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残念美少女と呼ばれる妹 〜ほんわか兄妹〜  作者: RF
残念美少女と呼ばれる妹・番外編
63/73

一周忌 ~兄妹の不安~

登場人物、軽くおさらい


神山美佳かみやまみか・・・通称みかっぱちゃん。水泳部所属で全国レベル。主人公と同い年の兄がいる(ちなみに浪人中)


星野真希ほしのまき・・・通称マキちゃん。全国模試七位の実績を誇る天才少女。


大門瑠璃だいもんるり・・・通称ディーちゃん。大門とうふ店の社長令嬢でお嬢様。


倉橋将吾くらはししょうご・・・主人公。すみれの兄。


倉橋くらはしすみれ・・・ヒロイン。将吾の妹。残念美少女。

「いらっしゃいま! ……せ……?」


 なぜか三人プラスアルファという組み合わせでROOD(ルード)に入店した俺たちを見たとたん、妹の顔が能面のようにひきつる。スマホで撮影したいくらいの変顔だ。


「うわぁ……」

「引きつってるね……」

「もはや美少女でもないただの残念ウェイトレスですわね」


 確信犯的な三羽ガラスではあるが、この表情はさすがに予想外だったようで。思わず俺も顔面麻痺したかのように表情を作れなくなった。


「……なーんで、お兄ちゃんが一緒なのかなー?」


 店の奥に空いている四人席へと向かい、全員が着席した後。間髪入れず、お冷やを店中に響くくらいの音で思い切りテーブルへと置き、般若の面をかぶって接客してくる残念なアルバイト少女に、何ができるというのだ俺は。


「たまたまだ、たまたま。偶然そこで会っただけ」


 あ、言い訳だけはしとかないとあとがこわい。本能でそう悟り保身に走った俺の言葉だが、妹には響かなかったようである。


「さっそく浮気してるんじゃん……」


「だから浮気ってなんだ」


「わたしという可愛い妹がありながら、他の女に心惑わされることに決まってるでしょー!」


 なぜか美佳さんも真希さんも瑠璃さんも目が点だ。もっとわかりやすく言えば『なぜならば』記号で表される顔文字のようだ。俺だけがわけもわからず狼狽えている。はたから見たらこれも修羅場のうちに入るのだろうか。


 だが。冷静になって思い返すと、いろいろ引っかかること多数。


「……他の女?」


 俺は三羽ガラスたちをぐるっと指さしてそう尋ねると、妹は大きく頷いた。


「ないない」


 いや別に妹相手にたとえ浮気でも言い訳する必要ないのは理解しているけど、顔の前でそう言いながら手を左右に振る俺のしぐさに三羽ガラスたちはハッとして、すぐに集団で俺をつつき始めた。


「失礼しちゃいますねー! あたしたちならば、将吾お兄さんの一人や二人……」

「その気になれば、いくらでも誘惑できますからね? 狙われたが最後ですよ」

「わたくしたちの魅力にあらがうことなど、一介の男性には不可能ですわ。全戦全勝ですもの」


 しなを作りながらそう断言する三羽ガラスに、すみれの目がさらに鋭く変化するが、俺は予想外の事実に驚いた。ゆえに、素直に思ったことを言わせてもらう。


「すごいな。みんな、オトコ誘惑したことあるんだ。まあみんなかわいいし、それくらい普通か」


「……えっ? そうなの? みかっぱちゃんもマキちゃんもディーちゃんも、いつの間にか大人の階段上っていたんだね……」


 妹まで俺の言葉に便乗してきた。その時、三人の動きが一斉に止まったのは気のせいだろうか。


「しかも、勝率百パーセントか。さすがだわ。ちなみに今は、三人とも彼氏いるの?」


 その質問で三人の呼吸が止まった。これは気のせいではないだろう。


「あ、今は三人ともいないって断言できるよ」


 妹の追加属性攻撃に三人の顔色が消えうせた。これは……


「みかっぱちゃんは水泳部が忙しくてデートするヒマなんてないし、マキちゃんは畏れ多くて誰も言い寄れないし、ディーちゃんは釣り合うセレブな相手がそうは見つからないし」


 こうやってROODに来るヒマはあるのにデートするヒマはなくて、全国七位で聖女のような扱いを受けていて、豆腐屋さんなのに超セレブな高嶺の花で。


「……なるほど。よくわからん。つまり、三人は中学時代に……」


 兄妹でのさらなる追求途中、三人そろってテーブルの上にのせていた俺の手を押さえつけてきた。制止要求らしい。


「将吾お兄さん……」

「そんな推測は無用です」

「お察しくださいませ」


 三人とも白魚のような手ではあるが、目はサバの生き腐れ。シュールすぎて鼻血も出ねぇ。

 だいいち全戦全勝って、違うだろ。それじゃディビジョンバイゼロ(ゼロでわりざん)じゃねーか。単なる不戦敗とも言える。


「三人とも、どさくさに紛れてお兄ちゃん誘惑しないでー!!!」


 俺の手を握ったように見えたのか、すみれがオーダーも取らずに怒りの叫び声をあげた。が、安心しろ。こんな死んだ目で迫られても、全力で『お断りします』ダンスを踊るから。


 ―・―・―・―・―・―・―


「なーんとなくだけど……すみれっち、ピリピリしてない?」


 美佳さんがオーダーを取り終えて、残念な妹が立ち去ったのちに、そんなことをぽろっとこぼした。


「わたくしもそれは思いましたわ。お兄様と一緒に入ってきただけで、浮気などの疑いをかけられるとは……」

「だよねー。いままでも一緒にROODに来たことあったのに」


 瑠璃さんがそれに同意して、美佳さんと頷きあう。すみれが目の前から去った今、冗談などを言い合う必要はないわけで。

 しばらくの全体的静寂。それを壊したのは、真希さんの推測発言だった。


「……すみれちゃんはきっと、不安なんだと思います。お兄さんと離れていることが」


「不安?」


「はい。自分と遠く離れたところで、お兄さんが何を見ているのか、何をしているのか、わからないわけですから。それが半年も続いたんです、わからない不安も半年分ですよ」


 半年分の、不安――――か。

 俺たちは、ずっと兄妹だった。だからこそ、離れていてもお互いを分かり合える、そう思いたいところだが。


「お兄さんは、どうです? 離れて暮らしていた半年の間、すみれちゃんが誰かに口説かれてないか、心配になりませんでした?」


「むがっ」


 真希さんの言葉で、妹の不安らしきものを漠然と理解した。思わず喉に空気がつかえるほどに核心を突いている。


 俺の知らないうちに、大人びて、そして――――誰もが振り返るくらいに、きれいになって。そんな妹の成長ぶりを、今までずっとそばで見てきたのに。俺が一番知っていたはずの妹が、いつの間にか、俺の知らないところで俺ではない誰かに笑いかけている。

 そんなことを改めて想像したことなどなかった。


 ――――いや。違う。


 想像するのが、何となく、何となくためらわれた。それだけだ。

 俺たちは、兄妹。惚れた腫れたなどにうつつを抜かす間柄ではないわけだから。


「……ああ。すみれっち、最近ますます美少女っぷりに磨きがかかっている気がするもんねー」


「そうですわね。あれだけの妹がおられるんですもの、お兄様も不安になりますでしょう?」


 さらに俺をあおるような美佳さんと瑠璃さんの追い打ち。それでも、だからといって俺がその言葉に同意するわけにはいかない。


 兄妹の誓いは済んでいる。離れていてもその絆は切れたりすることはない。

 すみれの兄は俺ひとりだけだ。きっと、俺以上に妹を理解してやれるやつなど、いないはずだ。俺以上に、妹を大事に思っているやつなど――――いないはずだ。

 なぜ俺が不安に思わなければならないんだ。たとえ妹が俺の知らない男に対して笑いかけたからと言って、なぜ俺が嫉妬のような感情を抱かなきゃならないんだ。


 必死に自分にそう言い聞かせている最中、自然と難しい表情になっていたのだろうか。固唾をのむような三人の様子にハッとして、俺は意図的におどけた。


「いや、見た目がいくら進化しても、中身はいまだ残念なままだからなあ……」


 俺の言葉でこわばった表情をいくぶんか緩めた三人は、いつも通りに戻り話題に乗ってきた。


「そうですね、お兄さんが帰ってくる一週間前からのすみれちゃんの浮かれっぷりときたらもう……」

「授業中に居眠りして『お兄ちゃん』なんて寝言言ってたしねー」


「うわぁ……」


 なんすかその羞恥プレイ。……まあ、おそらく事実だろうけど、そんなことを聞いてしまっては俺も思わず赤面するっての。すいません、もう母校へは行けません。恥ずかしすぎる。


「そうですわね。バイトを増やしてまでも……っと、これは内緒でしたわ」


「……ん?」


 瑠璃さんが、美佳さんと真希さんの発言後に何かを付け加えようとして途中でやめた。


 ――そういや。

 すみれのやつ、最近バイト増やしてるって言ってたっけ。何か理由があるのだろうか。おふくろは知ってるようだったけど――この言い方からして、三羽ガラスも全員事情を知っているみたいだ。


「あの、さ。すみれがバイトを増やしてる理由って……」


 俺がそう三人に質問しようとすると。突然、外部からそれを邪魔する声が飛んできた。


「ちわーっす! はじめまして、すみれ先輩のお兄さんっすか?」


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