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70億の異世界来訪者  作者: Slime
アズマ・ユウタ 1
2/18

2「救いなんて」

まあ、こうして今に至るというわけだ。



転送させられてすぐ森の探索を進めていくうちに、見たことのない植物や

人間以外の長時間二息歩行できる動物なんかと出くわす内にここは

異世界ということを認めざるを得なくなってしまった。



まあ、多少はサバイバルの心得があったからこうして何とか飯にはありつけている。

小1の頃からずっともしも遭難したらどうしようとネットでサバイバルの知識を調べていたからな。



ビバきりもみ式火おこし。ビバ石包丁。先人の知恵は本当に偉大である。

まさかこんな状況で実演するとは思わなかったけどなハハハ!......はぁ。



取り敢えず明日にはそろそろこの森から出ようと考えている。

人が集まって暮らしている所を探すため、そしてあわよくばそこに住まわせてもらうためだ。



だから少し早いが今日はもう寝ることにした。

体力を少しでも回復させておかないといけない。

こんな時は無駄に体力を使わない。しっかりと休み、蓄えておくんだ。



え?だったら独り言も無駄に体力を使ってるだろって?

...それはいいんだよ、だって心細さを誤魔化ためだもの。

無駄じゃない無駄じゃない。



「おやすみなさい」



当たり前だが返事も寝床もない。いや、この硬い地面がマイベッドとでも言おうか。

熟睡とまではいかないが寝れるだけまだましだと最近は考えるようになってきた。

あぁ、体痛え、羽毛布団が恋しいぜ...。



そんなことを考えている間に俺は眠りに着いた。

ここのところ色々あったせいかすぐに寝れるようになったのだ。






木々の隙間からほんのわずかの木漏れ日が顔に差し込んできた。

どうやら今日も無事に朝を迎えることができたようだ。



ホッと胸を撫で下ろし、今日という日に感謝する。



日本ではこんなこと絶対にしなかったが、ここは異世界。

冗談抜きでいつ何が起きるか全くわからん。



寝てる間に他の動物の胃袋にいても、

盗賊なんかに身ぐるみはがされていても何も不思議ではないからな。



俺は近くの川で顔を洗い、水を飲んで、着々と探索の準備を進めていく。


「よし」


そして、俺は近くにあった一番大きい木に登り始める。

決して気が狂ったわけじゃない。安心してくれ。

ただ高いところから現在地の確認がしたかっただけだ。



木の上からの景色は、見渡す限りの木である。

絶望した。これは完全に詰んだ。



...と思っていたその時だった。


「ん?」


視界の端っこギリギリに何かが見える。あれは...屋根?

家だ!向こうには間違いなく家がある!

しかも何件もだ。俺知ってるぞ、ああいうの村って言うんだ!



すぐに木から飛び降り、村と思わしき場所の方角へ全力で走って向かう。

体力温存なんて知ったことか。俺は今すぐ人に会いたいんじゃい。



「ついに村だ!やっと村だ!人がいるんだ!」



嬉し涙がこぼれる。なんか俺泣いてばっかだな最近。

まあ状況が状況だし仕方ない。



もう肩に刺さってるナイフなんて気にならないくらい!!

...ん?肩に刺さってるナイフ?



俺の左肩にはいつのまにか小さなナイフが刺さっていた。

既に地面に垂れる程に血が流れていた。



「...!」



すごく痛い。刃物の危なさを身を持って体験した。

そんなことよりこれはどこから?誰が?何のために?



すぐさま別のナイフが飛んできた。今度は足に刺さる。



「あああ!!!」


「ケケケ!」



声のする方を見ると、どこかで見た気味の悪い緑の肌。

人間のそれではないでっかい鼻ととんがった耳。そして小柄でやせた体。

間違いない。あいつは一昨日のゴブリン(仮)だ。

逃げ切ったと思っていたのだが...本当しつこいなあ。



そのままゴブリン(仮)は俺との距離をじりじりと詰めてくる。怖い。

昨日俺が食った鳥っぽいやつもこんな気持ちだったのだろうか。



そんな走ってもいないのに急に汗が頬を伝う。

これが獲物の気持ちか...。



その汗が地面に落ちた瞬間、ゴブリン(仮)は飛び掛かってきた。

情けないことに躱せなかった俺はそのまま押し倒され、

羽交い絞めされる形となった。


「ぐっ!」

「ケケ!」


石包丁で応戦しようと思ったが、すぐに取り上げられしげみへ投げ捨てられてしまった。

なんか行動する度どんどん状況が悪化していく気がするんだが?



こんなことなら武術の1つでも覚えておくべきだったな。

ヤバいヤバい本当にどうしよう。



肩に刺さっているナイフを抜かれそして刺され、俺はめった刺しにされている。

何度も何度も骨に刃がガリガリ当たる。



マズイマズイ。考えるまでもなく命の危機!


「ケケケケケケケ!!」


「ああああああああああああああああああああああああああっ!!」



物凄く痛い。ナイフで刺されるなんて初めてだ。

痛い痛い痛い痛い!!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死んでしまうぅうう!!!

血が飛び散る。どんどん体から力と一緒に抜けていく。



逃げ出したかったが、痛みと乗っかっているゴブリン(仮)がそれを許さない。

どけ!どいてくれ!まだ死にたくない!死にたくない!



ああ...。



獲物はいつだって非力だ。だから狙われるのか。

弱いって悔しいな。こんな簡単に死にそうになるのか。



もうダメだ。死んでしまう。終わりだ。



「ケケケケケケケケケケ....」



もう死ぬのかと思ったが、神は俺を見放さなかった。



ゴブリンはバッティングされたボールのように吹っ飛び、

近くの岩に思い切りぶつかり、水風船のごとく破裂した。

花火のように弾ける血しぶきに思わず息をのんだ。

...ゴブリンの血も赤いんだな。



ゴブリンの死体...かもよくわからなくなったものは、確実に良い子には見せられない程にグロテスクな感じに体があっちこっちにバラバラになっていた。俺はなんとか吐き気を抑える。



見上げると、大柄のでかいハンマーを持った男が豪快に笑っていた。

着てるものから察するに異世界の住人なのだろう。

多言語翻訳バイリンガルが効いているようで彼の笑い声が吹き替え映画のように聞こえる。



助けがきたのだ。まるでアニメみたいなタイミングでだ。

こういうの実際にあるんだな。



そして三日ぶりに人に会えたのだ。自然と目から涙が零れる。



「おい、お前大丈夫...そうではないよな」

「お願い..しま...す...助けて...下さい」



この機会逃してたまるかと、もう少しでプツンと切れてしまいそうな意識の中

俺は最大限必死に助けを求めた。



「...なんで俺がお前を助けたかわかるか?」

「......?」



ん、何言ってんだこの人?



「お前を売って小銭稼ぎするためだよ。

 だから一応手当ぐらいはしといてやるぜ感謝しろよ小僧!」


ああ、やっぱり神様は俺を見放していたんだな。

瞬時に嬉し涙は悲しいときに流れる涙に変わる。



俺が何したっていうんだよ神様!

ここまで上げといて下げるってそりゃないよ!



彼の優しそうな笑みが逆に一瞬で恐怖の塊に変わる。

まさかのコイツ人さらいパターンかよ。

今そういうの求めてないよ神様!


本当、異世界って何が起こるかわからないわ。


そして俺はこの時一つ学んだ。この世界は優しくない。

こういうピンチの時の救助なんてくるわけがない。

きたとしてもとんでもなくレア中のレアケース。



これは現実なんだ。アニメみたく都合のいいタイミングには来ない。



畜生、ヤバいもう意識...限界..なんだ..が...。

痛..い...苦しい...。


「ぐ...クソ..が...」



どんどん真っ暗になっていく目の前。

ついに目までおかしくなったのか、完全に視界が閉ざされる前に

ハンマー人さらいが白目向いて後ろのめりに倒れた気がした。



...異世界来訪からまだ4日目なのに俺はどうなってしまうのだろうか。

ほとんど諦めに近い不安を抱き、俺は意識を失った。


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