一周忌 ~帰るべき場所~
目覚めたら、いつの間にか朝になっていた。
時計を見ると午前六時ちょうどだ。自分の体内時計の律義さに、思わず感嘆する。
そうして、左側を見ると。
「…………ん…………」
俺の肩に寄り添ったまま、妹が眠っていた。
身を寄せながら兄妹二人で眠っているさまを、他の誰かが見たら、どう思うだろう。
仲睦まじい兄妹と思うか、それとも────
起こさないようにそっと左肩をずらし、眠り姫に今更ながら毛布を掛けた。
俺の身体も少し冷えているが、風邪をひいたりはしていないと思う。
昨日のうちに準備した荷物はリビングにおいてある。そろりそろりと部屋を出て階段を降りると、すでにおふくろは起きていた。
「あら、おはよう。今起こしに行こうかと思っていたんだけど」
「おはよう。もう社会人なんだし、ひとりで起きれるよ」
おふくろが起こしに来なくてよかった。そんなことに安堵し、俺はいそいそと着替えを始めた。
一応顔だけは洗って、意識をはっきりとさせることにする。
「朝ごはんは、どうするの?」
「いや、いいよ。新幹線の中でサンドウィッチでも食べるわ」
「そう……すみれは? 起こす?」
「……いや、いいよ。寝てるだろ、幸せそうに」
「…………将吾がいいならそれでいいけど」
「………………」
親子の会話が、朝からなんでこんなに歯切れが悪くなるのだろう。
苦笑いとともに荷物をまとめ、俺は再度時刻を確認した。
六時二十分。駅まで徒歩で十五分。新幹線の時刻は七時五分だ。
今出れば、途中コンビニでサンドウィッチくらいは買う余裕はあるだろう。
「よし。動かなきゃな」
だが、家を出ようとする足取りが重く感じられて、立ち上がるときに思わず出てしまう『よっこいしょ』みたいに、無意識に気合を入れてしまった。
────自分で言うのもなんだが、オヤジくさいわ。
そんなどうでもいい思考をしているうちに、誰かが階段を下りてくる音が響く。
「……あら、すみれ、おはよう。早いわね」
「おはようございまふ……」
ぼんやりしたままでおふくろにおはようと挨拶を返し、そのまま妹が俺のほうを見てきたので、俺も挨拶する。
「よう、おはよう。ちょうど今出ようと思っていたところだ」
「……っっ!!」
そうして視線が合ったとたんに、なぜか妹は目を見開き、音を立てるくらい急激に顔を赤くさせた。
「……どうした? 身体冷やして、風邪でもひいたか?」
「ち、ち、ちっ、ちが、違います、はい」
「……? 変なやつだな」
「うぅ……してる時はいいけど、した後に顔を合わせるとものすごく照れくさい……」
「??」
朝から相変わらずというか、通常営業で意味不明だが……ま、いっか。こいつらしいといえなくもない。
俺は考えるのをやめた。
一方、おふくろは慌ててない妹を見て、不思議そうに尋ねてきた。
「すみれは、見送りに行かないの?」
「うん。また、すぐに会えるし」
「……はいはい」
何やら二人だけ納得している。少し謎な部分もあるが────そうだな、帰って来ようと思えばいつでも帰ってこれるんだ。家族がいる、この家に。
また、すぐに会える。
そう思うと、少し重かった足取りが、驚くほど軽くなった気がした。
「よし。そろそろ……行くか」
再度声にして、俺は荷物を持って玄関に移動し、靴を履いた。
「気をつけてね、将吾」
「風邪ひかないでねー」
玄関先でそうおふくろと妹に声をかけられたために。
「おう。じゃあ、いってきます」
────つい反射的に、俺の口から出てしまった。
なんとなくだけど、それを聞いておふくろも妹も微笑んだ気がする。
「……うん。いってらっしゃーい!」
初めてC県に行くときとは違う、妹の明るい声。
後ろ髪を引かれることはない。俺が帰ってくる家は、ここだけだから。
────またな、オヤジ。祟られないように、頑張ることにするよ。
エピローグ前に、少し補足をしました。




