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境界戦記  作者: k_i
第1章 ケトゥ卿の地
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〝敵〟(2)

 外に出ると、門の前には兵数人が厳重に見張っており、何人かの戦士らが探し歩いているのが見える。

 門兵には、ミシンらも他の戦士らと同じに敵の捜索に出ると見られたのか、とくに止められることもなかった。ミルメコレヨンらの姿はすでに近くにはない。


 霧が、濃い。確かヒュリカはそう言っていたな、とミシンは次にヒュリカを探した。ヒュリカの姿もない。もしかして今頃もう敵と……どうやって、あの子が戦うのだろう。境界での戦に慣れた女の子か。ミシンは急ぎ足に駆けた。


「ミシン殿。離れずに! 闇雲に探しても見つかりますまい」


 城下はひっそりとして、住民にはおそらく家から出ないように、という令が出ている様子だった。ところどころに兵が立って見守っている。これは住民を守るためらしく、敵を探し討つのは、戦士達の役目のようであった。一人二人、捜索している戦士を見かける。


 幾らも経たずに、すぐ向こうの通りで声があがる。


「敵は討たれた!」「仕留めた!」「もう、無事に討たれたぞ」


 立ち止まり、辺りを見る。ミジーソが息を切らして追いついてくる。

「はぁ、はぁ。どうやら……」


「敵は三体だった」「こちらには怪我人もない」戦士らの何人かが、すぐ横を通っていく。


 拍子抜けしてしまった。


「あっけない。なんだ、もう……」

 ミシンはそう言ってまたミジーソと目を合わせたが、途端、張りつめていた緊張が抜けてふうっと溜め息を吐いた。


 聞いてミジーソがはっは、と笑い、ミシンの肩を叩いた。

「戻ろう。ミシン殿。なに手柄はまだ、まだこれからですぞ」


 曲がり角に来ると、ふいっと現れた、ヒュリカだ。

「あら……」


 ミシンはあのとき止められていたので一瞬どきっとしたが、ヒュリカは予想外に、笑みを送ってくるのだった。彼女も騎士なれば、やはりこの気持ちは解してくれた、ということだろうか。勿論、無事に敵が討たれた、ということがまずあってのことだろうが……。


「ヒュリカ。もしかして、敵は君が?」

「ええ。一体はね」

 ミシンは感心したのと同時、僕がそこにいたら、という強い思いに駆られた。悔しさ、口惜しさが込み上げる。

「……」

 ヒュリカと向き合ったままじっと、ミシンは下を向く。


 そんなミシンの思いは解せずむしろ何を勘違いしたのか、ミジーソは同じ年頃の異性と話すミシンを気遣って、城に戻る戦士らに混じってそっと場を去っていた。

 ヒュリカも小首を傾げたが、何も言わないでいるミシンを残して、すぐに城の方へとその場を後にした。

 その集団の最後尾に、ミルメコレヨンらがいるのを見てミシンはやっと我に帰る。


「ちっ」

 ミルメコレヨンの舌打ち。道の傍らにいるミシンに気づいていない。


 なるほど、彼も〝敵〟を討つことはできなかったのだ。ミシンはそう思い、ふふ、とようやく笑いをもらした。

 負けはしない、ミルメコレヨンには。どれだけの力があるのかしれないけど、僕は聖騎士に選ばれているんだ。彼のが騎士として経歴が長いだけで、才能はこちらのが上さ。今に……ミシンはそうふつふつと思いながら後を追い城の方へと歩く。


「……しかし、主。〝敵〟は四体いるのを見ました。城のやつらが討ったと言うたのは三体でしたぞ」

「ほう? まことか。ならばすぐにも戻って……」


 なんと。ミシンは聞き耳を立てる。


「いえいえ、主。ここは一度城の者と一緒に戻るふりをして、後で我々だけで。さすれば、手柄は確実に我々のものに」

「成る程……ふふう」


 本当か。敵は四体。ミルメコレヨンらはでは少なくとも〝敵〟の姿は見たのか。ともあれ……ミシンが逡巡していると、

「遅い。何してる?」


 ヒュリカ。店の脇に立って、待っていてくれた?

「曲がりなりにも、敵が出たんだ。弱かったけどさ。見張りも強化するけど……今夜は霧も濃いし、危ないんだ」


 ミルメコレヨンらは行ってしまう。


「心配、して……心配なんかしてくれているのか?」

「……はあ」

 ヒュリカはあきれた、という顔をする。

「死なれたら、困るから、だ。そうでしかない。都からの聖騎士、か。まったく、厄介だ。ほら聖騎士殿」


 ヒュリカは少し歩いて、すぐに立ち止まる。

「早く。卿から、言われているんだ。聖騎士さんに何かないようにって。私はお守りじゃ、ないんだけどな」

 ミシンは、はっとして、またふてくされたふうになるしかないのだった。

「お守りがいる聖騎士なんてまったく、厄介よ」


 ヒュリカ。僕は本当に、真剣に、戦いにここに来ているんだ。それが僕の、使命だ。任務なんだ――


 警備強化のため、巡回兵が出てきている。あらかたもう城に戻った戦士らに続いて、先を行くヒュリカから少し距離を置いてミシンは城へ入った。些か惨めな気持ちを背負って。


 そのときには、四体目の〝敵〟のことは半ば忘れてしまっていた。そのことをヒュリカや卿ら城の者に報告することも。

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