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残念美少女と呼ばれる妹 〜ほんわか兄妹〜  作者: RF
残念美少女と呼ばれる妹・番外編
72/73

一周忌 ~それから二か月~

 一周忌も終え、C県へと俺が戻って、二か月後。


 世間は年末モード真っ盛り。街のそこかしこに活気があり、誰もが忙しいような浮かれているような、そんな雰囲気の午後九時少し前。


「倉橋君、あとは店外のものをすべて引っ込めてくれないか」


「わかりました、猫地ねこじ店長」


 俺は店長とともに、勤務先のドラッグストアで閉店の後片付けをしていた。


「すまないな、せっかくのクリスマスだというのに、通しで仕事をしてもらって」


 猫地ねこじという珍しい苗字の店長が、片付け中にそんなことを謝罪してきた。

 さすがはクリスマスというか、バイトはおろか、正社員まで希望休を出していた日で、作業する人手は少ない。


「別にいいですよ、予定なんかないですし」


「そうなのか? 彼女とかは?」


「……そんなの、いませんって」


 店長は悪いことを訊いたと思ったのか、バツが悪そうに会話を打ち切ってきた。

 俺は特に何も思わずに、黙々と閉店作業を続ける。


 性の六時間、今年は正拳突きでもして過ごそうか。ああ、そういえば────妹と会話する約束してたっけ。


「……よし、九時になったことだし、店を閉めよう。倉橋君、お疲れ様」


 今後の予定をぼんやり考えていた時に、店長に仕事終わりの挨拶をされ、おざなりに俺が返事し、今日の仕事は終わった。


 着替えて店の鍵を閉め、店長と二人で外へ出ると、とても冷たい風が吹いている。


 ────人肌が恋しくなるような。


「それでは、また明日」


「はい、お疲れさまでした」


 特に何の感情も込めず機械的にそう言って、俺は自分の寮へと向かった。

 まあ、寮と言っても、個室のアパートみたいなもので、共同生活のなんたらは特にないわけだが。


 スーパーマンのように飛んでくる風を顔に受けながら歩いていると、胸ポケットに入っているスマホが突然振動する。


『お兄ちゃん、今どこ?』


 確認すると、妹からのメッセージだ。


「『今帰宅中だ、あと五分くらいで寮に着く』……と。ほい、送信」


 ひとり暮らしをしてから癖になってしまった独り言は、気をつけていてもついつい出てしまう。


『じゃあ、帰宅したら、またメッセージ送ってー』


 俺がメッセージを送信すると、間髪入れずにそう返ってきた。


「ははっ、そんなに話すのが楽しみなのか、あいつは……まったく」


 一日の労働の疲れが吹き飛ぶようなメッセージに、顔がほころぶ。まわりに誰もいなくてよかった、こんな顔で一人歩いていたら通報されかねないからな。


 そんなうちに、寮に着いた。俺の部屋は一階の角。105号室だ。

 鍵を開ける前に、手にしたままのスマホで、妹にメッセージを送る。


「着いたぞ」


 すると、送信したわずか数秒後に、通話着信がやってきた。もちろん相手は言わずもがな、である。


「……もしもし。早いな、おい」


 ドアのカギを開ける前に、思わず通話を始めてしまう。空いた左手で、必死にカギをポケットから出そうとしていると。


「『……こんばんわー、デリバリー妹でーす』」


 なぜか、スマホの音声より早く、背後から同じ声が飛んできた。


 ディレイのかかったその音声に慌てて振り向いた俺は、ポケットからカギを落としてしまい。


「お兄ちゃん、お仕事お疲れ様」


 シャラーン、という音とともに、妹の生声が静かに響いた。


「……おま……」


「えへへー、びっくりした? アルバイト頑張って、旅費ためたんだー」


 赤いコートに白いマフラー。防寒装備でスマホ片手にしれっとそう言ってくる妹。


 ────俺が、それを目の当たりにして、思わず泣きそうになったことは内緒だ。


「……すぐ会えるってのは、こういうことかよ」


「うん。わたしは期待を裏切らない、できる妹!」


「……ばっかやろ。寒かっただろうに」


「ううん、あったかいよー。心が」


 妹の手を握ると、冷たさと温かさが同時に感じられた。俺はそのまま引っ張り、落としたカギを拾ってドアを開けて中に入る。


 ────まったく。だから必死になってバイトしていたわけか。


「新幹線で来たのか?」


「うん。仕事納めになったら、お母さんもこっちに来るって」


「……はい?」


「それで、家族三人で新年だよー。寂しくないね、お兄ちゃんも」


 ドッキリじゃねえっつの、まったく。おふくろもタチが悪いな。旅行気分に違いないわ。


 それでも。

 家族がそろうことは、素直に嬉しい。


 ────って、いやいやいや、ちょっと待て。


「まさか……おまえ、新年までここにいるつもりか?」


「そだよ。お母さんは二十九日にこっちに来るって言ってたから」


「……」


「それまで……二人っきりだから、たくさんイチャイチャできるね、お兄ちゃん」


「…………」


「あ、あとね、前に可愛い下着を上下で揃えた、って言ったじゃない?」


「………………」


「実は今、それをつけてまーす! えへへ、見たいでしょ?」


「別に」


「照れなくてもいいのにー、むっつりスケベのお兄ちゃんたら」


「……………………」


「あ、あとねー、もひとつ。みかっぱちゃんマキちゃんディーちゃんから、伝言があって」


「…………なんだよ?」


「『末永く爆発してください』とのことでしたー!」


「…………………………」


 あったま、イタイ。

 何このどっかのリア充が喜びそうな展開。兄は喜ばないけどな、手放しでは。


「プレゼントは、かわいいかわいい妹だよー! さあ、召し上がれ」


「下痢どころか赤痢になりそうなので、断る」


「照れなくてもいいって。……今日は大丈夫な日だから、朝までOKだよ?」


「俺の神経が大丈夫じゃねえわ!!!!!」


 冗談に冗談を重ねたおかげで、どこまでが本気なのかわからなくなってきた。

 漫才のような話し声だけで、隣から壁ドンされそうである、クリスマスイブ。


 俺がその時、ふと本棚においてある、自戒のために飾っておいたオヤジの写真を見ると。


 ────仕方ないなあ、とばかりに、困ったように微笑んでる────ような気がした。



 ──── 番外編 『一周忌』 完 ────

これにて終了です。

では、またどこかで。


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