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残念美少女と呼ばれる妹 〜ほんわか兄妹〜  作者: RF
残念美少女と呼ばれる妹・番外編
70/73

一周忌 ~兄妹のかたち~

一周忌、とか言いつつ、一周忌の内容については触れません。

 

 翌日。一周忌は、つつがなく終了した。

 今回は親族のみで執り行ったので、西野兄妹の父親は呼んでない。それが平穏のうちに終えられた一番の理由かもしれない。

 また尻とか触られたりしたら、一周忌どころか殺戮の宴になりそうだからな。


 ――――功貴こうき美月みづきは、元気だろうか。

 卒業式の日以来、まったくうわさも聞かないが。


「……そういやさ、すみれ」


「ん? どうかした?」


 会食の後片付けを終えて、少し落ち着いたところで、妹に話しかけた。


「おまえ、西野っていう、俺が在学中の時の生徒会副会長、憶えてるか?」


「へ? 会長だった、西野先輩のこと?」


「……会長?」


 俺の記憶が古いもののせいか。

 どうやら、功貴はあの後生徒会会長になったようだ。


「……って、三年なのに会長に立候補したのか?」


「そうだよー。大学推薦狙ってるみたいだって。西野先輩の妹が生徒会書記になったから、兄妹で生徒会って一時話題になったかなー」


「……ああ」


 なるほど。美月は、去年中学三年生だったもんな。兄と同じ高校に進学したというわけか。


 ひょっとして、功貴は美月と一緒に生徒会をやりたかったから、三年生なのに会長に立候補したんではなかろうか。


「……そうか」


「? お兄ちゃん、なんで笑ってるの?」


「いや、あっちの兄妹も仲がよさそうだな、と思ってな」


 もう一組の実の兄妹がほほえましくて、俺は安心した。

 困難を二人で乗り越えたおかげで、きっとあいつらも、絆レベルがアップしたに違いない。


 そうして、俺の脳裏には、さらにもう一組の兄妹のことが浮かんできた。詳しい事情が昨日聞けなかったからな。


「……そういや、雅弘君とあかつきちゃんって、どんな関係なんだ? ただの兄妹ではなさそうだが」


「あの二人は義理の兄妹だよー。あかつきちゃんはローカルアイドルやってたんだけどね」


「ローカルアイドル?」


「うん。『QP まよねー’s』って、節熊市ふしくまし限定で活動していたアイドルなんだけど、知ってる?」


「…………あー!!!」


 思わず叫んでしまった。確か、済生銀行さいせいぎんこうのCMに出ていた、あの三人組だ。『ごじてらワロス』ってローカル番組で特集組まれていたのを見た記憶がある。

 そういや、センターの子の名前は”あかつき”だったような……前髪が長くてメカクレ気味だったから、気づかなかったわ。


「でね、メジャーな芸能事務所から声がかかって、全国デビュー予定だから、来年になったら二人で上京するらしいよ」


「二人で……? 親御さんとかは?」


「結構前に再婚したらしいけど、父親が酒乱で、母親が育児放棄してるという複雑な家庭って聞いたかな。だから、兄妹で生きていくために、今はバイトで上京資金貯めてるんだって」


「……」


「マスターが亡くなったマー君の父親の弟で、そのあたりの事情が分かってるから、あと押しをしてるみたい」


 なんとも笑えない事情がある兄妹だ。だが、あのふたりからは暗さなどみじんも感じられなかったように思う。


「……そうか。うまくいくといいな」


「そうだよね! もしあかつきちゃんが有名になったら、一緒にバイトしてたってみんなに自慢するんだー!」


 想像でしかないが。

 暗い過去のことなど引きずらないで、無限の可能性を秘めたふたりの未来に、まっすぐ進んでいる雅弘君とあかつきちゃん。


 ――――俺たちも見習わないとな。兄妹として、ふたりには幸せになってもらいたいものだ。


 俺はそんな願いとともに、帰宅する準備を始めた。


 ……上京したら、そのうちまた再会したりして。まあ、それはできすぎな未来か。


 ―・―・―・―・―・―・―


 さすがに妹も今日はバイトを休んだ。帰宅してダラダラと過ごしたのちに、晩飯。

 今日はちらし寿司だった。もちろん作成者は妹。必死で俺の好みのものを作ってくれているらしい。


「……ありがとな」


 妹は何に対しての礼なのかを、わかっているのかいないのか。あいまいに「どういたまして」とまとめ、昨日よりも静かに食事は進んだ。


 明日の朝には、俺はまたC県へと戻らねばならない。やつもそれを考えているのか、テンションはやや低めだ。まあ、昨日の夜の黒い悪魔事件で、ひどい目に遭ったせいもあるだろうが。


 また、忙しい日々が始まる。憂鬱気分。

 帰郷するのが怖かったなどというおとといの心境が嘘みたいに、今の俺はこの家から離れがたくなっている。


 きっと俺は、帰郷する前は、兄妹としての絆が、予期せぬ方向へ変わることが怖かったんだろう。


 焦り、嫉妬、気の迷い、離れている距離。それらをすべてひっくるめた、俺たちの間に存在した不安。

 今は――――どうだろうか。


 入浴も終え、昨日と同じようにあとは寝るだけの状況で、いろいろなことをぼんやり考えていると。


「お兄ちゃん、ちょっといい?」


 これもまた昨日と同じように、デリバリー妹が来訪してきた。


「おう……?」


 扉が開いた先に立っていた妹は、片手にハエ叩き、もう一方の手にゴキコロリスプレーを持っていた。


「……Gハンター装備じゃねえか」


「当然だよー! ゴキブリは一匹見つけたら、五百匹はいると思えって言うじゃん!」


「部屋中がゴキブリで埋まるぞ、それ」


 昨日、自分のふとももを這ったGの感触が、よっぽど恐ろしかったらしい。妹の目が必要以上に血走っているのが、必死さを感じさせる。


「おかげで昨日の記憶が抜け落ちてるよー、もったいない!」


「別に何もなかったがな」


「……ほんと? お兄ちゃん、わたしが気を失ったのをいいことに、えっちないたずらしてないの?」


「出てけ」


「じょーだんですじょーだんですお兄様!」


 部屋の外に押し返そうとする俺に逆らって、妹が部屋内に不法侵入し、ベッドを背もたれにして床に直に座った。


「……」

「……」


 お互い、どちらかが何か言い出すのを待っているような沈黙。


「……明日、朝七時に帰る」


 仕方なく、俺のほうから業務連絡を切り出すことにした。膝を抱えこんで、俺のほうを向く妹の目は潤んでいる。


「……見送りには、行かないね。わかってても泣くから」


 先ほどの軽口とはうってかわって、ややしんみりとした口調でそう話す妹に、俺は無言で頷き返した。

 こいつに泣かれると、俺も後ろ髪を引かれるようになるから、それでいいかもしれない。


「年末は、帰れない。すまないな」


 首を左右に振る妹に対し、すまない、以上は言えなかった。


「大丈夫、理解してるよ。それに……今はわたしが頑張るときだから」


「……」


「わたしたちの、永遠のためにね」


 俺たちの関係におけるキーワード、永遠。

 それは言葉にすればあまりにも陳腐で、手に入れるのはとてつもなく難しいもの。


 ――――それでも。


「……ああ。寄り道すんじゃねえぞ。俺の妹は……おまえだけなんだからな」


 別れて他人になる恋人より、別離はなれいても絆がより一層深まるような、永遠の兄妹であろうとする、俺たち。


 こんな幸せな関係、他に――――あるわけがない。


「うん。期待は……裏切らないよ。絶対に」


「おう」


「だから、お兄ちゃんも……」


 妹のセリフをさえぎり、俺は自分のベッドから降りて、妹の隣に座った。


「阿呆。あのパフェを全部食うなんていうとんでもない期待より、難しいことなんてないだろうが」


「……」


「今までも、これからも、な」


「……うん」


「だからおまえは、焦らず、一歩一歩、迷わずに……追いかけてこい」


 そう言い切った後、俺の肩に頭をのせてくる妹を、思わず抱きしめそうになった。が、俺にはまだ、そうする資格はない。


 それでも、心は穏やかだ。焦らない、迷わない、裏切らない。そう決めたから。


「……あ、そうだ。お兄ちゃん、年末は仕事?」


「当然だ」


「じゃあ、クリスマスあたりは?」


「当然だ」


「そっか。じゃあ、仕事が終われば職場の人とクリスマスパーティーでもするの?」


「そこまで仲がいい同僚はいない」


「ふーん、そっか。じゃあさ、クリスマスの夜は、空けといてよね」


「空けなくても空いてるわ。なんだ、通話でもするか?」


「……うん、話そ」


「わかった」


 不思議な感じの会話で二か月先の予定を埋めたあと、しばらく兄妹で身を寄せ合っていると。


 ほわほわした世界の中で、不意に眠気が襲ってきた。


「……眠くなってきた」


「お兄ちゃん、明日早いもんね。そろそろ寝よっか?」


「……」


「……お兄ちゃん?」


 意識が幸せなままフェードアウトしようとしている。


「……あ、そうだ。パフェを完食……、ご褒美がまだ…………ね」


 最後に耳に届いた、妹のとぎれとぎれの言葉すら認識できないまま、俺は闇に落ちた。


 ――――何やら唇に触れる、柔らかい感触とともに。


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