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境界戦記  作者: k_i
終章 帰還
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帰還3 群れ

 ミシンは、暗闇の中を走っていた。


 前方に、ぼんやりとした灯かりを纏った大きな物体が幾つも、見えてくる。

 あれは……きりんの群れだ。やはり、雨の回廊を渡って、都に行くつもりだったのか?


 はあ はあ ……息を切らして走っても、追いつけない。

 群れそのものはゆっくりとした速度で動いているようなのに。まるで、空間そのものが隔たっているみたいに?


 見ると、暗闇の中のそこかしこに、幾つものきりんの群れが歩いている。あんなにも……どの群れも、一つの方角へ、真っ直ぐに、真っ直ぐに、歩んでいる。

 これが全て、都に向かったら、大変なことになってしまう。

 ミシンは走る。

 どの群れに近づこうとしても、近づけない。


 よく見れば群れの先頭に、誰かいる。

 きりん達よりもずっと小さなそれは、人影と見える。誰が? きりんの群れを率いているというのか。


 突如、今度は逆に群れの方に勝手に自分の身体が引き寄せられたかのうように、群れが近づく。走っているわけではない。自分の視点だけが勝手に動いたかのように。うわっ。ミシンは群れにぶつかると思ったが視点は群れに沿って先頭に向かい、その群れを導く者を真横に見る。


 レチエ!


 何故。どうして、君が……


 しかし、ミシンの声は届くことはない。

 ミシンの視点はまた群れから遠ざかり、ぼんやりとした人影が群れを連れて歩いていくのを遠くから見ている。

 走って追いかけようとするが、距離は近づかない。群れはゆっくり、ゆっくりと歩いているのに、どれだけ走っても、遠ざかっていくばかりだ。

 息を切らして、ミシンは前屈みになって立ち止まる。


 さっきのは……レチエだった。何故、そのようなことが。


 また、違う群れが後方から近付いている。距離が近い。

 今度の群れも同じく先頭に立って率いている者があり、よく目を凝らしてみれば、やはり、レチエであった。

 はっきりとは見えないが、目を閉じるか薄目をあけているのか、どことなしに悲しげな表情にも見える。何かを諦めているような。どうしてそのような顔をして、群れを連れていく。

 これは、仕方のないこと? 滅びは、仕方のないこと?

 レチエ! 叫ぶが、声は暗闇に吸い込まれるように声にならない。

 これは幻? これは夢?


 だけど、暗闇の中にこうしていることははっきりと認識できている。

 自分の明確な意志で走り、叫んでいるのに、ただ追いつけず、ただ声にならない。感情だって溢れてくるのに、全くもって、名づけることのできない感情ばかりだった。夢だとして、覚めることもできない。ならばもう、眠りに就くことしかできないか。走るだけ走り、叫ぶだけ叫び、全てに疲れて、眠るしか……そう思いながらミシンは、立ち尽くしていた。


 幾つものレチエが、幾つもの群れを連れて、行ってしまうのを見た。

 全ての群れが、行ってしまう。

 ミシンは暗闇の中でそれを見守ることしかできなかった。

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