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境界戦記  作者: k_i
第3章 二つの砦
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その夜の会議

 一方、後方へ向かったイリュネーの隊は案の定、潜んでいた敵と一戦交えることとなったのだった。


 イリュネーは指揮を執り懸命に応戦したのだが、数分ともたなかった。

 卿のもとへ、援軍を仰ぐ兵を出させるよう指示を受けていたのだが、これも失敗に終わった。イリュネーが選んだ兵は卿のもとへ到達できなかったのだ。

 イリュネーは隊の八割近い兵を失い、ほうほうの体で西側の砦に逃げ帰った。


 ミシンが戻った時既に日は暮れかかり、砦は片づけられ、イリュネーは手当てを受けそのまま一室で眠っており、しかしその顔は青ざめて、がちがちと震えていた。

 

 

 その夜、今後を決める会議がもたれ、主立った将兵らが集った。


 会議には途中から、起きてきたイリュネーも加わった。

 幾分、回復したかのようには見えたが、顔色はよくなく、左腕に巻いた包帯が痛々しかった。


 ミシンが、東側の戦況報告を始めた時だった。砦の中でライオネリン隊が全滅していた様子を語ると、イリュネーが突如怯んだ様子を見せ、さっき夢の中でそれと同じ光景を見たと言う。イリュネーが昼間赴いて敵襲を受けた辺りの森が夢に出てきて、その樹々の中に同じように雨が降っていて、そこに兵達が死体になって映っていた、というのだった。それは、ハイオネリン隊の兵だったと思うと、彼女は言った。

「今日、実際に見たのとは違うのか?」

 とミシンが問うと、イリュネーは暗い面持ちで首を振った。


 ここでイリュネーは顔をいっそう青ざめさせながらも、その敗戦を語った。その語るところによると、こうだった。


 四の隊が、件の、ハイオネリンの隊が布陣していた辺りに差し掛かると、両側の森の中から、鳥のような、人間の子どもくらいの大きさの真っ黒いものが大量に飛び出してきた。手足と羽があり、顔はのっぺらぼうのようだった。それが瞬く間に兵に取りついて、兵の頭や腕を引き千切り始めた。たまらず、イリュネーは全軍撤退の指示を出したが、執拗な追撃を受け、ここへ辿り着いた時には部隊は十数名足らずになってしまっていた。腕や耳を千切られて戦闘不能になった者もいる。

 とのことだった。


 列席した一同はしばし、無言になった。


 その後の夢で、イリュネーはさき話したように、ミシンが語ったのと同じ光景を見たことになる。また、あとでわかったことには、不思議なことにイリュネー隊の帰還者の中にも他に全く同じ夢を見た者がいるのだった。


 末席に連ねていたミルメコレヨンが口を開き、「〝術者〟が見せる幻だ」と言い、イリュネーの場合は敵の攻撃を受けた際に何らかの術にかかっていたのだろうと言う。

 そして「おれ達の行ってきた砦と同じで、そのハイオネリンの方も実際にそのような死に方で既に全滅させられているだろうな」と付け加えた。


 ミシンは〝術者〟のことをここで彼の説明できる範囲でしておいてもらおうと思ったが、はっとして、イリュネーが泣いているのに気づいた。


「おまえは、なぜ……」

 イリュネーはミルメコレヨンを睨み据えていた。

「なぜ、そのようなことをそう淡々と、言える……!」

 だが彼女の目には尚、懇願して問うような眼差しがあった。

「おまえ自身も、その、〝術〟とやらが使えるのか? 何とか、救出する方法はないのか?」

 彼女の訴えに、ミルメコレヨンは至って平静として、

「知らん。おれにはただ、見えるだけだ」

 と返して、それっきりだった。


 ミシンはイリュネーへさすがにいたたまれない思いをいだき、少しは慰めてやりたい気持ちに駆られた。同時に、ミルメコレヨンにもいつか、人への接し方、ものの言いようをもう少し何とかできないか話したいと思ったが、おそらくそれは無駄だろうとも思った。


 最後に、バッシガの嘆息が聴こえた。

 

 イリュネーの惨敗、それに、東側の砦の敵は退けたもののライオネリン隊は全滅、ヒュリカの隊もおそらく全滅でヒュリカの生死は不明。後方のハイオネリン隊も隊ごと行方不明。

 総大将バッシガは、卿に援軍を乞うてどうこうするような事態ではないと判断し、総力を以て後方の敵を排除し撤退するという判断を下した。

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