14「制御不能」
受験勉強があるので格段にペースが落ちています。ごめんなさい。
昼になると腹に結構重たい蹴りが飛んできた。
「ぐふはぁ!?」
耐え切れずに目が覚める。...ああ蹴りの犯人は馬鹿兄弟か。
二人共軍にスカウトしたいくらい痛かったぞ...ったく。
「いつになったら起きるんだよ!待ちくたびれるわ!」
「そうだぞルスランさん。昨日約束したじゃないか。
さあ、早く手合わせだ」
「まあ先に約束したのは俺なんだけどね!」
おお、おお、兄弟揃ってお怒りの様だが怒りたいのはこっちだぞ全く...。
次からはちゃんとゆすって起こせ。ゆすって。
「痛てて...わかったわかった、ちょっと待ってろ。すぐに準備するから」
「...じゃ、俺たち先広場行って待ってるから」
「すぐに来るんだぞ」
「はーい」
まだ痛む腹を抑えて、また遅めの朝食を取り、
昨日スイアンさんに頂いた斧を担いで広場に向かう。
なんかここのところ夜遅くに寝たりガブガブ酒飲んだり
生活リズムが乱れてる気がするな...。
いかんいかん。今日の夜は早く寝よう。
ちなみに今日の朝食は昨日の宴会で残った異世界の魚『エヒ』の煮つけだった。
魚のはらわたを混ぜ合わせた味がする。好みは分かれるだろうが骨まで食べれて健康にすごくいいらしい。俺は結構好きな料理だった。
広場に着くとソルドとシルドがもう既に手合わせをしていた。待ちきれなかったんだろうな。
...どうやら今日の手合わせはシルドの勝ちみたいだ。腹の立つ勝ち誇り顔をしている。
「今日は俺の勝ちだね!」
「...あいつにわざと聞こえるように大声で言うな!」
ははは、あの兄弟も相変わらずだな。
「おーおー待たせたな。悪い悪い」
「ルスランさん。いや違うんだこれは今日はたまたま調子が悪かっただけで...」
「本当だよ!じゃ約束通り手合わせね!」
「よし、じゃあ始めるか」
俺はスイアンさんに作ってもらった斧のカバーを適当な縄で結んでしっかりと固定して構える。
シルドはいつでもいいぜと言わんばかりの挑発的な仕草を見せる。
「では、両者構えて...始め!」
審判のソルドが手合わせの合図を出した瞬間俺の目の前からシルドの姿は消えた。
シルドが動いたわけではない。俺が動いたはずなのだがどうなっているんだ?
振り向くとポカンとしたシルドがいる。
「え、何してんの?」
「いや俺も何が何だか...」
もう一度シルドに攻撃するため最初より開いた距離を詰めるために
突進する。
結果はさっきと同じくシルドは視界から消えていた。
振り向くとまた何してんだコイツみたいな目でシルドがこっちを見ていた。
「...何で通り過ぎるだけで攻撃してこないの?」
「いや、なんか通り過ぎちゃうんだよ」
「じゃあこっちから行くよ!」
今度はシルドがこちらに突っ込んでくる。
斧で軽く振り払おうとしたがそれをシルドは大盾で受け止め...
そのまま凄い勢いでどっかへ吹っ飛んで行った。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁ......」
「おいシルド!」
「...?...?」
何が起きたのかよくわからなかった。
俺はただ普通に斧を振りぬいただけなのに、どうなっているんだ?
「ルスランさん流石にやり過ぎだ!」
「え?いや俺は...」
「とにかくあいつが飛んでった方へ向かうぞ!」
いつもクールぶってるソルドがおろおろした表情になっている。
どんだけ心配してんだよ。...当たり前かあんだけ飛んだんだもんな。
シルドの奴まさか死んでないよな?
「ああ、そうだな...」
そして全速力で走りだすと本日3度目のとんでもないスピードが出た。
足を止めるのも出来ないことはないが、速さが速さなのでかなり難しい。
「ルスランさ――――」
ソルドの声が聞こえなくなった。そして見えなくなった。
ああ、これあれだな。紋章の力がちゃんと制御できてないわ。
出したい力以上の力が出るというか何というか。
とにかくそんな感じがする。さっきの斧の一撃にしたってそうだ。
ソルドから離れてしまった。
まいったな、こんな力の扱いが不安定な時に1人にはなりたくなかったぞ。
これは速すぎる。
あっという間に森を抜けてしまって、ようやく足が崖のすれすれで止まった。
あと少しでも止めるのが遅かったら紋章込みのとんでもボディでも大怪我ものだったろう。
「...あぶな」
けど全く怖くなかった。
いや決して強がってるわけではないのだ。本当に恐怖を感じなかったのだ。
...これも紋章の力なのか?本当に何でもありだな。
「ぉ₋ぃ...₋」
シルドの声がかすかに聞こえる。多分これは紋章の力ではないな。
「だークソ!届かねえ!」
声のする方へゆっくりと近づくと高い木の枝にシルドがひっかかっていた。
あまり長くない腕が背中の枝に届かずにやきもきしている。
なんだよかった生きていたか。
...でもあの時もう少し力入れて攻撃してたらあいつ余裕で森抜けて
バンジーってことになっていたな。
「おーいシルド!すまない、かなりふっ飛ばした!」
「本当だよ。...まあ本気で戦って欲しかったから別にいいよ気にしないで」
「実はまったく力の調節が出来なくてだな...」
「あーそういうことね。ラスカーさんは昨日紋章貰ったばっかだから
まだ体が力の使い方をわかってないんだよ。こればっかりは時間薬なんだよなー」
おい何だよそれ聞いてないぞ。族長さん言ってくれよ。
いくら力が強くても扱いこなせなきゃ意味ないぞ...。
「時間薬ってことは何もしなくてもその内勝手に
体が力の扱い方を覚えるってことなのか?」
「そうだね。だいたい1、2か月ぐらいかな。俺も兄ちゃんもそのぐらいだったし」
「そんなもんなのか」
この二人も赤ん坊のときぐらいには制御できなかったんだろうか。
というかこいつらに限らず集落の子供たちも生後間もない頃は力の制御ができなかったんだなろう。...うわなんだそれ想像したくねえな。
「そんなもんだね。というか早く降ろしてよ」
「力加減を間違えて木倒さないか心配だな...」
「仕方ない兄ちゃん来るまで待つか...」
「本当にすまん」
しばらくしてソルドが心配そうな顔をして走ってきた。いい兄貴じゃねえか。
そしてシルドの無事を確認するとすぐにいつものすかした表情に変わった。
...俺の関心を返せ。
「無事そうだな」
「まあね。取り敢えず降ろしてよ」
「...ったく」
言葉だけ聞けばめんどくさがっているように聞こえるがその表情はどことなく嬉しそうだった。
こいつもしかしてツンデレってやつじゃないのか?
本当にソルドのキャラが掴めない。いいやつなのはわかるんだが。
「あ~やっと降りれた!二人ともありがとうね!」
「いや、俺は何にもしてないぞ。殆どソルドの活躍じゃないか」
「いいんだよ。ルスランさんだって来てくれたんだしさ」
また広場に戻って今度はソルドとの手合わせになった。
やめとけと忠告したが、やると言って聞かないので仕方なくだ。
「いや本当にやめておけって」
「シルドとも手合わせしたんだからいいだろう!」
「はぁ...わかった」
案の定シルドの二の舞になってしまい、また探す羽目になった。
ていうか避けろよソルド。シルドもだけどさ。
後から聞くと兄弟揃って真正面から力で勝ちたかったんだとさ。
やっぱし馬鹿だなこいつら。
助け終えた頃にはもう既に日が暮れていて、その後もなんやかんやあって今日は終わった。
この集落での生活は正直結構楽しい。
皆いい人だし、飯は美味いし一生住んでいたくもなる。
けど俺は家に帰りたい気持ちの方が大きい。家族にも会いたい。
だから今のままではダメなんだ。
俺以外のやつらはこんないい生活はしていないだろう。
その日食うものに困ってる奴らだっているはずだ。
少しでも早く『アイツ』を殺してこの生活を終わりにしないとな。
そんなことを考えながら俺は眠りに着いた。
ちょびちょび書いていこうと思います。