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残念美少女と呼ばれる妹 〜ほんわか兄妹〜  作者: RF
残念美少女と呼ばれる妹・番外編
67/73

一周忌 ~仕事しろ~

 俺は口をすすいで、またみんなが集まる座席へと戻った。

 妹は俺がぶちまけたものの後始末のため、男子トイレを掃除している。ある意味、俺の脇腹を肘打ちした罰だ。


「あー、すっきりした」


 着席すると同時に無意識につぶやきが出る。あれほど重かった腹が嘘のように軽い。今ならもう一度パフェ……は勘弁だが、空くらいなら飛べそうな気もする。


「ふふ、お兄さん、スッキリした顔(・・・・・・・)をしてますね」

「……そうですわね」

「ほんとだー」


「そりゃ、全部吐き出してきた(・・・・・・・・・)からな」


 意味ありげにそう言ってくる三羽ガラスを軽くいなしてから、俺はお冷を口に含んだ。

 腹のもやもやも胸のもやもやも、すべて出しつくしたこのスッキリ感よ。


 まあ、おそらくはもう二度と、あのバケモノは注文はしない。懲りた。

 胃もたれが三日続くとか、生クリームが夢の中まで追いかけてきたとか、大げさではない表現だわ。


「じゃあ、キングドラゴンパフェ初の完食者として、将吾お兄さんの記念撮影をしたいんすけど、いいっすか?」


 俺が落ち着いたことを確認してから、スマホ片手に忍び寄る雅弘君だが、その顔を見る限りでは、単なるさらし者にされる予想しかできない。


「……撮影してどうするんだ」


「そりゃもちろん、引き延ばして店内にドドーンと飾り」


「お断りする」


「そんな……まさかあのパフェを完食する強者が、ここに現れるとは思わなかったっすから、何かしらの形で残しておきたいんすけど」


「そんなことで有名人になりたくないわ」


 俺は頑なに断りつづけるのだが、なんとか撮影しようと粘る雅弘君の後ろから、トイレ掃除を終えたらしいすみれがひょっこり顔を出してきた。


「はいはーい! ひとりがイヤならみんなで記念撮影しよー!」


「おま、突然現れたな。掃除終わったのかよ?」


「うん、来た時よりもきれいに、完了しましたー!」


「そっか、お疲れさん。まあ、おまえが余計なことしなきゃ、トイレ掃除する必要もなかったんだがな」


「反省してまーす。えへへ」


「俺の目を見て言えこのヤロー」


 俺の吐瀉物の後始末をさせられたというのに、なぜか妹は嬉しそうである。


「なんでおまえ、そんなにニコニコしてんだ? そんなに男子トイレ掃除したかったのか? やっぱ変た」


「ちがうよー! なんとなく、未来のことを想像しちゃったの!」


「……未来?」


「うん。お兄ちゃんの介護をするのって、こんな感じなのかなーって」


「……未来すぎやしませんかね……」


 俺が要介護になるのは、いったい何十年先なのだろう。

 いや、たとえそうなったとしても、こいつにシモの世話をされるのはイヤだ。想像しただけで衝動的に舌噛んで死にたくなる。


「大丈夫だよ、お兄ちゃんが寝たきりになっても、わたしはずっとそばにいるからね!」


「だからいろいろすっ飛ばして、いきなり介護の話をすんなよ!!!」


 俺たち兄妹以外が、一斉にため息を吐く様子が見て取れる。


「大事な過程そっちのけで、なんで介護の話をしてんだろーね、この兄妹は」

「あ、あはは……らしいというかなんというか」

「すみれさんは、一生変わらなさそうですわね……」


 美佳さんは呆れている。真希さんは引きつり笑いでごまかして、瑠璃さんはもはやあきらめているようだ。

 いやだからね、俺は巻き込まれただけなんですけど。俺にまでそんな冷たい視線、注がなくてもいいじゃん。


「いいじゃないのー、死がふたりを分かつまで、わたしたちは一生兄妹なんだから」


 相変わらず空気の読めない我が妹が、俺のほうを指さしてビシッとキメ台詞をのたまう様に、あきれて反論もできない。

 傍らに並んで立っているもう一組の兄妹、雅弘君とあかつきちゃんは、何やら感動したように目をウルウルさせていた。この兄妹もちょっとズレている。


「すごい、一生の兄妹愛、です……」

「感動したっす! 参考にさせてもらうっす!」


 温度差が激しいわ。どのあたりを参考にするつもりなのかは、あえて訊かないでおこう。


「というわけで、そのときまで残せるように、みんなで記念撮影しようよ!」


 話をいろいろな方向へと飛び散らせた張本人が、そう提案してまとめようとしてきた。

 なにが『というわけ』なのかはともかくとしても。


 ――――記念撮影、か。今しかない、この時を。


 俺は異論はない。他のメンバーを伺うように見てみると。


「よくわからないけど……」

「わたしはいいですよ」

「何かの記念にはなるかもしれませんわね」


 美佳さん真希さん瑠璃さんは、とりあえず乗ってきてくれた。


「じゃあ、撮るっすよ」

「えー、マーくんとあかつきちゃんも一緒に映ろうよー! マスター、撮影お願いしまーす!」


 妹が、さりげなく雅弘君とあかつきちゃんも道連れに……じゃない、ふたりも喜んで混ざってきたわ。


 先ほどからずっとにぎやかな雰囲気が続いているROOD店内。

 店で一番偉いはずのマスターすらも撮影係という雑用で巻き込み、記念撮影をおっぱじめる迷惑集団の完成だ。


 もらい事故に遭遇したマスターは、迷惑そうにしているかと思いきや、なぜか穏やかに微笑んでいた。穏やかすぎて、逆に不気味なくらいである。


「すいません、マスター。撮影お願いするっす」


 雅弘君は、そう言ってマスターへと自分のスマホを預け、みんなの中に入ってきた。渡されたスマホを受け取ったマスターは、そのままこちらへとそれを向けてくる。


「はい、みんな笑って―」


 カメラマンの指示をうけ、みんなぎこちない笑顔をうかべる――――のだが。


「……じゃあ、撮るよ? はい、フ××クユー!」


「えっ」

「へ?」

「は?」

「!?」


 カシャッ。


 笑顔と相反するマスターの冷たい言葉が撮影合図になってしまった。


 ――――おおう、やっぱマスター怒ってるわ。そりゃそうだよな、仕事中にこんなことやってては。


「……君たち、まじめに仕事、しなさい!」


 怒ったマスターがスマホを投げ返し、焦って雅弘君が受け取る。横からスマホを覗くと、撮られた写真は、七人全員が間向けな顔で映っていた。


 ――――黒歴史に、また1ページ。

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