。ですから、自由にすると決めたのです」


 王女ともなればその結婚で他国との縁を深めることすらできる。

 それをあえて利用しないというのは、兄王子スマラクトと弟王子グラナートのペルレへの思いやりなのだろう。


「なるほど。……つまり、レオン兄様に恋のアタックということですね」

「ええ。わたくし、諦めませんわ!」


 国でも一二を争う高貴な血筋の王女にして上品な美女。

 こんな素晴らしい女性が、義姉になるかもしれないのか。



「どうしましょう。俄然、やる気が出てきました」


「本当ですの⁉」

「……何でしょう。少しアレな気配を感じるのですが」

 何かを察したらしいグラナートが苦笑しているが、気にしてはいられない。


 放っておいても、グラナートと結婚すればペルレは義姉になる。

 しかし、夫の姉もいいが、兄の妻というのも大変に捨て難い。


 エルナは身の内に芽生えた邪な理由によって、ペルレへの協力を決意した。



「ではまず、レオンハルトさんの好みの女性を知りたいですわ」


 鼻息荒くと表現してもいい気合いの入りようだが、ペルレの鼻息ならばきっといい香りなので問題ない。

 美女もまた、正義である。


「それが。私も聞いたことがあるのですが、とくにはないそうです。唯一出てきたのが」

「何ですの⁉」


 ぐっとエルナに顔を近付けてきたが、麗しくて眩しいのでやめてほしい……いや、やっぱりもったいないので来てほしい。


「その……母にビビらない、です」

「……ノイマン子爵夫人は、息子に近付く女性を脅しているのですか?」


 心が引けば顔も引く。

 麗しい顔が離れるのは少し寂しいが、仕方がない。


「いえ、そういうわけではないのですが」


 ユリアのことを説明するのはいいとしても、虹の聖女の件は秘密なのだろうか。

 どこまで言ったらいいのかわからずグラナートの方を見ると、小さくうなずき返される。

 ということは、ペルレは既に知っているか、言っても問題ないのだろう。



「母の魔力が凄すぎまして。悪意はないのですが、挨拶に来た女性が倒れてしまうそうなのです」


 ペルレの眉が少しだけ顰められたが、それでも美しいのだからもうこの姉弟は恐ろしい。


「テオ兄様の見立てでは魔力なしか、逆にそれなりの魔力を持っていないと厳しいので、貴族はかえってダメージが大きいらしいです。本人の剣の腕がアレなのも気後れする要因のようで。だから平民から探すか、結婚しなくてもいいと」

 エルナの話をじっと聞いていたペルレは、ゆっくりとうなずいた。


「ということは、結婚自体が嫌というわけではありませんのね」

「それは、そうですね」

 平民という選択肢があるくらいなのだから、結婚自体を拒否しているわけではないだろう。


「そして、好いた方がいるわけでもないと」

「はい」

 いっそ好きな人がいれば話が早いのだが、どうやらそれはないらしい。


「ノイマン子爵夫人に打ち勝ち、剣の腕がアレなのを受け入れられるのならば問題ない、ということですわね」


「まあ、そういうことになるのでしょうか」

 ペルレは何度もうなずくと、大きなため息をついた。


「なるほど。完全に方向性を間違っていました。しかも、既にライバルが複数動いていますのね。これは油断なりません」






「虐げられた苺姫は聖女のループに苺で抗う 〜たぶん悪役令嬢の私、超塩対応の婚約者に溺愛されてる場合じゃない〜」と「未プレイ」共にランキング入りに感謝です。


※「苺姫」のイケオジ護衛騎士番外編、ようやく着手できそうです!



次話 グラナートが約束通り、少しずつ攻めてきます……。



第8回ネット小説大賞を受賞作

「婚約破棄されたが、そもそも婚約した覚えはない」(略称・「そも婚」)好評発売中!

(活動報告にて各種情報、公式ページご紹介中)

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― 新着の感想 ―
[良い点] か……、かわ……っ! 推しの未来の嫁……もとい、ペルレ様が可愛すぎて萌え死にそうです。_(:3 」∠)_ >隙だらけなのに隙が無いのです! あまりに言い得て妙だったので笑っちゃいましたw…
[一言] >母にビビらない 超生物を親に持つ場合とても大事
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