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残念美少女と呼ばれる妹 〜ほんわか兄妹〜  作者: RF
残念美少女と呼ばれる妹・番外編
68/73

一周忌 ~大人になったら~

 あの後、マスターに平謝りしてから退店してきた。外はいつのまにか、夕焼けが自己主張している時間である。


「もうROOD行けねぇわ……」


 バイトが終わった妹と一緒に歩きながら、やっちまった感を表現する俺。背景は多分黒ベタ塗りだ。

 常識的に考えれば、トイレにゲロぶちまけるわ、店内で調子に乗って騒ぐわ、単なる迷惑な客と化していたわけで。社会人として猛省せねばなるまい。


「大丈夫だよー、マスターってなんだかんだ言って、結構優しいんだから」


「誰のせいだと思ってるんだ張本人! おまえは一番深く反省しろ!」


「反省してまーす」


「ぶん殴るぞ」


 まったく懲りてないこいつに説教するのもばかばかしい。二酸化炭素を過剰生産しそうだ。


「いいじゃない、たまにお兄ちゃんが来てくれた時くらい、調子に乗っても」


「仕事はきちんとしろや!」


「うん、次からはそうする」


「当然だ。仕事をきちんとしない人間など、大人とは言えん」


 俺のことも大人とは言えまい、なんてことは棚にあげとく。まだまだ兄弟そろって大人にはなり切れない。


「……でも、まだまだ時間はあるし、大丈夫だよ」


「何の時間だ?」


「わたしがお兄ちゃんを介護するようになるまで」


「本気だったのか……」


 まだギリギリ十代だというのに、今から介護されることを考えてどうするんだろうか。

 そうなるまでにあと数十年――――


 ――――死がふたりを分かつまで、か。


 俺が死ぬとき、やっぱりそばにいるのはこいつなんだろうかと、改めて思ってしまう。


「……って、いやちょっと待て。俺が要介護になるならば、おまえだってそうなってる可能性はあるぞ」


 なんとなく照れ臭い超未来予想図をかき消すように、俺はわざとそう発言してみた。


「んー、そだね。じゃあさ」


「……なんだ?」


「将来介護してくれるように、子どもを作っちゃえばいいんじゃない」


「ぶっはっ!!!」


 照れは消えたが、生々しい妄想が代わりに現れた。

 いやいや待て待て、俺とこいつで子どもを作るという話ではない、はずだ。早とちり良くない。


「ね? そうすれば、わたしたち二人が要介護状態でも、なんの憂いもなーし!」


 早とちりじゃなかった。残念ながら。


「本気かよ……」


「冗談でこんなこと、言えませーん」


「俺はピンピンコロリで人生を終えるから、いいわ」


「えぇ……せっかくなら兄と妹、二人くらい子供ほしいのになー」


「……じゃあ、だれかイケメンで賢そうないい遺伝子を持つ男に、子作りお願いしてみろ」


 俺は逃げた。当たり前だ。俺たちは、兄妹。実の兄妹。

 けっしてそんなことが許される関係にはなれない。第一オヤジおふくろに顔向けできない。

 自分で言うのもなんだが、俺は常識人のつもりだ。そのあたりにはこだわりたい。


「…………」


 俺の至極まっとうなはずの意見を受けたせいか、妹は先ほどまでの明るさを消しさり、しばらく黙り込む。

 生々しい意見はほんとダメだ。気まずくなる。なおかつそれをぶち壊す手法が見当たらない。


「ねえ、お兄ちゃん」


「……なんだ」


 気まずいままの受け答えは、当然ながらぎこちなさマックスだ。というより妹の雰囲気が怖い。


「それで、お兄ちゃんは平気なの?」


「……何がだ」


「わたしが、他の男の人と、子ども作っちゃっても」


 バカやろう、そんな質問するな。そんなことすら言えない俺は、どこまでも常識的で、弱気で。ただ、自分に確信が持てなくて。


「そりゃ、おまえが子どもほしいなら、仕方ないだろ……」


 視線をそらし、俺は逃げた。

 俺は、兄妹ずっと一緒にいられるだけでいいんだ。

 それ以上求めていない。


 求めちゃ――――いけない。


「こっち見て言ってよ、お兄ちゃん」


 だが妹は、俺の逃げを許さないようだ。俺が視線をそらした先に回り込んで、強い意志を込めた瞳で俺を見つめてくる。


「……ねえ、本気なの? 本気でそう言ってるの?」


 わからない。

 なんでこいつはこんなにムキになっているのだろう。

 なんでこいつは――――


「……ばっかやろ」


 俺は、久しぶりに考えるのをやめて、わかることだけ吐き捨てる。半ばヤケクソだ。


「本気でこんなこと、言えっかよ」


 こいつを縛り付ける、俺のエゴ以外の何物でもない感情。


 だが。

 それを確認した妹が、なぜか突然笑顔を咲かせた。そしてそのまま俺の左腕へと絡みついてくる。


「……ん。ならよし」


「……なにがいいんだ」


「わたしたちは、永遠に兄妹だ、ってこと」


 くるっと顔の向きを反転してしまったため、こいつの表情はわからない。だからと言って確認する気もない。


「でもね」


「あん?」


「そこだけは、期待を裏切ってほしいかな、なーんて」


「どこが、『そこだけ』なんだ……」


 空が夕焼けから暗闇に変わろうとしている。久しぶりにこいつの考えが読めない展開が、そのことに気づくのを遅らせていた。


「……ねえ、提案があるんだけど」


 そうしてしばらく、日が落ち切るまで無言だったくせに、予期せぬタイミングで話しかけてくる妹を、ぶっきらぼうな返事でかわす俺。劣勢なのは明らかだが。


「言ってみろ。聞くだけは聞いてやる」


「うん。あのね、近い将来、ふたりともいい大人になったら、さ……」


 妹は一番大事なところを濁してきた。俺に察しろということらしい。


 少しだけ想像をして、さっきのパフェレベルの罪悪感と、それをさらに上回る平凡じゃない幸せが見えてきた。


「……そこは、期待を裏切らせてもらおうか」


「もー! どっちの意味なのよー!」


 ご想像にお任せしますとばかりに、俺は妹に組まれているほうの手をポケットに突っ込み、そのまま黙って家まで歩いた。

 期待を上回ることだって、ある意味裏切りに違いないからな、きっと。


 ――――時間はまだまだある、はずだ。


―・―・―・―・―・―・―


 なお、余談ではあるが。


 帰宅して妹の部屋を確認したら、例の家族四人の写真を飾っている写真立てのガラスに、ひびが入っていたらしい。


 ――――わかってるよ、オヤジ。ああ、わかってますとも。


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