帰還4~epilogue~
ぱちぱちと火が燃えている都を歩いている。
どこを歩いても同じ景色。
あらゆるものが燃え、燃え尽くした後で、形を崩している。至る所で、火がその残骸に未だこびり付くように、燃えている。
そこへ、疎らに降り注ぐ黒い雨。
都は……滅びたのか。
僕は……こうなることを防ぐため、自ら進んで聖騎士の道を選び境界へ赴いた。だけど、境界の奥へは辿り着けず、僕らは敗北したんだ。あのきりんの群れが外縁からやってきて、それを止めることができず、きりん達はこの都を滅ぼしてしまった。こんなに脆く、僕らは負けるなんて……
どうしようがあったというんだろう。僕は僕達の住む世界をただ、守れなかった……大切なものも何一つ、なくなってしまった……。
きりん達は、どこへ行ったのだろう?
中央へ行くにつれ、焼け地に、ボコボコと黒い塊が不規則其処ここに屹立している。これが、そうなのだろうか。役目を終えて、彼ら自身も炎の中にその身を沈め、死んだのか? そもそもこいつらは、何だったのか?
雨に削られたのか、屹立する黒い物体の一部がぼこりと剥げ落ち、その内側に真っ白な骨が見えている。
うっ……? これは……こいつは、生きもの? 魔法で動く機械ではなかったのか。
ギー ギー……
突如、周囲で声が響き渡り、ミシンは驚きそれを見た。
燃えかすがくすぶる大地にぽつんと留まるそれは、カラス……? この全てが死に絶えた世界で生きているものの声を初めて聞いた。
ミシンは、用心して近づいてみる。
カラスかと思ったが、見たことのない鳥だ……いや。ミシンは、はたと気付く。どこかで一度見たことがある。夢の中? これは、――デンキドリ?
倒れたきりんの死骸を、啄んでいる。
何故、いる? 全てが焼け焦げている、この滅んだ世界に。デンキドリ? 本当にこれが、デンキドリなのか?
ギー……油のきれたような声で今一度それは啼いた。
不吉としか感じなかったデンキドリ。夢の中の姿がそのままここに現れている。マホーウカが射殺した、と言った。ならば、この鳥もまた敵、なのか?
ミシンはチャリン、と剣を抜いてみる。デンキドリは動かない。黒い丸い目。……どうせこの滅んだ世界で、何をどうしたところで、今更……
――一閃が走り、ミシンの剣が鳥を捕捉する。
ギーッ
デンキドリは地に伏した。
目の前で、動かないデンキドリ……これはまるで、あの時夢でみた光景……。ミシンがそれに手を伸ばそうとすると。
ギー…… ギー……
はっとして周囲を見れば、きりんの死骸の上や残骸のそこかしこに、デンキドリがいる。一体何羽いるのか。デンキドリは一様に暗い眼差しで、ミシンを見つめている。
ギー……
雨は俄かに勢いを増して降りしきり、デンキドリは雨の中、影として佇んでいる。
ギー……
……
もう一度足元に目を落とすと、デンキドリの目がぱっくりと見開かれている。
ミシンは、はっと思った。これは……?
ミシンはそれを手に取る。
これは、死体じゃない……これは……オモチャだ。機械仕掛けの、オモチャ……
雨は一層強く、雨に煙ってひっそりと動かないデンキドリ達の影が、いつまでもそこに佇んでいた。
(終章・帰還 了)
~epilogue~
レチエが、メリーゴーランドを廻している。悲しげな目をして。
どうして。
レチエ……世界は、滅んだの?
レチエ、きみがいるそこはどこ?
レチエ、どうして……世界を、滅ぼしたの?
レチエ、滅びた世界できみはメリーゴーランドを廻し続ける。
きみは、悲しげな目をして、メリーゴーランドを廻し続ける。




