表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
残念美少女と呼ばれる妹 〜ほんわか兄妹〜  作者: RF
残念美少女と呼ばれる妹・番外編
59/73

一周忌 〜半年ぶりの帰省〜

 久しぶりの、我が家。


 いや、まだ我が家までは帰っていないけど、新幹線の車窓から『酒は大奥』という看板を見ると、ああ、帰ってきたんだなあ、そうしみじみと感じられる。


 ピン、ポロリピン、ポロリ、ピロリロリロリロリロリン、ピロロロロロロロロロロロン♪


『ご乗車、お疲れ様でした。次は、節熊ふしくま一本松線いっぽんまつせんは、お乗り換えです』


 半年前にも聴いた、懐かしの音楽とアナウンス。荷物を下ろし、いつでも立ち上がれるように準備をすると、景色の移り変わりが次第にゆっくりになってきた。


 やがて、新幹線のガラス越しに見える風景が完全に固定され、音とともにドアが開く。俺以外に降り立つ人もたくさんいた。


 ――――はずだが。


 俺が新幹線のホームに降り立った直後に、声が聞こえた。昔から飽きるほど聞いてきた声だ。


「お兄ちゃーーーん!」


 俺も含む、降り立った乗客ほぼ全員が、思わず声のするほうを振り向く。予想通り、駆け寄ってくる美少女。


 ……ちょっとキモいか。


 駆け寄ってくるすみれ。俺は人の流れの中から抜け出し、ホームの真ん中に足を進めた。


「――――おかえりっ!」


 ドスン。


「ぐえっ」


 妹は喜びのあまり、飛びついてきて俺にフライングボディアタックをしてきて、倒れそうになった。荷物をその場で手放しなんとかこらえたはいいが、まわりの視線が痛い。


「えへへぇ……生お兄ちゃんだぁ……」


 抱きつかれたまま妹に全身をすりすりされてるせいで、まわりの視線がさらに痛さを増す。公然わいせつ行為を見るような目はやめてくださいみなさん、頼みます。


「ほら、いいかげん離れろ。動けない」


「やだ」


「歩けないわバカモノ!」


 妹は首に回した手を未だ離さない。俺は荷物を拾い上げ、妹ごと引きずって歩く。


「重い」


「失礼だねお兄ちゃん! 重くなったのはおっぱいくらいだよ!」


「ぶっ!」


「ついにカップがDを突破しましたー。嬉しい?」


「……なぜ嬉しく思わなきゃならない?」


「えー、だって、自由にできるのはお兄ちゃんだけだよ?」


「…………」


 ああ、公然わいせつ行為と思われても仕方ないやつだ、これ。捕まりたくないなら早くこの場から去らねば。


 俺はそう思い、無防備になっている妹の腋の下を、人差し指でつついた。


 ぷにっ。


「ふにゃっ!?」


 反射的に妹が巻き付けていた腕を放したので、俺はここぞとばかりに早足で距離をとる。


 …………距離をとったはいいとして。


 なんか、腋の下をつついたつもりなのに……柔らかかったような気が……ま、いっか。妹から解放されたわけだし。


 腕で胸をおさえているポーズを取ったまま赤面している妹をほっといて、俺は階段を下りて改札口へと向かった。


 ―・―・―・―・―・―・―


「おまえ、今日はバイトは?」


 改札を出て家まで向かう途中、歩きながら俺はそう尋ねた。


「今日は午後一時から五時までだよ。最近、土日はきっちり入ってるんだ」


 妹は俺の荷物をひとつ持ってくれている。まあ、その荷物には礼服しか入ってないから重くはないはずだ。

 俺に抱きついてこないように、という意味合いもあり、わざとそれだけ持たせている。


「勉強はおろそかにしないようにな」


「もちのろんだよ。でもね、ちょっとお金がほしくてね」


「……そうか。まあ、がんばれ」


「うん!」


 なんのためにお金が欲しいかは訊かないでおく。が、とりあえず家に帰ってから少し雑用はあるにせよ、明日までは俺もほぼフリーである。久しぶりに、カフェROOD(ルード)にでも行ってみようか。


 別にこいつの働く姿を見に行くわけじゃなくて、単にうまいコーヒーを飲みたいだけだ。


「……はは、ばっかみてえ」


「? なにが?」


「や、ひとりごとだ、気にするな」


 ――――すみれの働く姿を久しぶりに見たい、そう素直に思えたらいいのにな。誰に漏らすわけでもないのに。兄ってやつは、素直じゃないひねくれものなのだろうか。それとも俺だけなのか。


 それでも、見慣れたはずの、何度も歩いたはずの、駅から家までの道のりをこんな気持ちでまた歩くことになるとは、高校時代の俺は思いもしなかったはずだ。


 とどのつまり、なんだかんだ言ったところで、久しぶりに直接会ってたかぶっているのはこいつだけじゃない、ということなのだろう。


 ふと、並んでいるこいつの横顔に目を向ける。


 ――――少し、大人っぽくなった、かもしれない。半年前と比べて。


 果たしてそれは、人生の目標ができたからなのか、それともほかに理由があるのか。

 まだまだ中身を知れば残念美少女なのだろうが、半年という時間が、とても意味のある時間だったのかもしれない。こいつにとっては。


「……えへっ、なーに? じっと見て」


「……ああ、いや……」


 俺の視線を感じたのか、妹が不意に目を合わせてきて、少しドキッとしてしまった俺は取り繕いながら慌てて目をそらす。


 こいつは、こうやって俺の知らないうちに、大人になっていくのだろうか。

 その過程をそばで見れないことに、少しの無念を抱きつつも。


「……ね、もっと見て。今のわたしを」


 こいつがこうやって優しく微笑むのは、きっと俺に対してだけなのだと、知っているから。


 ――――だから。不安は、ない。




「……半年分、たくさんわたしを見ないと、許さないからね? お兄ちゃん」



最後にフラグが……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ