温泉地へ
間もなく、温泉地へ向かう一団が出発した。
ミシンは、ミジーソ、ミルメコレヨン、イリュオンらも含め、さきの第五隊に兵を補充した編成での護衛隊を率いてそれに付き従った。
湯治に赴く者も、自ら馬を駆れる者は馬に乗り、それ以外は馬車に乗っている。
イリュネーは片手で馬を駆っていた。城下でも手当を受けていたが、温泉地で法術縫合を受ければ、腕は元通りに修復できるだろうとのことらしい。
「うむ。わしが姉者の腕をきちんと拾ってきたのだ」
イリュオンが得意げに言う。
「律儀な弟だな」
イリュネーを挟んで、イリュオンと馬を並べているミシン。
「お、おい待て! その言い方はけしからぬ」
イリュネーがさえぎる。
「腕がなくなっていたところなんだぞ!」
「……よかったよ」
「そもそも、お前はやはり気に…………えっ」
ミシンが心から言ってくれていることを解して、イリュネーは少し赤面した。
ミシンは、強気なイリュネーもさすがに身体にも心にも傷を負っているだろう、内心は心細いのでは? と心配したが、すぐいつものように「何よ。目に入らないよう、後ろの方を走ってよ!」と振り払われるのだった。
ミシンが実際に少し速度を落として下がると、「クク……」と笑いの漏れるのを聞いて、見ればミルメコレヨンとその従者達がいたが、ミルメコレヨンはすました顔で「どうかされたか?」と言い、マホーウカらもとぼけているいつもの顔であった。マホーウカが全く別のことで笑いを漏らしたりしただけかもしれない。
さきの戦いで彼らには特殊な察知力があることはわかったが、帰還後、彼らの様子は至って平常で、何もせずぶらぶらしているというだけのようだった。
「どうしたミシン殿。また嫌われましたかな?」
ミジーソが馬を寄せてくる。
「なアに。年頃の乙女心はわからんもの。明日には変わっとるかもしれませぬぞ。温泉に入ってリラックスして、身も心も解放されれば……」
朝早くに城下を出立した。日が暮れる頃には、温泉地に到着する予定だ。
「じゃが無論のこと、油断はされぬよう。温泉地はその効用に守られており、魔は少なく安全とは言っておったが、境界そのものが、我々にとっていい状況にあるとは言えんわけじゃし……」
ミジーソには、木馬を探しに行く目的で温泉地方面に赴くことは、伝えてある。
「まあしかし今夜はわしらも温泉に浸らせてもらうとしよう。温泉とはどれだけぶりじゃろう。この老体を少しでも若返らせたいものじゃな」




