それは唐突に
それはただのシステムであった。観測者の声なき思いを、ただ忠実に実行する質量なき機械。淡々と観測者の要望通りに世界を創っていくシステム。ある時は生物を創り、ある時はその生物を創る、そしてある時は災害を起こした。すなわちそれは世界にとっての創造神の代行者であったし、死神の代行者でもあり、世界の運命そのものでもあった。
そう
そのはずだったのだ。
すくなくともそれには意志などなかったし、感情などもなかったはずである。
ましてや肉体など持ち得るはずが無かった。
所詮それは観測者の代行者。自らの欲望を叶えることなどできないし、まずもって欲望という感情そのものが存在しなかった。
しかし
他ならぬ観測者が思ってしまったのだ。
「こいつに自我と肉体をつけたらどうなるだろう」と。
★★★★★★★
(これは……?)
気づけばそれは暗闇の中にいた。
(私に……意識が芽生えた……?)
(これは…疑問……感情?)
(そしてここは……)
それは気づいた。自分が人間の身体を持ったこと。自分に人間という機能を持ったこと。そして、自分はまだ生まれておらず……未だ母体となる人間の胎内の中であることを。
(主よ……説明して下さい)
それは観測者に問いかける。しかし答えは返ってこない。
(そういうのはいいです。はやく。説明を)
しかしそれの声は届かない。当然であろう。今のそれは人間なのだ。神たる観測者の声が答えとして返ってくるはずがないのだ。
(はぐらかさないでいただきたい!!)
………うるさいぞ。
少しは自分で考えるということをしたらどうだ。
(ようやく返事が返ってきましたね。そして私が思考を止めたことなどありません。貴方達観測者は私が人間の機能を持たせた時、人間としてどう生きていくか興味があるのだと結論づけましたが、間違いはありませんか)
そうだ。
君は中間点。神たる余の思いを汲み取りそれをこの世界に反映してきた。余は君を動かすことができるが、この世界では余自身は何もできない。
(なぜ、と聞いても良いでしょうか)
それは、面白そうだからだ。我ら観測者は日々退屈している。
世界の運命そのもの、森羅万象を掌握している君が、その世界に降り立ったらどうなるか。
敵を圧倒的力でねじ伏せる快感、自分の感情を理解できない困惑、善と悪の境界への錯綜、そういう君が見たいのだよ。
(それは……)
そう、そして我らは今まで命令通りのことしかしなかった君が、今更好きに生きろと言われた時何をしていいのかわからないその葛藤も、また見たかったのだよ。
(ですがわたしにはその期待に応えられる自信がありません)
君がどんな結果になろうと私たちは気にしないさ。まぁ、少しばかり干渉はするがね。
では検討を祈る。
余は常に観測者として記録していこう。
(それはつまり…)
観測者は応えない。
話すべきことはもうすでに話し終えたからである。観測者はそれの人生そのものに期待していた。
(……そういうことですか。わかりました。努力はして見ます)
そうして数日後、それは世界に生まれ落ちた。
死と生。
運命そのものを背負って。