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悪意の種   〜カラス編壱〜

※この話はフィクションです。まねしないでください。


みかっぱちゃん、マキちゃん、ディーちゃんが大活躍するプチ番外編みたいなものです。


神山美佳かみやまみか……みかっぱちゃん


星野真希ほしのまき……マキちゃん


大門瑠璃だいもんるり……ディーちゃん

 さて、12月も下旬にさしかかり。

 もう俺たち高校三年生はほぼ受験対策で、自由登校に等しい状態なのだが。

 それでも図書室もあれば先生方もいる。自宅でちまちま勉強するより、はるかに効率がいいのは学校だ。


 そう思って今日もほぼ自習な授業を受けるつもりだったが……教室に着くなり、受験とは関係ない問題が起きた。


「将吾、おはよう。ところで……」


「……おはよう。どうかしたか?」


 話しかけてきたのは、以前俺を救ってくれた――はずの、神山圭一かみやまけいいち。みかっぱさんの兄だ。


「非常に言いづらいことなんだが……おまえの妹の情報が、出会い系サイトに流出しているぞ」


「……なんだと?」


 あまりに予想外すぎてびっくりを通り越した。なんだその事件。


「俺も昨日の夜に偶然見つけたんだが……見てみろ、このページ」


 そう言って圭一はポケットからスマホを取り出した。少し操作した後、画面を俺の顔の前に向けると……そこには、妹の画像が載っていた。


「『高校一年生、倉橋すみれです! カフェROODルードでバイトしてるよ。お小遣いほしいなあ。ホ別苺でいいお金持ちの方、お待ちしてます』……? なあ、これどういう意味なんだ?」


「……要は援交の呼びかけだと思う」


「おい」


「俺にすごむな。おまえの妹がアップしたわけじゃないだろう、たぶんな」


 と言っても、フルネームで写真付きで載っているのはなぜなのか。


「じゃあいったい誰が……」


「わからないけど、おまえの妹に妬みや恨みを持ってる近しい誰かか、もしくは愉快犯か、じゃないかねえ」


「………………」


 圭一の発言に反論すらできない。あいつが他人から悪意を向けられることは……俺が知る限り、今までなかったのに。

 とにかく、これは立派な個人情報だ。このままにしてはおけない。


「まあ、もし対処に困ったら、オザコーに相談するなりなんなりしてみたらいいんじゃないか?」


 オザコー先生……俺たちの担任だ。そうだな、正直なところ、どうすればいいのかわからないから、それもいいだろう。


「圭一、教えてくれてありがとうな。ところで……」


「どうかしたか?」


「おまえの妹の美佳さんは、このこと知ってるのか?」


「もちろんだ。だが、『余計なことは誰にも言うな』と口止めはされてるから、他にはおまえにしか伝えてない」


「……そうか」


「ああ、とにかく対処は早めにな」


 忠告してくれたクラスメイトに感謝である。だが――――疑問がまだ残っている。


「あと、どうしておまえはこのことに気づいたんだ?」


「………………」


 ――――しまった。この追及はすべきではなかったかもしれない。でもな圭一、おまえは受験の追い込み期間になにをやってるんだよ。美佳さんが泣くぞ。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


 まずは、妹に恨みを持つ人間がいるのかどうか、それを探らねばならない。

 さて、どうする……などと考えていると、昼休みの俺のクラスに、思わぬ来客がやってきた。――――悪友三羽カラス。


「お兄さん……ちょっと、いいですか?」


 深刻そうにそう呼びかけてくる真希さん。見れば、美佳さんも瑠璃さんも笑顔はない。俺はそれを見て、話の内容を理解した。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー


「――とにかく、誰かが悪意からやったことは間違いないよな、あの出会い系サイトの書き込みは」


 場所を本校舎一階、階段下の目に付きにくいスペースに移し、立ったまま会話する俺たち四人。端から見ると奇妙な光景だが、目につかなければどうということはない。


「それに間違いないですねー」

「ええ……すみれちゃんがそんなことするわけないです」

「世界が滅んでもありえませんわ」


 三人とも、悪友ではなく親友の顔をしていた。俺と同じ気持ちであろう。


「うーん、だが問題は誰がそれをやったか、ということだな。心当たり……みたいなもの、ある?」


 そう問いかけると、三人は一斉に黙り込んでしまう。心当たりがないのか、あるけど言いづらいのか、どちらかは表情からは読みとれない。


「……すみれっちって結構気遣いするから、嫌われないんだよねー。あたしはわからない」


「そうだね……少なくとも、わたしたちのまわりにはいないと思う」


「となると、わたくしたちから離れたところから一方的におとしめているのでしょうか……なんて卑劣な……」


 しばらくの沈黙をはさみ、三人が立て続けに口を開く。確かに卑劣だ。このままでは、誰がやったのかなどと推測すらできない。


 だが、ひとつ納得がいくことがあった。最近の妹が、『やたらと視線を感じる』と気にしていた原因は……このサイトのせいだろう。


 これはやばい。こんなサイトをチェックするようなやからは、間違いなく十八禁なアレやソレが目的に違いない。かなり深刻に貞操の危機ではなかろうか。


「……ところでだ。すみれのやつは、このことを知っているのか?」


 俺は三人にそう問うたが、三人とも首を横に振るだけだった。


「そうか。知らぬが仏、とはいかないか……被害が出る場合は本人だけが対象だろうから、悩むな……」


「そうですわね。でもすみれさんは意外と繊細ですから、このような悪意を向けられたことにショックを受けてしまうかもしれませんわ……」


 瑠璃さんの発言に、美佳さんと真希さんも頷いている。


「すみれちゃんに伝えるならば、お兄さんからがいいと思いますので、判断はお任せしますね」


「うん。あたしたちも、すみれっちにヘンなヤツが近づかないように、注意して見てるよー!」


「……ありがとう」


 俺は自分のスマホで、圭一に教えられたサイトを開いてみる。……ブロックされないことに今だけは感謝。

 改めて妹のページを見てみるが、写真付きという手の込みようだ。


「……これが問題のページだ」


 三人に見せてみると、しばらく考え込んでいたが、真希さんが閃いたようである。


「背景からして、学校の講堂前で撮った写真じゃないでしょうか、これは」


「あ、そういわれてみればそうだねー。ってことは、目線も合ってないし、隠し撮り? それができるということはつまりー……」


「犯人は、校内の人間の可能性が高い、ということですわね。しかもこの写真、夏服ですわよ……」


 真希さんの推測をもとに展開された美佳さんと瑠璃さんの意見に、俺も全面同意である。講堂前での隠し撮りは、一般ではまず無理だろうし、夏服と言うことはだいぶ前に撮ったということだ。慌てて準備したわけではないだろうな。


「ということは、だ。かなり前にさかのぼってから、校内の人間に恨みを買ってる行動をしたかどうか、を考えるところからか」


 俺が提案すると、三人はお互い顔を見合わせる。


「ありえそうなのは、振られた男の誰か、かなー?」


「振られた男の子と仲良かった人の線もあるんじゃないかな……すみれちゃん、伝説作っちゃったし」


「……絞れないくらい、対象者が多すぎませんこと?」


 不本意にも頷くしかないわけだが、俺はどうにもムカッ腹がおさまらない。この悪意ある相手に一泡吹かせられないものか……


 ――――――あ、閃いた。


「これ、ひょっとして連絡入れてみたら、これをアップした相手が返信とかしてくれないのかな?」


「「「…………え?」」」


 三人にあきれ顔をされた。でも気にしないで続ける。


「この文章からして、『お金持ちの方』ってわざわざ書いてるのが気になったんだ。思わず連絡したくなるメッセージ送れば、返信がくるかもしれない」


 三人のあきれ顔が、『なるほど!』に変わった。諸刃の剣でもあるおびき出し作戦だが、本当に同じ学生相手なら、なんとかなる気もする。


「うーん、でも、思わず返信したくなるメッセージって、具体的にはなんですかー?」


「……例えば、『大金用意します!』とか、かな? 少しでも賢い人なら、スルーするとは思いますけど……」


「こんな浅ましい書き込みをして他人を中傷するようなオマヌケ様なら、食いついてくるかもしれませんわね」


「でも、たとえ食いついてきたとして、そのあとはどうするんですかー、将吾お兄さん?」


「そりゃ当然、一発ぶん殴る」


 拳を握りつつそう言ったら、受験前にそんなことやっちゃダメ、と三人に止められた。だが、腹が立つこと甚だしいのも事実なので、とりあえず俺はおびき出すようなメッセージを送ってみる。


 ――――どうやら相手は、スルーもできないオマヌケ様だったらしい。すぐ返信が来たのだ。

 こりゃ罠だな。高校一年生とか、大人が手を出したらガチ犯罪だ。相手は、たぶん何かしらのオマケも考えているだろう。


「『今日の夕方、すぐ会いましょう』だとさ。……さて、結構危険かもしれないが、どうしようかね」


「「「…………」」」


 危険だとわからないわけではなかろうに……三人が、すごく悪い笑顔になった。きっとみんな怒っていたんだろう。


「……よし。できるだけ安全に、一泡ふかせてやろうか。ちょうどいいから、この四人で連絡用のラ〇ンのグループ作らないか?」


 三人は同意してくれた。そうして新しいグループを作ったところ、階段上から声が飛んでくる。


「あー! 兄貴こんなところにいた! オマケにみかっぱちゃんもマキちゃんもディーちゃんまでも! みんなで何やってるの! なんかいやらしい!」


 ……おおう、なんというタイミングだ妹よ。


「いやらしいって言う奴がいやらしいんだぞー、すみれっち」


「ふふっ、すみれちゃんは普段何を考えているのかな?」


「まったく、品というものがありませんわね。わたくしたちをオマケ扱いまでなさって」


「うるさーい! わたしだけがのけものはいやだよー!!」


 悪い笑いが苦笑いに変わった。こいつの空気を変える力は、本当にあなどれない。――が、三人のあしらい方もさすがだわ。


「……あ、おまえ今日はバイトだったよな?」

「うん、いつも通り四時から七時まで」


 悪巧み遂行のため、妹に本日の予定を確認しておく。よし。ならば、バイト先にいるうちはこいつに危害は加わらない、な。


 さてさて、どんな相手が出てくるのやら。……たとえ誰だろうと、簡単に許されると思うなよ。



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