表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残念美少女と呼ばれる妹 〜ほんわか兄妹〜  作者: RF
残念美少女と呼ばれる妹・番外編
60/73

一周忌 ~久しぶりの我が家~

「ただいま」


 半年ぶりの我が家の玄関にて、俺は久しぶりに、本当に久しぶりにそんなセリフを発する。

 少なくとも、ひとりで暮らしている時に帰宅して言う言葉ではない。


「お帰り、将吾。遠くからお疲れ様」


 そして久しぶりのおふくろの『お帰り』だ。さっきのすみれのそれといい、少しだけむず痒くは感じるけれど。


「いや、新幹線に乗ってくればすぐだし、そんなに大変じゃなかったよ。おふくろ、体調は大丈夫?」


「将吾に心配されるほど年老いてはいないわよ」


「はは、違いない」


 親父の代わりの大黒柱となったおふくろを気遣うのも当然ではある。以前に倒れたこともあるしな。


 それでも、おふくろはそんなに疲れた顔はしていない。一周忌の準備などいろいろ大変だったとは思うのだが、今は非常に穏やかで優しい、まさしく母親のような表情をしている。


「――――少し、正夫さんに似てきたかしら。社会人らしく見えるわよ」


 茶化すふうでもなくそう言ってのけるおふくろに、なんと返していいかなど思いつくわけがない。なにせ、社会経験を積んでもボキャブラリー不足はいかんともしがたいわけだし。


 俺はちょっとだけ視線を斜め下にずらし、おふくろのその言葉をごまかすかのように荷物を思い切りドカッと玄関に置いた。

 ついでに、そんなに重労働ではなかったとは思うが、一応は妹にも礼は言っておこう。


「あ、すみれ、荷物ありがとな」


「どういたまして。これ、礼服だよね。どこに置けばいいの?」


「とりあえず、そこの浴室脇にあるオヤジ用クローゼット前にでも置いてくれたらいいや」


 かつての我が家のつもりでそうお願いしたはいいが、我が家の中ですらいつのまにか変わっていたことを、俺は妹の次の言葉で知る羽目になる。


「了解。じゃあ、わたしの部屋のクローゼットに入れておくね」


「なんでだよ!」


「だって、そこのクローゼット、わたしの部屋に移動しちゃったもの」


「……は?」


「お父さんのスーツとか、お兄ちゃん持って行っちゃったでしょ。そのせいでそこのクローゼットが空になったから、使わないのももったいないかなって、この前業者さん呼んでわたしの部屋に動かしてもらったんだ」


 そういや、俺は親父のスーツ類を全部もらっていったんだっけ。社会人に必要不可欠なものだったからな。


「おかげで服とかしまうスペースが増えて楽だよー」


 こいつが喜びながらそう説明するのを聞いて、俺は昨日の通話時になぜいきなりオヤジが現れたのかという理由を察した。


 ――――まあ、いいか。気づけよ、とは言わないでおこう。


「そういうわけだから、わたしの部屋にこの礼服かけとくね」


「おいこら待てやめろ」


 なぜか強引に自分の部屋まで俺の服を持っていこうとする妹を全力で引き留める。


「なんでよー? 年頃の妹の部屋に、なんて気にしなくていいんだよ?」


「阿呆。それなら俺の部屋にしろ。おまえの服と一緒に置いたら、礼服が女くさくなる」


「女くさいって失礼だよー! 妹スメルくらいいじゃない、兄妹なんだから」


「……」


 妹スメルとはまたえげつない。スメルズライクティーンエイジシスター、ってか。思わず『ハウハイ?』とか聞いちまうぞ。

 ―――ーうん、こんなことを考えている俺、気持ち悪いと他人に指摘されても否定できんわ。


 そんな思考を巡らせながらしばし黙りこくっていた俺の様子のおかしさを感じ取り、妹の態度が一気にしおれた。


「……それとも、妹スメルが服について、誰かに誤解されるのが、いやなの?」


「はぁ? 誰にだ」


「……恋人、とか……」


 さっきまでの勢いが完全に消失。恋人などというもの、この人生の中でいたためしなどありゃしないんだがな。

 おまけに礼服など、そんなに頻繁に着る機会ないだろ。デートには間違いなく着ないぞ。


「そうだよね……ひとり暮らしだもん、夜な夜な募る欲求に負けて、あーれぇーな毎日を過ごしても仕方ないよね……」


 こいつの話している内容はクソみたいなひとり漫才だ、それはわかってはいるが。

 事実無根な疑いを向けられた上に、本気で落ち込んでいる態度をの当たりにして、つい妹の頭を力いっぱい70%セーブくらいでポカっと叩いてしまった。半年ぶりのツッコミだ。


「いたっ」


「勝手に想像してひとりで納得しないでくれ」


 俺のこころからの言葉である。見ろ、おふくろの顔が怖い。


「将吾、もし妊娠させちゃったら……ちゃんと責任取りなさいよ」


「責任取らなきゃならないような真似なんかしてないって! だいいち、責任取らなきゃならないような相手もいねえし!」


 思い切り否定させていただくために力いっぱいそう言い切る俺の態度に、ほっとした表情になったすみれのことはとりあえずどっかに置いとくとしてだ。


 ――――高校を卒業したら、そのあたりの親の考えも変わるのだろうか。

 少なくとも去年だったら、おふくろはきっと「妊娠させるような軽はずみな真似はするな」と言っていたに違いない。


 ああ、俺は自分のことは自分で責任を取らねばならない立場になったんだな、と改めて痛感した。我が家の中の変化以上に、そのことが突き刺さる。


「えっ、じゃあ、もしも……」


 俺がそんなことを考えているうちに、すみれが何かを思いついたらしいが、やつはなぜかそれを言いよどんだ。


 ……………………


 ……なんだよ、もしもの後に続く言葉は。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ