きりんの群れ
昨晩、岩場からきりんを目撃した辺りに移動して、その付近から探してみることにした。程なく、ミシンは見た。
雨に煙る中、きりんが倒れており、その傍に、ミルメコレヨンら三人がいる。
「う、討ったのか……」
ミシンは雨の中、そこへ駆け寄った。
「何故だ。これは、敵なのか? ミルメコレヨン。追ってまで討ち果たす必要があるほど、これは我々にとって危険なものだったのか?」
ミルメコレヨンはまだ剣を手にしたまま、はあーはあーと熱っぽい息を吐いている。この生きものを打ち倒すのに、苦戦したのか、相当な疲労と思われた。見た目には怪我を負っている様子はない。
マホーウカらはどんよりした目で、突っ立っている。
「来る……来る……」
「な、何?」
一瞬、誰が言っているかと思った。
「マホーウカ? 何が来るというのだ。まさか――」
そうだった。昨夜と同じ、今ここに倒れているのと同じ、きりんだ。そのきりんが、群れで、来ている。
「でやあああああ」
ミルメコレヨンは目を見開いて、群れに斬りかかっていく。
「ミルメコレヨン! 無茶だ、あれだけの数を……」
一体、何だというのだろう。この群れは一体。ミルメコレヨンらは、異常だ。さきの異常な怯え、それを振り払うように、やけになっているようにしか思えない。それほど危険なものなのか、これは。
しかしこの生きものは、どれだけミルメコレヨンに滅多切りにされても、反撃してくる様子もない。ただぼんやりした灯かりを保ち、遅々と進んでいくだけ。その方角は、ケトゥ卿の城の方角ではある。それはひいては、都の方角でもある。そこへ、向かおうとしているのか? ミシンにも、あの預言が脳裏に甦ったように、この群れはどこか不吉なもののように映った。滅びの、群れ……どうすればいい。ここで止めるべきなのか。
「おい、よけろーーーっ」
ミルメコレヨンの叫びが響いた。
「えっ」
ミシンは身構える。
きりんの内の一匹の頭の光が急速に強まりだした。それは、木馬のものと異なり、邪悪なものを感じさせた。一層強まった光が光線となり、放たれる。
ミシンは動く間もなかったが、それは凄いスピードでミシンの数メートル横を通っていき、雨の中に消えた。狙いが正確だったなら、避けられない……
他のきりん達の頭の灯かりも、強まりだす。
とその時、別の眩しさが、遠くの空の方から広がりだす。
光の方向を見れば、西の、雨の中の影になって見える山の山腹の辺りで丸い強い光が輝いている。その輝きが収まった時、周囲のきりんの群れが掲げていた光も収まり、それどころか、頭部の灯かりそのものも、消失していく。そのままきりん達は皆、その場にどさっと倒れてしまった。
あの山腹の光は、木馬の光だったのだろうかとミシンは思った。今はもう光は完全に消えている。雨の音だけ。雨が降るだけだ。
「このきりんも、敵の〝術者〟が操っていた……のか?」
ミルメコレヨンは、既に息を整えていたが、俯いており表情も見えない。他の二人も同じだ。その姿は、疲れ果てたような、悲しげなようなふうにも思えた。
「……戻ろう。ミルメコレヨン」
ミシンが歩き出すと、三人もとぼとぼと、それについてくるのだった。
*
宿へ戻ったミシンは、イリュオン、イリュネーにこれを伝えた。
「やはり、あのきりん……僕らにとっての凶兆のようだ。だけど、吉兆もあった。それを倒した者がいる。群れを操っていた者がいてそいつを倒したのか、あの光が直にきりん達を倒したのかは、わからない。……いずれにしても、たぶんあの光を放ったのが木馬だと思うのだが」
ミシンは、西へ向かう、と述べた。
雨はその日の夜に小降りになり、やがてやんだが、増水のため、温泉地は湖に浮かぶ島のようになってしまった。これなら、船でもあればむしろ楽に移動ができるのではと思われたが、境界に船などはない。
思案するミシンに、地下泉に入り浸っていたミジーソが、地下泉が西の山の麓にまでつながっているというありがたい情報をもたらした。
「はっはは。わしが温泉三昧に過ごしておったのも、無駄じゃあなかったろう」
ミジーソは、得意げだ。
温泉の源泉はそこから沸きだしてここに至っているようなのだ。ただ山の方は人の住む領域ではなく、魔も多い。それで温泉地も、源泉ではなく湧泉のあるこの地に作られた。
ともあれ、行くことは既に決定していた。
地下に眠る魔を呼び起こすのは好ましくなく、大勢で向かうわけにもいかない。イリュオンはここで兵を預かり、ミシン、ミジーソが、それに既に傷が完治したイリュネーが、西へ向かうことになった。
「わ、私も行ってあげるわよ。もう腕もくっついたし、これ以上ここにいたって、退屈だから、だからな」
(第4章・温泉地の出来事 了)




