温泉地の出来事(二日目)
次の日、雨はやむばかりか、一層激しさを増して温泉地に降り注いだ。
この雨では木馬の探索に出向くこともできないため、仕方なくこのまま温泉地に雨がやむまでとどまることとなった。
ミシンはこの日の日中は湯に浸ることはせずに、宿の中を一人歩いた。
宿は広く、様々な娯楽施設や屋台、怪しげな看板を掲げる店なども点在したが、奥へ奥へと続き、やがて人の姿も見かけず、閑散としてきた。建物も、埃っぽく、古く感じる。
人の姿もなく、どこまでも廊下が続いていくような場所へ来たところで引き返し、宿泊する部屋のある棟まで戻ってきた。
雨のためか、宿の中は薄暗く、棟の一階の売店が並ぶところに来ても、人の姿をほとんど見かけない。売店も、閉まっている。
隣の休養室へ足を運んだ。
広い休養室には、今は誰もいないようだ。ミシンは、その一角の壁に向かってしゃがみ込んでいる人がいるのを見つけた。
「どうしました? 気分でも……」
「ウー…………」
マホーウカだった。
ぶるぶるぶるぶると、震えている。
ミシンはまたマホーウカが何か察知しているのか、もしかするとさきのきりんのことと関係あるのではないかと思った。
それからすぐミルメコレヨンがマホーウカを探しにきたので、何かあったのか聞くと「いや別に」と言うだけだったが、彼自身も少し顔色が悪そうに思えた。
「もしかして、きりんのことで何か知っているか? そのことを聞いてはいるだろう?」
問うと、彼らはまだそのこと自体聞き及んでいなかったらしく、マホーウカは更に怯えた様子で一層縮こまり、ミルメコレヨンは何も言わなくなってしまった。明らかに顔は青白かった。
ミシンはこれは何かあると思ったが、彼らに急いた様子はないので、様子を見ることにした。
部屋のある上階まで戻ると、ミジーソに会った。
ミジーソは連日、風呂に入り浸っており、今もひと風呂浴びてきたところだと言う。温泉地での滞在が伸びたことに、顔色をよくしていた。
「そうですか。もう一日くらい雨でも、わしはいいけどのう」
そう言って、もうひと風呂浴びてこようと、今度は地下泉に行くかと、下りていった。
「地下泉? 地下にまで温泉があるのか?」
「そうですじゃ。まだ行ってなかったのですかな」
宿内で見かける客が少ないと思ったが、露天風呂がこの雨で使えないため、どうやら多くの者が地下泉に浸りに行っているからということらしかった。
ミジーソはすっかり温泉でのぼせて、戦いのことも忘れてほうけてしまっているのではないかと、半ばは冗談ぽくだがミシンはそんなふうに思ったりもするのであった。
ミシンは一方で、こちらは本気で心配になったことなのだが、この雨が、世界を滅ぼすという、旅の始まりに聞いた預言の雨なのではないか、あるいは関係があるのではないか、とふと思ったのだった。
何かの群れがやってくる、ということも預言の中にあった。昨晩のあのきりんの生きものはもしかしたらそれと関係があるのでは……ミシンはやはり、雨がやむのを待たず、少しでも小降りになったら城へ報告に兵を遣らせるべきだと思った。
イリュオンと相談し、そこまでのことなのならと、兵を送らせたが、兵はここからすぐのところで川が増水していると告げ、無理を押して行ける状況ですらないことがわかった。
この状況にはさすがに皆、心配を募らせ始めていた。




