4「エル・フー」
帰ってスグルさんの借家で昼ご飯を食べた後、外で魔法の練習をすることにした。
まずは普通に使えるよと言われた雷魔法、土魔法、召喚魔法の練習から始めよう。
攻撃魔法は威力よりも発想が大事みたいで、
単純な威力が高いやつよりも応用力の高いやつの方が戦闘を有利に進めることができるそうだ。
どこの世界でもどんなものも使い道次第なのは一緒みたいだな。
俺は別に『アイツ』を倒したいわけじゃない。
いや、倒せるものなら倒したいけど多分無理だし。
転移の時あんなに叫んだ手前なんなんだけどやっぱり怖いし...。
まあどうせ他のチート能力を手に入れたやつとかが倒してくれるさ。
じゃあなんで魔法の練習なんてするのかというともちろん護身の為である。
この世界はかなり物騒なのだ。実際俺は死にかけたしな。
だから自分の身を守れる手段を増やしておくに越したことはないだろう。
ではまずは雷魔法からやってみようか。
電気出ろ、電気出ろ、電気出ろ!
手の平から雷特有の白いギザギザがバリバリと音を立てて的へと
一直線に飛んで行った。
的に狙い通り命中し、黒く焦げて煙を上げる。
...うん、まあまあ威力もいいな。風魔法と違って使いやすいし。
これはメインで使っていくことになりそうだな。
よし、ここからたくさん使い方を考えていこう。
そうだな...アニメとかだと魔法を自分に纏わせて身体能力を上げる技があるな。
よし、それ試してみるか。
ちょっと弱めに電気出ろ!
「っばばばばばばばばば!!!」
結果は失敗、滅茶苦茶痺れた。念のため威力を弱めておいて正解だった。
最初の威力のまま纏おうとしていたら確実にお陀仏だっただろう。
まあ、普通電気を纏おうとすればこうなるか。
もっと他の方法を...あ、そうだ!
俺は土魔法で小手を作り、自分の手にはめる。
「...」
初めてにしては悪くない出来だろう。ちょっとゴワゴワするけど。
そして雷魔法で適当な武器を作る。とりあえず無難に剣にしとくか。
やっぱファンタジーは剣と魔法だもんな。
うん、土の小手のおかげで全然痺れない。
大丈夫そうなのでもう少し出力を上げてみる。
試しに一振りすると的どころかその後ろの木も真っ二つになった。
「うへぇ何だよこの威力...」
よし、土魔法でも武器を作ってみるか。さっきと同じサイズの剣を作る。
そしてもう既に真っ二つになっている木に向けて思い切り振りぬく。
木には大きな損傷ができた。だがそれは斬れ跡ではなく、打撃跡だ。
めちゃくちゃべっこり凹んでいる。
...土魔法で作る武器は鈍器みたいな使い方が向いてるな。
魔法の出力を上げるとより硬くなるし。ハンマーとか斧とか盾あたりがいいかもしれない。
この魔法武器結構いいアイデアなんじゃないか?武器買う必要ないし。
でも重たすぎて動きに隙が出来過ぎるのが難点だな。
子どもの俺じゃあんま使いこなせなさそうだ。
それから三十分くらいぶっ通しで攻撃魔法を色々使い方を変えて試していたら
足から崩れ落ちるかのようにドサッと倒れた。
意識はあるのだが全く動けない。体のあちこちが痙攣する。
筋肉痛みたいな痛みがするが、どことなく違う感じだ。何だこれ。
もしかして魔力切れとかかな?
もうやだ異世界きてから俺こんなんばっかじゃんかよ...。
ああ、日本恋しい食わせろ白米。
「あの...大丈夫?」
「うん、なんか魔法の練習してたら動けなくなってさ」
地面に突っ伏したままそう答える。我ながらかっこ悪いなあ。
「それ多分魔力切れ...家からポーション持ってくるね」
やっぱり魔力切れか。結構長い時間使ってたからな、仕方ないな。
よし、次からはもっとペースを考えて使おう。
いざって時に動けなくなったら元も子もないしな。
それにしてもポーションか。まさか現実でポーションを拝める時が来るとはな。
少しして急ぎ気味の足音と、容器の中で揺れる液体のタプタプ音が聞こえてきた。
さっきの子が戻ってきたのだろうか。
「ごめん、遅くなった」
「いやいやそんなことないよ」
「とりあえずひっくり返すね」
「ありがとう」
そして俺はゆっくりとひっくり返された。
仰向けになっても空しか見えない視界からひょこっと女の子の顔が飛び出してくる。
「おぉ!?」
びっくりしたのは突然顔が出てきたからではない。
俺はこの子のことを知っていて、それをこの目で見れたことに驚いたからだ。
白い肌に、若い見た目、そしてとんがった耳。
...もうわかり頂けただろうか。彼女は人間ではなかったのだ。
けれど僕たちファンタジー大好き人間の殆どがこの子が何者かを知ってる。
「?...顔に何かついてた?」
「あの~君ってもしかしてエルフ?」
「うん、そうだけど?」
そう、彼女はエルフだったのだ。見た感じ7に歳ぐらいの。
兄ちゃんがこの子見たらロリエルフキター!とか言うだろうな確実に。
「いや、実物を見たことがなかったから驚いちゃってさ」
「そうなの?エルフって結構いると思うけど?
どちらかというとあなたの着てる服の方が見たことないわ。
...まあいいや。とりあえずポーション飲んで」
彼女はちょっと大きめのコーラ瓶のようなもの取り出した。
その中には飲む気が完全に失せる毒々しい緑色をしている液体が入っていた。
吐き気を催させるまであるかもしれない。実際結構くる。
「あのこれって...毒?」
「どうみたってMポーションじゃん。まさかこれも見るの初めて?」
「うん、まあね...」
「...そう。動けないだろうしあたしが飲ませてあげるよ」
絶対に嫌だ。今まで特に食わず嫌いもしたことのない俺だったが、
あれはどうしても飲みたくない。なんか見た目が受け付けない。
「ごめん嫌だ」
「なんでよ。これ飲まないと一週間は余裕で動けないよ?」
「いやこれ飲んだらもう一生動けなくなりそうなんだけど!?」
「うだうだ言うな!男でしょ!飲め!」
彼女は俺が動けないのをいいことに強引に口を開き、
ふたを開けて瓶の吞み口を突っ込む。俺はそれをうっかり飲んでしまった。
「んがが!?」
...なんか意外と美味しかった。ちょっと酸っぱいけど全然いけるわこれ。
そう思うや否やそのまま残りも全て飲み切った。
それとともに謎の痛みも消えた。
「美味しい...」
「ね?大丈夫だったでしょ?」
「うん、なんかごめん」
「わかればいいのよ」
そういってふふんと腕を組みドヤ顔を決め込んできた。
生意気な態度にちょっとだけ腹は立つが、まあ助けてもらったのだから礼ぐらいは言っておこう。
「助かったよ本当にありがとう」
「どういたしまして。あと鍛錬もいいけど程々にしなさいよ。
服もボロボロじゃない」
いや、服の傷は別の時につけられたものなんだけどな。
ふとあのゴブリン(仮)が頭をよぎる。
あぁ、思い出したくないもん思い出しちゃったじゃんか...。
まさか年下に説教されるなんてな。
いやでも、エルフだし見た目以上に年くってるってこともあるかもだけどさ。
本当に異世界ってのはよくわからんことばかりだ。
「ちなみにMポーションは魔力が減ってない時に飲むと
収まりきらない魔力で体のどこか一部が弾け飛ぶから注意してね」
おいアイツ去り際にとんでもないこと言ってったぞ。
そういうことはもっと早く言えよな。知らずに飲んだらどうすんだよ。
「あ、ちょっと待って!」
「どうかした?」
「俺東裕太っていうんだけど君の名前を教えてくれないかな?」
生意気でも恩人。受けた恩は返さないとな。
一応名前ぐらいは知っておこう。
あ、レベッカさんにもスグルさんにも恩返ししなきゃな。
「フーよ。今日で7歳になるわ。
じゃ、そろそろ夕飯の時間だから帰るね」
え、嘘アイツ年下だったのかよ。
ボーっと立ち尽くす俺に掛けているのかは知らないが、
さっきから烏のアホーアホーという声がひどく耳障りだった。