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境界戦記  作者: k_i
終章 帰還
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帰還1 雨の回廊

 雨の回廊を一人戻るミシン。


 半ば壊れた木馬に乗っていく。木馬は首を垂れ、その光は萎れてぼんやりとしか映らない。

 辺りは、雨だけだ。暗くて、静かで、時折回廊から細かい雨粒が弾かれてくるのを身体に受け、とぼとぼと歩いていく。

 回廊の壁を形作っている雨の中に、メリーゴーランドが影絵のように浮かび、その傍らでそれを回している人の影が浮かぶ。……レチエ。僕は…… ミシンが手を伸ばしても、そこに手が届くことはない。雨があるだけ。反対側にも同じように、メリーゴーランドを回すレチエの影が浮かび上がる。手を伸ばしても、触れられない。


 静かで安らかな雨のリズムの中に、それを乱す不協和音めいた律動が生まれている。クフフ……クフフ……かすかな呻きにも思える笑い声が混じりだす。

 境界の砦で見た雨の中の死体。あの不吉な映像のことを思い出す。あの〝敵〟なのか……? と思うも、一向に姿を見せることはなく、どこかに潜んでいるとしてもわからなかった。危害を加えてくる様子もない。雨の回廊とそこに繰り返し映される映像とがゆっくりと過ぎ去っていく。


 雨の中に、王の幻が浮かんでいる。

 王……私だけが戻ってきてしまった……よかったのか。これで……こんなので……

 王は何も答えない。やがて雨の中に王は消えていく。また、雨だけが降り続く。ミシンは木馬の上で俯き、歩みを続ける。


 雨はいつしか学園を映し出しており、教室のまん中にレチエの姿があった。僕は教室の片隅からこんなふうに、レチエを見ていたっけ……手を伸ばしてもやはりそこには、行くことができない。


 学園が遠のき、境界の街が見えてくる。

 街の通りを、影絵の子ども達が駆けていく。境界で生まれて、境界で育つ子ども達。街燈に薄っすらと照らされたその顔は、幼い頃のヒュリカだ。周りにいる子の中に、イリュネーやイリュオンらもいるのかもしれない。ミシンは微笑ましいような、なぜか少し悲しいような気分になる。

 それから街の様子が変わり、燃えているようになる。子ども達の姿が消えている。大人になり、剣鎧をまとい、誇らしげに歩いていく。しかしその後には、敗北し、滅びを前にただ立ち尽くし、どうすることもできない。


 ふと見ると、ミシンのすぐ横を、頭を燃やしながらきりん達の群れが歩いていく。続々と、黙々と、それは終わることのないように。

 滅びの群れ。境界は、負けたのか……本当に、ヒュリカ、皆……都も、このまま滅ぼされてしまうのか。

 ミシンは通り過ぎていくきりん達の群れをその傍らで呆然と見つめていることしかできなかった。そう、どうすることもできない……どうすることもできない!


 …… ……

 雨だけだった。雨の回廊で、ミシンは木馬に乗って立ち尽くしている。自分は、泣いていたのか、とミシンは思う。


 もう、群れの姿はなかった。あれは、過去なのか、それとも未来なのか。


 ふとミシンは、足元辺りにある小さな穴に気づく。行きの時にあったレイメティアへの入り口と同じ穴だ。もしかして、ここに敵が。ミシンはその穴を見つめる。あいつらが、あんな不吉な幻を見せていたのか。許せない……ミシンは剣の柄に手をあてた。

 木馬を下りて、ミシンは穴に降りようとするが、中は真っ暗で何も見えない。少し下りれば、穴の中の雨が見えるはず。ミシンは足場を探るが何もなく、足を更に伸ばすと何かに届いたと思うが、足を滑らせてしまい、身体ごと落ちてしまった。その先に、着地点はなかった。

 しまった、とミシンは思う。

 ミジーソは言っていた。絶対に足を滑らせてはいかん。狭間に落ちてしまっては……その言葉を思い出すが、もう、遅かった。

 ミシンの目の前には今、雨が見えていたが、雨の中をただどこまでも落下していく。

 それは延々と続くように思われた。

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