表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界戦記  作者: k_i
prologue
6/66

デンキドリの夢

 頂までは、二時間は要するとのことだったし、必要な休憩ではあった。疲れが出たのだろう、ミシンも少しうとうととし始めていた。ミシンはその中で夢らしきものを見た。


 はっきりとしない夢だったが、デンキドリを見た。デンキドリだ、とわかった。デンキドリは動かない。マホーウカが射たというデンキドリだろうか。死んでいるのか。

 木々の中に、人の姿が見える。マホーウカ? ミルメコレヨンか? デンキドリを撃とうと?


 ミシンははっとして起き上がった。


 辺りは、暗い。ミジーソは、眠っているようだ。ミルメコレヨンらの方で、影が動いたが、灯かりが消えており、よくわからない。が、人の頭らしき影が二つ。もう一つは……


 ミシンはさらにはっとする。その向こうに広がるのは、夢の中に見た木々だ。いや、夢ではなく……ミシンはややあって足早に歩き出した。ミジーソが、「む……むむ」と呟く。寝ぼけているだけか。呼び起こすことはしなかった。離れた二つの影は、一人は冑を被っているのでミルメコレヨン。もう一人は、どっちだ? 暗くてわからない。先ほど動いたように見えたが、木にもたれ眠っているのか、反応はない。二人を過ぎて、木々の中へ……そこで、何をしている。そこで。おまえは。


「何をしている」

 ミシンは、木々の真ん中にぼうっと佇む男の真ん前まで来て、言う。


「マホーウカ」


 マホーウカだ。ミシンの方を向く。


「いい加減にしてくれないか」


 何を言うでもなく、ぼんやりとした表情を向けている。


「何をして……」


 マホーウカの手に、何か握られている。弓……? いや、弓は男の足元に落ちており、矢が何本か散らばっている。何かある。動物……鳥、鳥の死骸? では、男が手に持っているのは?

 うす暗がりの中で表情は何も語らない。男はただ、それを手にした片方の手を差し伸べてくる。


「やめろ……ふ、不吉だ。おまえは」

 ミシンは剣の柄に手をやろうとした。だが、剣はない。


 後ろから、ミルメコレヨンが来る。何も言わずに、マホーウカとの間に入りミシンに向き合う。マホーウカはぼっと立ったままだ。部下のもう一人か、ミシンの背後に来て立ち止まったのが感じられる。ミジーソはまだ寝ているのか。

 うす明かりが影を落とす、ミシンを見下ろすミルメコレヨンの表情は威圧的なものに思える。帯剣している。


「ちょっと……何か……ミシン殿は……」

 マホーウカの声か。ミルメコレヨンに後ろからぼそぼそと何か語りかけている。いや、ただの独り言か。と思うとその内容も聞き取れないものになっている。


「ミルメコレヨン」

 ミシンの声は、震えていた。

「それは」

 デンキドリの頭……


「ミシン殿」

 ミルメコレヨンの声。落ち着いた声だ。

「それはただの鳥だぞ」


 マホーウカの手からぼてっと落ちた、それはミシンにも見覚えのある、都の郊外にも生息するカラスに似たこげ茶色の鳥だった。何で……


 何で、こんな時間に一人で狩りなどをやっている。規律を、規律を乱すな。ミシンは荒い息づかいばかりでそう声に出すこともできなかった。


「疲れているのだ、ミシン殿は」

 ミルメコレヨンはそう言って、部下を連れて離れた灯かりのところへ戻っていった。

 

 ミシンも続いて木々から出る。三人は馬の支度を始めている。見れば、向こうの灯かりの下ではミジーソも起き上がって、同じように馬の支度を始めていた。


「ミシン殿。どうなすった? 疲れが多少はとれましたかな」


 ミシンはその顔を見て少し安心したが、だが夢の中まではミジーソは助けには来れない、とはたと思った。夢の中の戦……ミシンは、これから戦うことになる判然としない敵のことを浮かべて、敵は、最後までその姿を判然とさせず、自分はそのぼんやりとしたままの敵を切って、切り尽くさねばならない、といった思いに駆られたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ