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癒してくれますか

 翌日、エルナは学園の王族専用の部屋でグラナートを待っていた。

 一人で入室したことはなかったので少し緊張したが、使用人達のまさかの大歓迎を受けた。


 何でも、グラナート以外に使用する者もおらず、正直暇なのだそうで。

「是非、遊びにいらしてくださいね」と懇願されるほど。

 沢山の茶葉の中から選んだ桃のような甘い香りの紅茶を飲みながら、エルナは思考に耽っていた。



「厳しいですよね。もちろん、平民でも構わないのですが、その場合にどう探せばいいのかわからないのですよね」


 レオンハルトの嫁探しという、この上なく個人的な都合の考えごとをゆっくりするためにこの部屋を使うのもどうかとは思う。


 だが学園の食堂や中庭ではリリーやアデリナが一緒だし、彼女達にはレオンハルトの嫁よりも己のことを優先してほしかったのだ。


「半端な魔力だとダメージと言われても、境界線が不明ですし」

 レオンハルト自身は剣のことを除けば、穏やかな好青年だというのに、何とも難しい問題である。


「誰か、いい人……いないでしょうか」


 ふと、エルナの脳裏に剣豪・瑠璃(ラピスラズリ)のファンだと言っていたペルレの姿が浮かぶ。

 王族の魔力量は基本的に豊富なことを鑑みれば、恐らくはペルレも相応の魔力持ちのはず。

 実際にエルナの髪の色を変える魔法も使っていたし、一般貴族女性よりは資質があるはずだ。


「それなら、いけるでしょうか。あれだけの美女で優しいですし、申し分ないのですが」


 いや、こちらとしては申し分なくても、王女であり公爵である女性に田舎子爵の跡継ぎではさすがに不釣り合いだろうか。

 リリーとヴィルヘルムスに比べたら、たいしたことのない問題のような気がするのだが。


「……いえ。そもそも本人達にその意思がないのに、勝手な想像はいけませんよね」

 となると、やはり平民の線が有効だろうか。


「街を歩いて、素敵な人を探して。どんどん声をかけるしかないでしょうか」

 エルナの呟きと同時に扉が開き、柘榴石(ガーネット)の瞳の美少年がそこに立っていた。



「……何だか、聞き捨てならないことを言っていましたね」


 グラナートは素早く扉を閉めると、そのままエルナの隣に腰を下ろした。

 遅れて揺れる淡い金髪は夢のように美しく、思わず見入ってしまう。

 だが、綺麗なものを見て嬉しいエルナとは対照的に、何やらグラナートの表情は曇っている。


「素敵な人、というのは? ……僕では不満ですか?」

「まさか。兄の花嫁探しです」


 エルナの言葉を聞くと、あっという間に曇っていた表情に晴れ間が戻る。

 曇っていても麗しいが、やはり笑顔の方が見ていて幸せだ。


「あの。違っていたら大変に申し訳ないのですが。もしかして、少し、嫉妬……しました?」


 いつもと違う表情と声音が気になり、おずおずと尋ねてみる。

 すると、グラナートの柘榴石の瞳が細められた。


「はい」

「ああ、そうですよね。気のせいですよね。すみませ……はい?」

 まさかの肯定に驚くエルナの手を、グラナートがぎゅっと握りしめる。


「街で素敵な人を探すと聞こえましたので。僕以外の誰かを探すのかと思ったら、少し嫌でしたね」

「紛らわしくて、すみませんでした」


 そんなつもりはなかったとはいえ、グラナートに誤解されるようなことを言ったのは申し訳ない。

 そして同時にエルナを気にかけてくれるのは少し嬉しかった。



「僕の勘違いでしたし、構いません。ただ、少し寂しい気持ちになったので……癒してくれますか?」

「癒し、ですか? わかりました」


 エルナは立ち上がるとグラナートの背後に立ち、そのまま両手を肩に乗せる。

 親指に力を入れて肩を揉み始めると、何故かグラナートが困惑の声を上げた。


「あの。一体何を?」

「肩揉みです。癒しのマッサージですね」

 首の付け根から肩甲骨まで、しっかり丁寧に揉んだエルナは、グラナートの顔を覗き込む。


「どうでしょう。まだこっている場所はありますか?」


 マッサージの効果と追加揉みの確認をしようとしたのだが、思いの外近くに麗しい顔があった。

 動揺して離れようとするが、グラナートが手を握ったので、距離を取ることができない。


「あの、殿下。放してください」

「とても気持ちが良かったですよ。ありがとうございます」

「本当ですか」


 少しは癒しになったのかと思うと嬉しくて、自然と口元が綻ぶ。

 それを見たグラナートも笑みを浮かべると、そのままエルナの手に微かに触れるキスをした。


「ひゃあっ⁉」


 驚いて手を引くエルナに隣に座るよう手招きするグラナートの笑顔は、本当に眩しい。

 抗議の声もしぼんでしまい、仕方なくソファーに腰を下ろした。



「さて、お兄さんの花嫁でしたか。テオにはアデリナさんがいますし、レオンハルトさんの方ですか?」


 エルナはうなずくと、経緯を説明する。

 真剣に話を聞いていたグラナートは、口元に手を当てて何やら考えている様子だった。


「なるほど。それで、街で素敵な人。姉上のことを思いついたのに、それですか。……兄妹揃って、なかなかのアレですね」

「アレ?」


「こうなったら、正面から妹という武器を携えて挑んだ方が早い気がしてきました」

 グラナートはぶつぶつと呟くと、やがて何かを諦めたようなため息をついた。


「明日、王太子妃教育はありませんよね。学園が終わったら、王宮に来てもらえますか」

「いいですけれど。何故予定を知っているのですか?」

「大切な妃のことですよ? 当然です」


 そう言われてしまえば、エルナに真偽を判断するだけの材料はない。

 グラナートがこう言っているのだから、王族ではそういうものなのだろう。

 いちいち他の人の予定まで憶えるとは、実に面倒臭そうだ。


「その件は置いておいて。せっかく二人きりなのです。他の話をしましょうか」



「二度目の初恋がこじれた魔女は、ときめくと放電します」

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詳しくは活動報告をご覧ください。



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「未プレイ」もランクインしています。

ありがとうございます!



次話 他の話を始めた二人ですが、グラナートの方向性が……。



第8回ネット小説大賞を受賞作

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(活動報告にて各種情報、公式ページご紹介中)

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― 新着の感想 ―
[一言] 肩揉みというさりげないボディタッチで詰めてくる
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