6「風魔法の使い方」
「......いい?風魔法はただ力込めてりゃ強力なのが打てるってわけじゃないの。
そんな簡単に使いこなせるわけないんだから焦らずじっくりにね」
「ぜはーぜはー。何だこれ風魔法ってコントロール難しすぎだろ。
しかも炎と光はこれよりもっと扱いにくいのかよ...。」
「適性レベルが低けりゃどんな魔法でも難しく感じるわよ」
風魔法の練習開始からわずか十五分。
気付けば汗腺という汗腺から汗が流れ落ち、肩で息をしてる自分がいた。
先に言っておくがこれといって特に激しい運動はしていない。
さっきからひたすら風魔法を連発しているだけなのだが
これが走り込みの方がまだましに思えるほどにキツいのだ。
日本ではこんな疲れたことはないし、こんな疲れ方をすることはなかっただろう。
俺が何言ってるかわからない人たちに説明すると、
魔法を使うと体は疲れないのに
頭が極端に疲れて、汗が出て息が乱れるという変な疲れ方をするのだ。
普通の暮らしをしていたらまずこんな疲れ方はしないだろう。
「はいMポーション。これ飲んだらさっさと練習!」
そこには以前、鍛錬は程々でいいと言っていたフーの姿はなかった。
あとこれも不思議なのだがこのMポーション飲んでも飲んでも腹に貯まる感じがしない。
この世界に来てから不思議なことばっかだ。あぁ、日本恋しいなぁ。
...さてと練習を再開するかねっと。
「ねえ、先生気になったんだけどさ」
「ん、何?」
「風魔法でどういう風に攻撃するの?やっぱ真空波とか作るの?」
よく風魔法はかまいたちとかの影響で真空の刃みたいな扱いを受けているが、
どうやら実際には迷信らしい。
まあ、普通に考えて風でスパスパ物を斬れるわけないしな。
でもこの世界では違うかもしれない。ていうか違ってくれ。
だってそっちの方がカッコいいじゃん。夢があるじゃん...ね?
「そんなもん作れるわけないじゃない。風魔法なんだと思ってんの?」
「空気とか圧縮したりしてさ...」
「...そんなことしてる風魔法使いは知らない」
非常に残念だよ先生。...え、じゃあ本格的に風魔法って何の役に立つんだ?
「風魔法ってのわね...こうやって攻撃するの!」
俺の扇風機風魔法なんかより何百倍も凄まじい威力の風が吹き荒れる。
反射的に顔を塞いでしまったのでどういう方法だったのかはよく見えなかったが、目の前の的は確かに真っ二つになっていた。
「え、的真っ二つじゃんか...どうやったの?」
「...今の見てた?砂を勢いよく飛ばして斬ったの」
少し疑いながらも的の斬れ跡を触ってみると確かに砂が付いていた。
砂を飛ばして斬るね...なるほどそういう使い方をするのか...。
上手く応用できれば戦闘の幅が広がるかもしれないな。
「他にも煙を払いのけたり、風で空を飛んだりなどなどね」
「まあ、だいたいそんな感じだよなー」
「とにかくまあ練習再開~」
「え、まだちょっと休憩してたいんだぁぁぁぁあああああああ!!!???」
言い切る前に風で吹っ飛ばされた。もうやだ先生怖すぎ。
俺泣いちゃうよ?ねえ泣いちゃうよ?
「やれ」
送られたその視線は7歳の...本当に風魔法の使い手なのか?
あんた本当は氷魔法使いなんじゃないの?と疑いたくなるほどに冷たいものだった。
「はい」
現実にはい以外の返答が出来なくなる場合があるんだな。よくあるRPGかよ。
そこからは無心で魔法を打ち続け、魔力が切れたらポーションを飲みを繰り返した。
前は飲むのですら嫌だったのに今ではこれを飲むためにまで魔法を打っている自分がいる。
だってうまいし。まあ見た目あれだけど。
ゴレ一号はずっと応援してくれていた。
本当可愛いやつだ。あぁ、俺の癒しはお前だけだよ...。
ふと空を見上げるともうすっかり夕方になっていた。
「よし、今日はここまでね。まあ少しだけよくなったとは思うよお疲れ様」
「オツカレ、マスター」
「はぁはぁ...ありがとう...ございました...だぁ...」
「...ねぇ気になったんだけどさ」
「ん?」
「あんたなんでそんなに魔法の練習を頑張るの?」
「う~ん強くなりたいからかな」
「質問を変えるわ。なんで強くなろうと思ったの?」
おぉ、なんかグイグイ来るなこの子。
「普通に護身の為かな。俺一度死にかけたことがあってさ」
「...あ~なるほどね。よくいる魔王討伐が夢の人かと思ったわ」
「あ、やっぱこの世界魔王いるんだ?」
「いるに決まってるでしょ。ユウタは本当に何も知らないのね」
多分『アイツ』は魔王とかそういうレベルの存在だろうしな~。
まあ色々情報を集めといて損はないだろう。
『アイツ』はできれば殺したいけどなんか周りに言うのはちょっとな...。
普通殺したいやつがいるとか言いたくないだろ。
「で、その魔王って何て名前なの?」
「どの魔王のこと?」
どの?...まさかと思うが
「え、魔王って複数いるの?」
頼む、思い違いであってくれ。魔王が複数いたら流石に厳しいんだが。
「もちろんいるわよ。あんた本当に何も知らないのね」
「あはは...ちなみに魔王って何人いるの?」
「ざっと100ね」
あ、これは詰んだかも。もともとが詰みだったけどさらに詰んだ臭いぞこれ。
これは本格的に日本に帰れない覚悟を決めた方がいいな。
...いや、決めれるわけないな。
「じゃあさ、その魔王の中でずば抜けて力のあるやつって誰?」
「んーヴォルドグじゃないかな。
100いる魔王の中で最強の魔王と言われているわ」
「へえ」
ん~多分そいつが俺達をこの世界に引っ張り込んだと考えて間違いないだろうな。
名前からしてラスボスっぽいし。
「とりあえずもうそろそろ夕飯の時間だから帰るね」
先生は風魔法で飛んで帰っていった。...見せつけたかったんだろうな。
「うん、バイバイ」
よし、じゃあ俺も帰るか。ゴレ一号の背に乗り、家に帰った。
もう歩くのもキツイ。
《次の日》
フー先生がまだ来ていないのでゴレ一号と実戦の練習をすることにした。
「んじゃ、やろうか」
「リョウカイ...」
やっぱりゴレ一号は基本的な能力は俺よりも圧倒的に高い。
でも製作者の俺が戦闘慣れしてないせいか動きが単純という欠点をつい最近見つけた。
「サイキン...ヨケテバッカ...」
そのせいで動きを先読みしてよけれるようになってきた。
はたから見たら俺アクション俳優みたいなんじゃないだろうか。
「動きが単純すぎるんだよ。もっと相手が避けることも予測して」
「リョウカイ...」
途端に重たい一撃が体の芯に入る。
そこから俺は全く躱せなくなった。完全に俺調子乗ったな。
「ぐはっ!!!ちょ...ごめんごめんストップ!」
そうだこいつ結構学習能力も高いんだった完全に忘れてた...。
「お~お~やってるね」
木の陰からフー先生が出てきた。
「あ、おはよう」
「今日はあたしと実戦練習ね」
「...よ、よろしくお願いします」
ー-----------------------------------------ー---ー
《レベッカ宅にて》
「ん?」
部屋で2度寝をしていたら突然何かが爆発したかのような音が聞こえた。
それもかなり近くで。急いで一階へ降りて見ると隠し牢屋の壁が半壊していた。
「まずいわね...」
案の定隠し牢屋の中はもぬけの殻だった。
前にスグル君たちが連れてきたあの顔の濃い人さらいに逃げられた。
今日王国に引き渡すつもりだったのにしてやられたわね。
ユウタ君みたいにまた誰かが危険な目に合うかもしれないし
すぐにでも村の皆に注意を呼びかけましょう。
...ただ人さらいに逃げられた。
それだけのはずなのになんだか嫌な予感がするわね。
杞憂に終わるといいんだけど...。
『アイツ』は最初の人魂のことです。