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境界戦記  作者: k_i
第4章 温泉地の出来事
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戦後

 ヒュリカの放ったあの光。何故だろう、温かく、それに懐かしい気がした。


 あの時、ヒュリカが光の中を駆ってきた輝く馬……そう、そうだったのか。

 木馬。ヒュリカの乗る馬の頭部が光り、光を放っている。レチエの、魔法の灯かり!

 

 

 *

 

 砦の奪回に赴いた軍は、出発時の四分の一にまで数を減らし、何とかケトゥ卿の城へと帰還した。


 戦果といえば、最初の二つの砦までは敵を蹴散らし辿り着くことができたこと。失ったものは大きかった。


 死を覚悟で敵に突っ込んだバッシガは、ヒュリカの思いがけぬ加勢のおかげで脱したが、その時の負傷が元となり、帰還後間もなく死亡した。バッシガ隊の主軸であった古参兵らも多くが戦死。

 ケトゥ卿は最も頼みとしていた古将バッシガはじめライオネリン、ハイオネリンら多くの将兵を失うこととなり、いたく悲嘆に暮れているという。イリュネーは腕を失ったことで治療に専念。ミシンはヒュリカと共に、無事帰還した部隊長として今回の戦いの始終をケトゥ卿の代理の近臣達に報告した。その後は、戦の疲れを癒すためもあり、休息しての待機となった。

 

 一週間ほど経ち、ケトゥ卿も心痛から立ち直り、今回の戦いの戦死者達への黙祷を城内外の者を集めて執り行うのと、今後に向けての言葉を自ら皆に述べたいとのことで、城門前に近臣および全兵の招集がかけられた。


 ミシンは久々に――戦に出る前の挨拶以来ケトゥ卿を見た。

 おそらく悲嘆に暮れたこの一週間の内に些かやつれたのであろうが、気丈であり、しっかりした足取りで設置された壇上に上がり、戦死者への弔いの辞を述べた。そして、今後に向けての言葉を、とのことで口を開いた。


「老将は死んだ。これからは、若者の時代じゃ。若者が、この世界を救わねば……」


 面持ちは沈痛さを残しつつも、不思議とどこか解放されたようであった。

 その場には、城内の将兵や文官以外にも、城下の民まで何百という人が出てきていた。

 ミシンは、自身に向けて語られている言葉でもあるのだと、強くその言葉を胸に刻んでおこうと思った。前方に三列程人が並んでおり、最前列にヒュリカの姿がある。ヒュリカにとっても、そうだろう。


 卿はそう語り、暫し黙した。

 皆は次の言葉を待ったが、卿は黙したままでこれで終わりなのかと思われた、その時だった。

 ケトゥ卿の身体が頭のてっぺんから真っ二つにばりばりと音を立てて裂け、中から大きな黒い鳥が出てきたのだ。

 印象としてはあの戦での黒い鳥の化け物に似ていたが、人の大人の大きさがあり、真っ黒ではあったが嘴のように口が尖っていた。

 人々は誰もただ唖然としてそれを見た。

 鳥は、大きな翼を広げると、どこかこの世のものとは思えぬ一声で吠え、次の瞬間には翼を二、三度羽ばたかせ大空に舞い上がったのだ。

 瞬く間に城の頂に達し、そのぐるりを巡ると、彼方の空へと飛び去ってしまった。


 悲鳴を上げる者も、上げる間も、なかった。

 少し遅れて、どよどよとしたざわめきに広場は包まれた。気絶する者、泣き出す者などが出てきた。

 大鳥が出ていった後のケトゥ卿の身体は、ただの抜け殻のようにくしゃりとその場に崩れ落ちていた。

 将兵が場を収拾し、民らにひとまず各自の家へ戻るよう促したが、事態をどう説明することできず、本人達も戸惑いの最中で何とかそうすることができたのみであった。


 ヒュリカもこの事態に、「お、伯父上…………」と言ったきり、卿の飛び去った天を仰ぎ見たまま立ち尽くすことしか、できなかった。

 

 近臣らはこのことを、卿はおそらくバッシガの遺骸に触れたのではないかと考えた。忠臣であり境界に尽くしてくれた彼の遺骸に泣きついていたのを見たという者もいた。ミシンらから鳥のことは聞いていたので、鳥に怪我を負わされて死んだバッシガなのでそれに触れたことで卿にも伝染してしまっていたのでは、と彼らは説明を付けた。

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