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残念美少女に振られた男(番外編)

番外編です。会話はありません。とあるIF創作に刺激を受けてやっちゃいました。

 今日、僕は彼女に振られた。言葉もなく、完膚なきまでに。



 初めて彼女を見たのは、入学式の日。生徒会役員として、会場設営を手伝っていたとき。


 どこぞの高貴な王女様のような見た目に、一瞬で心奪われた。


 その次の日、数十人が、彼女にアタックし、ものの見事に撃沈したらしい。本当に数十人かはわからない。ひょっとしたら数百人かもしれない。


 だが、数日経って、彼女の評価は微妙に変わり始めた。


 いかにも容姿端麗な彼女は、品行方正ではなかった。それどころか意外にぶっ飛んでいた。


 鼻血でも出したのか、鼻に丸めたティッシュを詰めて、平然と闊歩する。


 学食では、ラーメンを音を立ててすすり、あまつさえ残り汁にライスをぶち込む始末。


 夕方のゲーセンで、奇声をあげながら格闘ゲームに熱中する。しかもやたら強い。


 ヘンな替え歌を歌いながら廊下を歩く。


 スウェット姿で肉まんをかじる姿も、コンビニ前で目撃されている。


 普通の女子なら別に目立たない程度のだらしなさでも、彼女のような超絶に美しい少女がすると、いやでも注目を集めてしまう。


 彼女が、やや残念な性格だという話は、彼女の美しさと同様、校内にあっという間に広がってしまった。


 見た目だけに惹かれた奴らが、瞬時に手のひらを返す。


 そして、慈悲もなく振られた奴らは、負け惜しみを言って自分を慰める。そんなとき、ある事件が起きた。


 三年生である彼女の兄が、暴力事件を起こしたのである。いわゆる喧嘩だ。


 彼女の兄は、一発だけ相手の顔を殴ったらしい。相手はさほど重傷ではなかったが、彼女の兄は殴ったときに相手の歯に拳が当たったようで、拳が歯で切れてしまい、殴った方が大量出血するという事態に陥ったと聞いた。


 そんなことはおかまいなしに、彼女の兄は続けざまに殴りかかろうとしたが、まわりに止められ、その後に先生たちも来て、喧嘩は終了した、とまでは知っている。


 だが、喧嘩の理由はわからないままだ。二人とも何も言わなかったからだ。そして、殴りかかった彼女の兄は、少しの間学校を休んだ。


 不思議なのは殴られた方の生徒だ。頑なに、『俺が悪い』としか言わなかったようだ。真実は二人しか知らないのかもしれない。



 ただ、殴りかかったのが、あの美少女の兄だということや、『残念美少女』というワードが流行語だった時期であった上に、殴られた相手は振られた過去があるということで、彼女に関することが喧嘩の原因であろう、とは推測はされた。


 それ以来、残念美少女という流行語は廃れたように、まったく聞かれなくなった。


 人間とは何度も手のひらを返す生き物だ。しばらくしてから、彼女の残念さも愛すべきものだ、というふうに言い出す者も現れた。賛同者もかなりいた。


 それでも、まわりのそんな戯れ言などどこ吹く風、彼女はいつも自然体。最近、ますます美しさに磨きがかかったようだ。


 なんでわかるかって?…そんなの、ずっと見ていたからに決まってるじゃないか。


 僕にはわかる。彼女は恋している。きっと。そう確信した僕は、誰に恋しているのかを知りたくなった。


 だが、彼女は、彼氏どころか親しい異性がほとんどいないのだ。男友達はいないわけではないだろうが、いつも二、三言話して、それだけだ。


 それでも、兄と一緒に下校するときに彼女が見せる笑顔は、入学式当初に見た天真爛漫さよりも、恋する乙女のような艶やかさが出ているのは明らかだ。


 僕は心に焦りをおぼえた。誰かのものになってしまう前に、この気持ちを伝えたいと思った。強く。


 まわりからは無謀扱いされた。自分でもわかっていた。だが、やらぬ後悔よりやる後悔。その時の僕の頭には、そんな訳の分からない理屈しかなかったのだ。


 そして、昼休みに、彼女を呼び出して告白した。僕は、告白しないより強い後悔を味わう羽目になった。


 僕が告白したあとの、落ち着かないような、何かに怯えるような彼女の顔。


 僕が嫌いとか、そんな単純な感情じゃないあの表情は、たぶん一生もののトラウマになるだろう。


 僕はその表情からすべてを察し、逃げるようにその場を去った。泣きたい気分だった。



 その後、誰にもその告白の結末を話せないまま、失意のうちに下校しようとしたその日の放課後。


 彼女が、ジャージ姿で、昇降口の手前に立って誰かを待っている姿を発見して、僕は視界に入らないよう隠れて様子をうかがうことにした。


 そのように隠れた僕のことなどまったく気づくわけもない彼女は、僕が告白したときと同じような、何かに怯えた顔をしていた。


 そんな彼女から、怯えが消え、あの艶やかな笑顔が見られた時に、僕は彼女が待っていた人物を見て、すべてを察してしまった。


 ああ。


 彼女は、兄しか見ていない。

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